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代償~君枝への訪問者(1)

2008 09 01

樫又和夫がそのフィアンセを披露したとき、友人の誰もが驚きと嫉妬、そして少しばかりの哀れみを含んだ、そんな複雑な感情を抱いた。


都内の平凡な私立大学を卒業後、和夫は通信系大手の企業に就職した。就職後、すぐに始まった業界再編の波に、和夫の勤務先も例外なく巻き込まれ、数年のうちにその会社は通信、システム関連を網羅する、一大企業へと変貌していく。


元来、真面目なタイプな和夫は、合併先からやって来た新しい上司達と衝突することもなく、順調に出世を重ねていく。そんなとき、将来の妻となる女性、君枝に出会ったのだった。今から5年ほど前、和夫が29歳、君枝が24歳のときである。


1年にも満たない交際期間を経て、二人は結婚した。赤坂の高層ホテルでの披露宴、そして六本木の洒落たフレンチレストランで開催された二次会には、新郎新婦の家族親戚は勿論、それぞれの勤務先企業の上司、同僚、学生時代の友人など、多数のゲストが参加し、大いに盛り上がりを見せた。


「君枝さんは我々の説得の甲斐もなく、このご結婚を機に、家庭に入られるとのことであります。いやあ、これは実に惜しいことでありまして、我々としましては、新郎を深く恨むところであります・・・」


君枝の勤務先は、大手都銀であった。彼女の所属部の担当常務によるこの冗談めかしたスピーチは、乾杯前の会場の笑いを得るには十分なものであったが、披露宴参加者の多くは、それが本音であることを感じ取っていた。それほどに、君枝の結婚退職は意外であり、また、あまりに勿体ないと多くの関係者が感じるものであった。


壇上に並んだ新郎新婦のもとに、次々に友人たちが乾杯にやってくる。その誰もが、新婦の姿を間近で見て、その美しさに改めて驚嘆しているようだった。純白のウェディングドレスは、清楚な新婦を奔放な女に見せてしまうような、そんなデザインが施されていたが、しかしそれは、上品さを兼ね備えたものでもあった。


大胆に広げられたその胸元は、特に男性客の視線をそこに釘付けにさせている。身長167センチのスリムな肢体は、小ぶりなその胸元を十分に魅力的なものにし、誘惑的な丘陵の谷間を垣間見せている。知的な笑みを浮かべながら、そつなく乾杯を繰り返していく新婦の姿に、会場のあちらこちらから賞賛の声が聞こえてくるようだった。


「花嫁さん、ほんとお綺麗な方ね・・・・・」

「ええ、新郎さんにはもったいないくらい・・・・・」

「それに、綺麗なだけじゃないんでしょ、あの花嫁さん・・・・・」

「えっ、そうなの?」

「あら、知らなかったの? 実はね・・・・」


噂好きの年配の女性たちが、新婦の姿を遠くのテーブルから眺めながら、そんな会話を交わしている。確かにその花嫁は、ただ美しいだけではなかった。


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