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目覚め(6)

2017 02 03
1人でプールに来たことを、佐代子は今更ながら後悔した。

このリゾートホテルに滞在して3日目。

今日、明日の二日間、夫とは別行動をとる予定だ。

昼間、夫は海釣りツアー、そして佐代子自身はホテル内で開催される体験プログラム、陶芸教室に参加する。

夫が海からホテルに戻るのは午後3時頃。

一方の佐代子の教室は、午後1時から5時頃まで開催される予定だった。

共にそれぞれを楽しんだ後、夕食を一緒にするというのが、昨日、夫が考えた計画だ。

陶芸教室に参加しようか、とふと漏らしてしまったばかりに、夫に妙な気を遣わせてしまったのかもしれない。

佐代子は、自分がわがままを言ってしまったようで、少し夫に悪い気がしていた。

だが、夫も海釣りツアーには参加したかったようだ。ホテルに到着してすぐ、佐代子はそれを何となく感じていた。

毎日ずっと一緒に居続けるよりも、こんな風に昼間は別行動をとったほうが刺激になっていいかもしれないわ。

それに、昨日海岸で陶芸教室に誘ってくれた男性は、とても感じのいい方だった。

絵画が好きなこともあって、佐代子は陶芸教室にも少なからぬ興味を持っていた。

こんな機会、なかなかないのだから。

佐代子はそう言い聞かせ、今日、明日と充実した二日間にするつもりでいた。

「佐代子、じゃあ一日楽しんでおいで」
「ええ。あなたも気を付けて」

夫はまだ日が昇らないうちにホテルを出発した。

佐代子は一人で朝食をとり、部屋に戻った後、午前中をどう過ごすか考えた。

このホテルで思いつくことは、プールサイドか海岸でゆっくりすることぐらいだった。

普段の自分なら、ずっと部屋にこもったことだろう。

だが、このホテルに来てから、佐代子は無意識のうちにいつもとは少し変わろうとしている自分を感じ始めていた。

殻を破るというか、少しだけ大胆に振舞ってみるというか。リゾートホテルという日常とはかけ離れた環境が私をそうさせるのだろうか。

迷った挙句、佐代子は午前のプールに一人で出かけた。

さすがに今日は、ホテルからもらったあのビキニを選ぶ勇気はなかった。佐代子は自分で持参したワンピースタイプの控えめなデザインの水着を選んだ。

プールはまだ閑散としていた。

今日も強烈な日差しが青空から降り注いでいる。一人でいるということに確かな緊張を感じながら、佐代子はプールサイドのデッキチェアに横になった。

周囲に僅かにいる客は、誰もこちらのことを意識していないようだ。

パラソルの下、家から持参しながらここまで手にしていなかった文庫本を開き、佐代子は読書を楽しんだ。

陽が高くなるにつれ、少しずつ温度も上昇してくる。陰にいても、佐代子は次第に暑さを感じ始めてきた。

プールにいる客も随分増えたようだ。

佐代子は思い切って泳ぐことに決めた。カーディガンを脱ぎ去り、丁寧にたたんでテーブルに置く。

文庫本をその下に隠すように置いて、佐代子は水着姿で立ち上がった。そして、日差しで熱を帯びたプールサイドを歩き、水の中に入った。

水の冷たさが、佐代子の肢体を心地よく迎え入れた。

プール中央に向かってゆっくりと泳ぎ始めた美しい人妻が、このホテルに来て3日目であることを、既に複数の客、特に男性客が知っている。

プールサイドにいる3名の男性グループ。ある会社のプロジェクト打ち上げを兼ねてこのホテルにやってきた面々だ。

独身もいれば既婚者もいたが、ここには妻やガールフレンドは連れて来ていない。

泳ぎ始めた佐代子を見つめながら、彼らは言葉を交わし始めた。

「おい、あの奥さん、また来たぜ」

「今日は旦那はいないみたいだな。喧嘩でもしたのか」

「どうだろうな。いずれにせよ、昨夜は旦那に激しくやったことだろうよ」

「あの躰が隣に寝てたら放っておけるわけないな」

「あの奥さんが乱れるところを想像するだけで、硬くなってきたよ」

男たちがそんな会話を交わしていることに、佐代子は勿論気づいていない。緊張から解放され、色っぽい体つきを見せつけるように、泳ぎ続けている。

「おい」

「ああ」

しばらく後、男たちは互いに示し合わせたように、プールの中に入った。

プールには、佐代子以外にも何人かの宿泊客がいた。3人の男たちが入ってきても、そこに特に違和感はなかった。

そろそろあがろうかしら・・・・

佐代子はプール中央で立ち、濡れた髪を両手で束ねた。

そして、水の中を歩きながら、プールサイドに向かった。

「奥さん、今日はお一人ですか?」
突然言葉をかけられ、佐代子は思わずプールの中で立ち止まり、声がしたほうを振り向いた。

「少し俺たちと遊びませんか」
そこには3名の男性がいた。彼らを見た瞬間、佐代子はあまりいい気がしなかった。彼らの笑顔には、何か隠し事があるようだったのだ。

それに、自分が人妻であること、主人が今日はいないことを、彼らは知っている。佐代子は不信感を高めた。

「いえ、結構です」
「奥さん、まあそう言わずに」

男たちは、佐代子を取り囲むようにじりじりと接近してくる。

「奥さん、スタイルめちゃくちゃいいですね」
「昨日のビキニは着ないんですか?」

プールになんか来なければよかったわ。強く後悔しながら、卑猥な笑みを浮かべる彼らの間を抜けようと、佐代子は水の中で足を速めた。

「失礼します」
救護係としてプールにいるホテルスタッフが、こちらを見ている。さすがにこんな環境では彼らもこれ以上何もできないだろう。

仕方ない様子で間隔を開けた男たちの隙間をぬうように、佐代子が突っ切ろうとした時だった。

水の中で男の手が佐代子のヒップに触れたような気がした。だが、確信するほどの感触ではなかった。

「・・・・・」
佐代子は何も言わぬまま、プールサイドにあがった。プールの中にいる男たちの刺すような視線を感じながら、佐代子は足早にデッキチェアに向かった。

そして、荷物をまとめると、そのまま部屋に小走りで戻った。

もう一人で行くのはよしたほうがいいわ・・・・・

何とか部屋に戻った佐代子は、嫌な感触をすぐ忘れ去ろうとするように、シャワー室で水着を脱ぎ去り、全裸になった。

そして、たっぷり時間をかけて、熱い湯で肌を濡らした。

ああっ、気持ちいい・・・・・・

陶芸教室の始まる時間が近づいている。佐代子は昨日海岸で会った男性のことを思い出しながら、シャワーを浴び続けた。


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