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憧憬~珠代のレッスン(1)

2008 09 23

小雨がぱらつくなか、動物キャラクターの絵が全面に描かれた4トントラックがゆるゆると到着すると、その後部の観音開きの扉が作業員達によって素早く開け放たれた。中を覗けば、数え切れないほどの段ボール箱が、天井に届くほどの高さにまで、何列も、整然と積みあげられている。


「すごい数だね、これ・・・・」

「そうね。あんな狭い家のどこにこれだけの荷物があったのかしら・・・・」

「謎だな、それは・・・・」


二人が手にした傘は、もう必要ない程度の雨の勢いだ。この分だと、予定通り、夕方までには作業も完了しそうである。新居の中に、その大量の荷物を次々と運び込む作業員たちの様子を眺めながら、浩介と珠代はようやくここまでたどり着いたというちょっとした安堵感、そして高揚感を感じていた。


外構工事はまだ進行中であるものの、珠代たちは新居への引越しを10月中旬と決めていた。役所への届出、住所変更、電話回線・ケーブルテレビの契約、水道、電気の開始、前住居の引き払い、引越し先への挨拶その他諸々の必要準備を慌しく進め、二人は何とかこの日を迎えることができた。


もっとも、大半の手続きに奔走したのは珠代であった。仕事が多忙な浩介は、ほとんど何も手伝うことはなかった。


雨で濡れた新居のまわり。二人の娘たちも、引越しという一大イベントにはしゃぎまわっている。幼稚園の通園バス変更も手続きは終わった。周辺には小さな子供がいる家庭も多く、子供を通じてすぐに新生活にも溶け込んでいけそうな見込みだ。


「奥さん、この鏡台は2階のどの部屋ですか?」

新居内に傷をつけることのないよう、通路にあたる床、壁面に防御用の厚紙を念入りに貼り終わり、作業員たちは次々に家具、段ボール箱を家の中に運び入れている。作業員は全部で5名。社員は1名のみで他はアルバイトのようだが、一応、しっかりと名札を着用し、いいかげんな人材を使ってはいないことをアピールしている引越し業者である。


引越し業者の選定には、珠代は思わぬ苦労を強いられた。数社、個別にアパートに呼び、荷物を見てもらった上で見積もりを出させたのだが、中には契約できるまで帰らない、といった猛烈な業者も何社かあり、その業界の異常なまでの競争を改めて認識させられたものだ。


ネット掲示板で調べても、どの業者についても好評、悪評、双方で溢れており、悩んでいる間にも、次々に催促の電話が各業者からかかってくる。結局、最初に見積もりをもらった業者の営業マンがよさそうな人物であったという、至極単純な理由で、珠代はその引越し業者に決めていた。決めるまでに随分と無駄な労力を消費したことを、珠代は少し後悔している。


「あっ、階段奥の寝室にお願いします。それ、すごく重いから気をつけてくださいね・・・・・」

そう声をかけながら、珠代は他の家具や段ボール箱の搬入先に誤りがないか、忙しくチェックを始めた。浩介は娘たちの相手をしながら、邪魔にならないように、新居内をいろいろと歩き回っている。


新しい家。念願のマイホームを手に入れるため、珠代は文字通り、その肉体を犠牲にしたともいえた。しかしそれはまた、34歳の人妻に、それまで知ることもなかった世界の存在を教えてもいた。


成熟した人妻の肉体は、男たちを誘惑する芳香を、本人の自覚のないまま、濃厚に漂わせている。不動産屋の社長、そして斉藤に誘われるままに、珠代は何度も昇り詰め、そして快感に悶えた。その記憶は、今もなお、珠代の肢体に色濃く残されている。


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