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依頼者~緑の過去(完)

2017 12 22
「さすがに評判の弁護士さんだけありますな」

長時間の話し合いが終わりを告げた会議室からは、はるか遠方の山並みまでよく見えた。

市内随一の高層ビルの最上階に位置するこの部屋は、その建物を保有する銀行の歴史を、壁に掲げられた代々の頭取の肖像画と共に教えている。

「過去に何人もの弁護士さんとお会いしてきましたが、先生のような方は初めてですよ」

融資担当部門の責任者である彼は、50歳前後の銀行員が持ち合わせるべき経験と貫禄とを備えた、かなり切れそうな人物だった。

そんな彼が、本音を告白するように言葉を続けた。

「噂通り、なかなかに手強い」

「そうでしょうか」

「それに、何といってもお美しい」

テーブルに広げた資料をゆっくり片づけながら、緑は既に立ち上がっている彼の視線をやり過ごし、クールに言った。

「ありがとうございます。ただ、この仕事に見た目は関係ありませんので」

「いや、そんなことはないでしょう。ハラスメント覚悟で言わせてもらいますが、先生のような美しい方なら、どのケースでも有利に運べるんじゃないですか」

「本件もうまくいけばいいですが」

「それはどうでしょうな」

所詮、本音を告白などしてはいない。互いに腹の底を探り合うような会話を交わしながら、二人はもう一度見つめ合った。

「先生、こちらにお越しください。いい景色ですよ」

「ええ」

荷物を片付けた緑は、カバンを持って椅子から立ち上がった。そして彼の誘いに素直に応じ、会議室の窓際に向かった。

「この街でこれだけ眺めがいい場所は他にないですよ、緑先生」

「うらやましいですわ」

「あちらには海が見える。すっかり夏ですね」

彼の傍らに立つ緑は、純白のタイトスカートに、紺色の上品なシャツでスリムな肢体を包んでいる。

隣の男がさりげなく距離を近づけてくることを感じつつ、緑は細身の躰をうっすらと窓に映したまま、遠方の風景を見た。

彼が言う通り、外は夏真っ盛りといえた。

「先生は海に行ったりはしないんですか」

肩が触れ合うぐらいの距離に近づいた彼は、窓に映る人妻弁護士を見つめながら訊いた。

「昔は行きましたが、最近ではもう。夫もあまり行きたがりませんから」

「ご主人も同じ弁護士でかなりご活躍とお聞きしました」

「おかげさまで、何とかやっております」

「うらやましいですな、ご主人が。こんな素敵な奥様と毎晩過ごせるんですから」

彼の手が、スカートの上からヒップを撫でてくることを、緑は密かに想像した。

そんな淫らな想像を抱いてしまったのは、恐らくこの銀行に来たせいであった。

ここは、”彼”が勤務しているはずの銀行だ。

半年以上前、激しい一夜を私の躰に刻み込み、以降、姿を消した彼が。

現在抱えている案件の一つに絡み、緑は今日、この銀行にやってきた。依頼人は小さな鉄工所オーナーで、この銀行と融資に関してトラブルに陥っている。

業績不振のために新たな融資を断られただけでなく、過去の借入に対して銀行から厳しい条件で督促されているという。

よくある案件の一つだが、緑がこの地方最大手の地銀本店であるこのビルにやってきたのは、あの彼に会って以降、今日が初めてだった。

「どうですか、先生。今度一緒に食事でも」

「何がお望みでしょうか」

「このケースを穏便にクローズさせたいですからね。それに別の理由も」

「何でしょう」

隣に立つ彼を、緑は初めて自分から見つめた。きっと若い女性行員に人気があるんだろう。そう思わせるほどに、彼はいい老け方をしている。

「仕事は別にして、先生のことがもっと知りたい」

「誘ってますか、私のことを」

「ええ」

「あいにく人妻ですから」

「人妻は恋をしてはいけない、というルールはないでしょう」

「近頃、世間はすっかりそんな風潮のようですわね」

彼の手が、細い腰に素早くまわされることを想像しながら、緑はクールな口調を続けた。

「ご存知ですか。女性は夫に愛されるときが一番興奮するんです」

その気になりつつあった男をあざ笑うかのようにそう言うと、緑は彼の今にも伸びてきそうな手をすり抜け、窓辺を離れた。

「来週、依頼人と一緒に訪問しますわ」

「お待ちしてます。エレベーターまで送りましょうか、先生」

彼の視線が、人妻の魅惑的に盛り上がった胸元に注がれている。それを感じながら、緑は彼を悩殺するような視線で見つめ返した。

「いえ、結構ですわ」

自信に満ちた雰囲気をたたえたまま、緑はハイヒールの音を立て、静かな廊下を一人進んだ。すれ違う人間は誰もいなかった。

今日の午後、この銀行にやってきたときから、ずっと疼き続けている人妻の肉体。そんな風に感じるのは、半年以上前のあの夜以来だった。

火照った躰を抱えたまま、緑は到着したエレベーターの中に乗り込んだ。

午後4時をまわる頃だった。ほぼ各フロアに止まっていくエレベーターは、やがてかなりの人数で息苦しいほどの空間になった。

緑は最奥部の壁に密着するように立ち、下降していく文字盤を見つめ続けた。

「しばらくですね」

彼がすぐ隣に立っていることに、緑は気づかなかった。

「・・・・・」

「お元気でしたか」

「ええ」

周囲にいる行員は、ささやきあう二人の様子を特に気にもしてないようだ。

「お仕事でこちらに?」

「ええ。依頼人の代理として、今日は」

壁際に立つ緑がそうささやいた後、熟れた人妻のヒップに、彼の手が大胆に置かれた。

人妻はカバンを持ち、エレベーターの文字盤を見つめ続けている。

彼の手が、緑の豊かな肉付きの上で、僅かに動いた。

「・・・・」

表情を崩さぬまま、緑は密かに唇を噛んだ。

タイトスカート越しに動き始めた彼の指。柔らかで、丸みを帯びた人妻の美尻の奥には、確かな欲情の証が隠されている。

地上階に着くにはもう少し時間がかかりそうだ。

彼の指が、緑のヒップの割れ目に食い込むように動いた。

「・・・・」

ゆっくりと動く文字盤に視線を注ぎながら、緑は空いていた右手を密かに後方に動かした。そして、彼の手の上に重ねた。

人妻の手は、彼の手を退けようとはしない。彼女の指は、もっと激しい刺激を促すように、彼の手を包みながら大胆に動いた。

「すみません、4階をお願いできますか」

落ち着いた口調で彼が言うのと同時に、制服を着た女性行員がそのボタンを点灯させた。

そして、エレベーターが4階に止まった。

「こちらですよ、先生」

前に立つ何人かをかきわけるように出口に進む彼の後から、緑も黙って続いた。そのフロアで降りたのは二人だけだった。

オフィスフロアではない。書庫のような部屋がいくつも並ぶ、静寂に包まれたフロアの廊下を、緑は彼に続いてゆっくりと歩いていった。

やがて、彼はフロア一番奥にある小さな部屋のドアを開け、緑を中に入るように促した。

椅子や机、そしてキャビネットが乱雑に詰め込まれた倉庫のような空間であった。

ドアを閉めた後、室内は想像以上の闇に包まれた。

こんな最新のビルの奥まった密室の中なのに、屋外で鳴き続けているセミの声が聞こえてくる。緑は、少し妙な思いでそれを聞いた。

「暑いでしょう、緑先生」

「夏ですから」

「シャツを脱ぎなさい」

床にかばんを置き、人妻は闇に溶け込んだまま、ゆっくりとシャツのボタンを外した。まぶしくこまやかな肌が、闇の中で光った。

ブラに包まれた丘陵を立ったまま愛撫され、人妻は脚を震わせる。

「そこの椅子に座って」

緑は素直にそこに座り、やがて目を閉じた。ひじ掛けを握りしめ、美脚に注がれていた力を、次第に緩めていった。

ひざまずいた彼が、緑自身に吸い付き、濃厚な口づけを与える。

「あっ・・・・・・」

溢れ出す快感と共に、人妻は、深い官能の渦の中に再び引きずり込まれていった。

セミの声が徐々に遠のき、自らの喘ぎ声が覆いかぶさっていく。

「あっ・・・・・・・・・・、あんっ・・・・・・・・・・・・・」

遠い過去、あの夏の海岸から続くシナリオは、まだ第二幕を開けたばかりであった。

<完>

(最後までご愛読、誠にありがとうございました)
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