FC2ブログ

目覚め(9)

2017 02 14
躰が妖し気に火照っていることを、佐代子は感じている。

この日もまた、夫は早朝に海釣りツアーへと出発した。

朝食を済ませた佐代子は部屋に戻り、テラスの木陰に置かれた椅子に横になった。今日もよく晴れ渡った空から、朝の陽ざしが降り注いでいる。

波の音を聞きながら、佐代子は雑誌をぱらぱらとめくった。だが、身の疼きはどうにも治まる気配はなかった。

昨夜、久しぶりに夫に抱かれた佐代子。このリゾート地に来てから、夫はずっと私を抱きたがっていた。佐代子は勿論、それに気づいていた。

だが、佐代子はなかなかそういう気にはなれなかった。もともと夜の営みには淡白なほうで、それは旅行に来たからといってすぐ変わるものでもなかった。

唯一知る男性が夫であり、その行為に佐代子は、過去にときめいたことがなかった。

夫の行為が拙速なもので、自分が満たされぬまま終わってしまうことを、佐代子はいつも感じていた。だが、それを理由に夫を責めるつもりなど、佐代子にはなかった。

そもそも、それを通じて満たされるということを、佐代子は知らなかった。

そんな自分が昨夜は違った。佐代子は、それを思い出し、朝の陽ざしの下、頬を熱くした。

どうしたのかしら、私・・・・・

昨日の陶芸教室は、想像以上に素敵な体験だった。講師の川原は、自分が知らなかった陶芸の知識や技術を丁寧に教えてくれた。

午後を彼と過ごしていくうちに、佐代子は少しずつ気分が高ぶっていく自分を感じた。彼と一緒に笑い、文字通り、距離を近づけていった佐代子。

土をこねる佐代子のすぐそばにまで来て、彼は優しく指先の動かし方を教えてくれた。彼のたくましい体を、そして息遣いを佐代子は至近距離で感じた。

彼の指先が、佐代子のこねる粘土に何度も触れた。だが、彼は失礼な振舞を避けるかのように、最後まで佐代子の手、そして体には一切触れることはなかった。

息を感じるほど、ぎりぎりの距離にまで接近されたとき、佐代子は彼に腕を掴まれ、或いは肢体を後方から抱かれるようにして指導される自分を、何度も想像した。

「佐代子さん、とてもお上手ですよ」

優しく耳元でささやきながら、決して一線は越えようとはしなかった川原。佐代子は、彼とのそんな親密で、どこか焦らされるような時間をたっぷり過ごしたことで、躰を戸惑うほどに熱くさせた。

陶芸教室にいるとき、佐代子は既に自分の大切な箇所が普段とは違う風になっていることを感じていた。

過去にはあり得ないことだった。佐代子は、夫に対して決して言えない秘密を持ってしまったような気がした。

その秘密をどこかでもっと欲しがっている自分もいた。

「佐代子さん、では今日はこれぐらいにしておきましょうか」
「もう終わりですか?」

初日の教室の終わりを告げられた時、佐代子は思わず彼にそう口にした。このままもう少しだけ、佐代子はここで彼と一緒に過ごしたいと思った。

「佐代子さん、大丈夫、明日もありますよ」
「ええ・・・・」
「絵がお好きなせいでしょうか、佐代子さんにはやはり素質があるようですね」

川原にそう褒められ、佐代子は素直に嬉しかった。

「もし可能なら明日だけでなく、明後日まであと二日間、教室に参加いただきたいところです」
「明後日も?」

「ええ。そうすれば、かなり本格的な陶器がお造り頂けると思いますよ、佐代子さんの腕なら」
「でも、川原さんのご都合は・・・・」

午後の会話の中で、佐代子は自然に彼のことを名前で呼び始めていた。

「私は毎日ここで教室を開いていますから。明後日はまだ誰もご予約は入っていませんね」
川原は手元のファイルとデスクトップPCを見比べて、予約状況を確認している。

「明日の予約状況はいかがでしょうか・・・・」
「明日はまだ佐代子さんだけですよ」

「じゃあ、また今日のように?」
「ええ。たっぷりと個人レッスンをさせていただきますからね」

川原はそう言って笑みを浮かべた。名残惜しい気もしたが、佐代子は立ち上がり、そして教室を辞するために、ドアに向かって歩いた。

「では佐代子さん、明日の午後、また待ってますから」
すぐ正面に立つ彼に、佐代子は何かされることを密かに想像した。そんな想いが、人妻の躰を一層熱くさせた。

「楽しみにしてます」
握手を交わすこともできず、佐代子は彼の前を去った。

彼と別れた直後から、佐代子はその午後の素敵な記憶に浸り続けた。彼のささやき、息遣い、そして動作を思い出すたびに、佐代子は躰の奥が疼くことを感じた。

それは部屋に戻ってシャワーを浴びても同じだった。

夕食のとき、他に教室に参加した滞在客がいなかったかどうかを夫に聞かれたとき、佐代子は思わず嘘をついた。夫に嘘を告げたことなど、恐らくそれが初めてだった。

そうさせてしまうほどに、佐代子はその日の午後、自分が秘匿な行為を犯してしまったかのように感じていた。

実際には何もしてはいない。彼はあくまでも紳士として振舞い、指1本たりとも佐代子に触れようとしなかったのだから。

だが、佐代子は教室のことを夫に話すことはできなかった。密かにその記憶に浸り続け、そして、佐代子は夫にベッドでの行為を許した。

自分がどんな風に反応してしまったか、佐代子はよく覚えてはいなかった。だが、かつてないほどに躰が濡れていたことは確かだった。

それは夫がもたらしたものではない。

目を閉じたまま夫に抱かれ、佐代子はずっと別のことを想像していた。

夫の行為はいつも以上に早く終わり、佐代子はどこに導かれることもなく、疼いたままの肢体を持て余し続けた。

その疼きは、今朝になっても続いている。

おかしいわ、私・・・・・・

ページをめくっていた雑誌をテーブルに置き、佐代子は木陰の下でそっと目を閉じた。こんな時は、またプールにでも行けば気分転換できるのかもしれない。

だが、佐代子はもう一人でプールに行きたくはなかった。またあの男性3人のグループが、自分のことを待っているような気がする。

目を閉じたまま、佐代子は午後の教室のことを想像した。だが、その想像を邪魔するように、あのプールの男たちの記憶が侵入を試みてくる。

いつしか佐代子は、プールの中で彼らに取り囲まれ、水着を剝ぎとられる自分を想像していた。

6本の手で裸体を揉みしだかれ、どうにも逃げることができない自分を、佐代子は目を閉じたまま想像し続けた。

声をあげても、誰も助けてはくれない。男たちに、これまでされたことのないような行為を与えられる自分を、佐代子は密かに想像した。

その日の午前、穏やかに寄せてくる波の音と、木の葉に和らいだ日差しに包まれ、佐代子は猥褻な夢想の中をさまよい続けた。

早く陶芸教室に行きたい。今日だけではなく、明日も・・・・・。

自分がどうかなってしまったのではという戸惑いの中、佐代子は今、強くそう願っていた。

彼ならば、この迷いの中から私を解放してくれるかもしれない・・・・・・・・。

その日の午後、佐代子はもっと深く、熱い疼きを彼に教えてもらうことになる。

まだ一度も体験したことのない、歓びの予感に溢れた疼きを。


(↑クリック、更新の励みです。凄く嬉しいです。次回更新、2月17日の予定です。)
 | HOME |