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夫の秘密、或いは妻の秘め事(4)

2014 07 31
いつものように、夫、秀人の帰りは遅かった。

簡単な夕食を一人で済ませ、希美子はゆっくりとシャワーを浴びた。いつも以上に肢体に熱を感じるのはどういうことだろう。それは、猛暑となった昼間の気温のせいではない。

柴田と名乗る医師との出会い。そして、彼から聞かされた夫の秘密。希美子はもうずっとそのことを考え続け、鼓動を高めている。それが、息苦しいほどの熱を希美子の全身に与えている。

あなた、本当なの・・・・・・・・

服を脱ぎ、全裸になった希美子は、戸惑いを洗い流そうとするように、たっぷりとシャワーを浴びた。官能的な曲線を描く人妻の肉体に、熱い湯が注がれる。

ああっ、気持ちいいっ・・・・・・・・

瞳を閉じ、その熱を浴びながら、希美子は心の中でその質問を繰り返した。柴田の語った話が、まだ信じられない。自分の夫がそんな秘密を抱えているなんて・・・・・。

しかも、その秘密に苦しみ、メンタルクリニックに足を運んだというのだ。その事実は、しかし、希美子に戸惑い以上の別の感情を与えるものでもあった。

そこまで苦しんでいるのなら、何とか救い出したい。希美子は、柴田の話を聞いたときから、夫を憐れむようなそんな情念を抱き始めている。

だからこそ、事実を確かめたい。果たして夫が本当にそんな欲望を妻に内緒で秘めているのか。柴田と共に練ったささやかな計画を実行し、夫の真実をこの目で確かめたい。

シャワーを終えた希美子は、濡れた肌を丁寧にタオルで拭った。依然火照りを感じたまま、希美子は裸のままの姿を鏡に映しだし、そこにいる自分を見つめた。

34歳の人妻の裸体がそこにある。まだ贅肉とは無縁な、十分に魅力的な肉体。希美子自身、そんなことを考えてはいなかったが、だが、自分自身のスタイルに不満はなかった。

この体が他の男性に何かをされることを想像し、夫は密かな興奮を得ている。屈折したそんな欲情を、希美子は理解することができなかった。そこに女性には見えない闇があるようにも思えた。

でも、夫を試すようなことが、私に本当にできるのかしら・・・・・・

昼間は、半分冗談を考えるような気分で、柴田と共にいくつかのプランを練った。だが、今、冷静に考えれば、どれもそれなりに危険をはらみ、希美子自身の犠牲を強いるものだ。

夫を救うためなのだ。希美子は、迷う自分自身に改めてそう言い聞かせ、鏡の中から視線を動かした。ワンピースタイプのナイトウェアを身につけ、希美子はキッチンに向かった。

冷たい水を飲み、テレビをぼんやりと見つめる。雑誌をめくったりもするが、どれも集中することができない。そんなこと以上にやりたいことがある。希美子にはそれがわかっている。

心のどこかで、希美子はささやき声を聞く。やめておいたほうがいい・・・・。そんなことはやめておいたほうがいい・・・・・・。しかし、そんな忠告を聞くほどに、希美子の決意は固まっていった。

意を決し、テレビを消す。夫はまだ1時間は帰宅しないだろう。静かに歩を進め、希美子は夫がいつも使っている狭い部屋の扉を開ける。

小さな簡易机の上に、夫が自宅で使用しているノートパソコンが置いてある。過去に一度も触れたことのないその端末に、希美子は少しためらった後、そっと手を伸ばした。

えっ・・・・・・・。マウスに触れただけで、すぐに画面が立ち上がった。パスワードで保護されていると想像していた希美子にとって、それは意外な展開だった。

鼓動を早めながら、希美子は玄関方向に耳を澄ませる。物音ひとつなく、夫が帰ってくる気配もない。希美子は大きく息を呑んで、椅子に座り、ディスプレイを見つめた。

インターネットエクスプローラーを立ち上げ、ホーム画面を確認する。ありふれた検索エンジンの画面がそこに現れた。希美子は無意識のうちに、お気に入りのリストを開いた。

特に変わったサイトは登録されていない。そもそも、登録されている数も少ない。夫は普段は職場で使っているパソコンで自宅でも作業をしている。このPCはあまり利用していないのだろう。

いったい何をやっているの、私は・・・・・・・

自分自身に戸惑い、嫌気がさすように、希美子は小さく首を振った。こんな風に夫の秘密を暴くなんて、フェアじゃない。希美子はそう感じ、椅子から立ち上がろうとする。

その直前、無意識のうちにマウスを動かし、希美子はお気に入りのすぐそばにある履歴のボタンを押した。その瞬間、希美子は浮かしかけた腰を、再び椅子に沈めた。

何、これ・・・・・・・・

それから約1時間、人妻は息を潜めて、そこに記録されていたいくつかのサイトにアクセスし、その内容を確認した。希美子のそれまでの人生の中で、全く縁のなかったサイトばかりだった。

写真、小説、そして動画。複数のサイトはそれぞれ違ったコンテンツを備えていたが、しかし、どれもテーマは同じだった。そこには同じような言葉が並んでいた。

夫の前で犯された人妻・・・・・・・・・

夜這いされる人妻・・・・・・・・・

人妻が上司に露天風呂で・・・・・・・・・

希美子には、どれも現実感に乏しい、あまりに無教養なサイトに思えた。ばかばかしい・・・・・。あなた、本当にこんなものを毎晩私に隠れて見ているというの・・・・・・・。

いつしか瞳が熱くなるのを感じながらも、しかし、希美子はすぐにその部屋を出ることができなかった。何かに操られるように、希美子は画面を展開させずにはいられなかった。

実際に画像を見つめ、いくつかの動画を再生した。まさか、こんなこと・・・・・。一度目にしてしまったものは、簡単には終わらせることができなかった。

希美子が経験したことのないような体位で激しく交わりあう裸の男女。大胆に脚を広げ、男の上で自分から腰を振り、あられもない声をあげる女性の姿。

瞬く間に、1時間近くが経過した。

柴田の説明は事実だった。希美子は、はっきりと確信した。

渦巻く困惑を抱えたまま、希美子はその部屋を出た。そして、冷蔵庫のミネラルウォーターで喉の渇きをいやそうとした。だが、平静さを取り戻すことはできそうもなかった。

ダイニングテーブルに座り、希美子は両手を顔の前で組んだ。目にしてしまったものが全て嘘であってほしいと祈るように、希美子は瞳を閉じ、そこに座り続けた。

動画サイトで聞いてしまった、完全にまがいものと思われる女性の喘ぎ声。こんなリアリティが欠如した映像・・・・。激しく軽蔑しながらも、希美子はすぐにその光景を忘れ去ることができない。


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