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刻み込まれた快感(17)

2015 05 22
彼に甘く唇を吸われた瞬間、朱里は全てを悟った。

私はこの瞬間をもう何か月も夢想していたのだ、と。

崩された体勢を、朱里は立て直そうともしなかった。早川の腕の中で、朱里はしばらくの間、彼の思うがままにされた。髪を撫でられ、そして幾度となく舌を吸われた。

自分がこれほどに彼を欲していたことを知り、朱里はこわくなった。私は不貞を犯しているのだ。夫を裏切るようなことを、私は恥じることもなく欲している・・・・・・。

夕刻の住宅街には妖しい静けさがあった。それは、間もなくやってくる闇の世界が、長く享楽に満ちたものであることを、2人に教えるような静寂だった。

「朱里先生」
「・・・・・・・」

朱里は答えることができない。その続きがどんな言葉であっても、朱里は聞くのが怖かった。

「今夜は主人の帰りは遅いですから」

以前と同じだった。朱里は別の自分が喋っていることを感じた。

早川は既にそれを予想していたようだった。腕の中にいる美しい人妻をそっと見つめ、白くすべやかな頬を撫でた。そして、涼やかな表情を維持したまま、ささやいた。

「朱里先生に教えたいことがあるんです」
「・・・・・・・・・・」
「この場所で、今から、時間をかけて」

彼に筆の運びを指示された、あの夕刻の記憶がよみがえる。朱里の鼓動が急速に高まっていく。彼の瞳を見つめることができない。朱里は視線を逃そうとしたが、しかしできなかった。

「わかりました」
完全に彼に支配されている。朱里は生徒の奴隷となった自分を感じていた。

「横になってください」
「早川さん・・・・・・・・・・」

「あのマンションで覗きましたよね」
「・・・・・・・・・・・」

「あのとき、梶さんがされていたように」
早川は腕の中の朱里をそっと起こし上げた。そして、和室の中を見渡し、片隅に置いてあった分厚い座布団を数枚畳の上にまっすぐに並べた。

「ベッドと違って寝心地が少し悪いかもしれませんが」
人妻の迷いを断ち切るかのように、早川は更に言葉を続ける。

「朱里先生」
「はい・・・・・・・」
「カーディガンを脱いでください」

それを要求されるのはわかっていた。あの施術室の梶の姿が、朱里の脳裏には既にあった。まるで少女のように恥ずかしげに唇を噛み、朱里は彼を見つめた。

「わかりました」
朱里は、隷属者としての従順な態度を続けた。

立ち上がり、和室の隅に行く。早川に背を向けたまま、カーディガンに手を伸ばし、それを時間をかけて脱いだ。背後から朱里は、彼の熱い視線を感じた。

ブラウスとスカートという格好で、朱里は並べられた座布団のそばに歩んだ。早川はどこまでもさわやかな雰囲気を維持したまま、人妻の肢体を見つめている。

「横になってください」
緊張を隠しきれない様子で、朱里は腰を降ろした。そして、並べられた座布団の上に、うつぶせになって横たわる。だがそれは、早川の望むスタイルではなかった。

「仰向けでお願いできますか」
「はい・・・・・・・」

時間をかけて、朱里はスリムな肢体を反転させた。両手をおなかのあたりに置き、瞳を閉じた。とても、目を開けてはいられなかった。

しばらくの沈黙。全身に彼の視線が注がれることを感じる。

そして、部屋の照明が消される気配がした。

「朱里先生、緊張されてますか」
「え、ええ・・・・・・・・・」

早川の声が至近距離から聞こえてくる。瞳を閉じたまま、朱里は激しい鼓動を感じている。やがて、彼の手が思わぬ箇所に伸びてきた。

「これをしましょう、朱里先生」
瞳を閉じた朱里の視界が、更に完璧な闇に包まれた。人妻は彼に目隠しを施された。

朱里は想像した。薄闇の和室の中で、仰向けに横たわる自分の肢体。目隠しをされた一人の主婦。それを見つめる早川の姿を。

焦らすような沈黙が続く。朱里は、何度も唾液を飲み込んだ。

彼の細い指先が、朱里のシャツのボタンに触れた。

夫の知らぬ場所で、一人の人妻が快楽の世界にいざなわれようとしている。


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