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覗かれる妻~裕子の決意(2)

2008 07 01

「そうだけどね~、でもやばいのよ、ほんと、私のとこ」

細かく刻んだ長葱の入ったチキン風味のスープを飲みながら、裕子が珠代に答える。裕子が言うには、彼女の夫は15年近く真面目に勤めていた中堅商社を昨年突然退職し、自宅そばに小さなカフェをオープンしたとのことだった。


会社員時代のコネクションを利用し、南米から輸入した珈琲豆を自家焙煎するのが売り物のその店は、オープン当初は物珍しさもあり客で溢れかえったのだが、数ヶ月も経つうちに、少しずつ客足も遠のき、現状では相当苦戦しているとのことであった。


「そんなに深刻なの?」

「うん。まじでやばいって感じ」

そのあっけらかんとした様子からは、深刻さがどの程度なのか、珠代にもなかなかつかみかねた。

「ご主人も大変でしょうねえ」

「いいのよ、あの人は。マイペースでやってるんだから。私のことなんかいつもほったらかしよ」

突き放したようなその言い方にも、珠代は、裕子の夫への愛情を感じ取る。


「いいんじゃない、マイペースでやってれば。寛治君も元気に暴れまわってることだし」

寛治君というのが、裕子の息子の名前だ。ウルトラマンが好きで、家中を走り回っているらしい。

「まあ、そうだけどねえ・・・・」

裕子はそう答えながら、ふと告白するかのように、珠代の目を見て言った。

「実はね、急なんだけど、私、働こうかなって思ってて・・・」


「えっ、働くの?」

蒸したチキンを辛目の特製ソースにつけていた手を思わず置き、珠代は驚いてそう言った。

「うん・・・・。って言うか、もう決めちゃったんだけど・・・・」

「ちょっと待って、裕子さん! じゃ、ベルマーク係はどうなっちゃうのよ!!」

珠代が冗談めいて、裕子に迫る。

「珠代さん、ごめん、任せた!・・・・・・ってのは冗談でさ、ははは。大丈夫、働くと言ってもパートで、毎日じゃないみたいだから」

薄いピンクのポロシャツに、白いタイトジーンズという格好の裕子は、珠代にそう説明する。ローライズのそのジーンズは、ちらちらと裕子の背中の白い素肌を見え隠れさせている。


「主人がね、声かけられたみたいなの、奥さんをパートで働かせてみませんかって」

「へえ」

「何でも主人のカフェへの援助が絡んでるみたいでね。その仕事先はカフェの内装をした事務所なんだけど」

「あら、よさそうな仕事じゃない」


店内ではコールドプレイの新作が上品な音量で流されている。話を弾ませる2人のテーブルは、窓際に置かれていた。夏を思わせるような日差しが、窓から差し込み、テーブルをまぶしく照らしている。窓からは忙しげに歩き去る人々、そして狭い道を乱暴に進む車の姿が見える。ランチを共にする2人の人妻。ともに長身でスラリとした体型に、整った顔立ちをしていた。レストランの中でも2人はひときわ目立ち、数人でランチをとる営業途中の会社員のグループも、先程からちらちらと視線を投げかけていた。


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