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目覚め(13)

2017 03 01
風が強い朝だった。

だが、空はやはりよく晴れ渡っていて、その濃厚な青には夏の気配がまだ十分に残っている。

バカンスが終わりに近づいていることを、佐代子は感じていた。

夫に誘われ、この南の島に来た時、佐代子は自分の何かがこの場所で変わるなんてことを、まるで想像していなかった。

ゆっくりと読書でも楽しみながら過ごすことができればいい。佐代子はそう思っていた。

だが、佐代子は今、自分が別の女性になってしまったような気分に浸っている。

いや違う。これまでの人生で気づかなかった自分に、私はこの島で初めて出会おうとしているのだ。

彼は既に、その長いスロープの途中まで私を導いてくれた。そして、今日、その続きが・・・・。

夫は既にツアーに出かけた。彼の言葉に嘘はなかった。昼間は別行動で、夜に夫婦が再開するというパターンに、夫はひどく興奮していた。

昨晩は、佐代子にとってその前の夜とまるで同じだった。恐らく、今夜もまた、それが繰り返されるのだろう。このリゾートで最後の夜というのに。

だからこそ、佐代子は午後の陶芸教室のことを想像し、肢体を熱くさせている。

昨日までとは違い、今日は風が強い。今日は部屋の中にいましょう。そう考えた佐代子が、しばらくテラスにいた後、部屋に入ったのは午前10時頃だった。

部屋に戻った佐代子を見つめていたかのように、電話が鳴った。

ルームクリーニングの方かしら・・・・。そう思った佐代子が手にした受話器の向こう側から、意外な声が届いた。

「おはようございます、佐代子さん」
川原の声は、昨日までと変わることなく、どこか親身な風に響いた。

「川原さん・・・・、おはようございます・・・・・・」
「今日の午後はいかがしますか、佐代子さん?」

人妻の決意を確認するような彼の質問に、佐代子はしばらくの間ためらった後、恥ずかし気にささやくように答えた。

「またお邪魔してよろしいでしょうか。昨夜お話しした通り、主人は釣りツアーに今日も出かけてしまいましたから」

「そうですか。それでは準備をしておきますね」
「お願いします」

「今日も佐代子さんお一人の予定ですよ」
彼の言葉が、そこに別の意味が込められているように聞こえた。

蕩けるような昨日の午後の記憶がよみがえってくる。彼もまた、今それを思い出しているに違いない。

「いいですよね」
「はい・・・・・・・」

佐代子はもう、それ以上話すことができなかった。

だが、彼の言葉はまだ続いた。

「佐代子さん、午前中はどうされる予定ですか?」
「昨日と同じように部屋にいるつもりですが」

「私からお願いがあるんです」
「お願い?」

「プールに行っていただけませんか?」
「プールにですか?」

「ええ。もしできることなら、ホテルから贈られたという水着を着て」

川原の唐突なリクエストに、佐代子は深く戸惑った。それは、佐代子が体奥のどこかで密かに考えていたことを的確に突いた要請だった。

「川原さん、でも・・・・・・・」
「午前中、普段の自分を解き放って過ごしてください。そうすれば、午後には最高の陶器が生まれるはずです」

恥ずかしさを忘れ、もっと大胆に、躰が望むままに振舞ってみる。彼は私を一人でプールに行かせることで、それをさせようとしている・・・・。

男性を挑発するかのようなあの過激なデザインのビキニ姿で・・・・。

「妙な男たちがいたらすぐに止めさせるように、監視員にはよく言っておきます」
「川原さんはプールには・・・・」
「私はここで午後の教室の準備をしていますから」

佐代子は一瞬、私も教室に行かせてほしい、と言おうとした。だが、人妻はそれを自分から言うことはできなかった。

彼に言われた通り、いつもとは違う自分としてもっと振舞うべきかもしれない。それが、午後に作る陶器に・・・・。

佐代子は、彼の言葉に隠された意味を、もう一度感じた。そして、その要求を受け入れた。

電話を切った佐代子は、再びあの水着を手にした。そして、ためらいながら服を脱ぎ去り、その水着でスタイルのいい肢体を隠した。

着替えている自分を、彼に見つめられている気がする。既にもう、人妻の躰には妖しげな熱が帯びている。

自分がこんな気分になることまで、彼は計算に入れている。佐代子はもう、完全に彼に支配されている自分を感じた。

タオル地のカーディガンで肌を隠し、佐代子はホテル内のプールに向かった。昼前のプールには、何人かの滞在客が既にいるようだった。

佐代子は、あの3人の男たちがいないかどうか、不安と共に確認した。幸いなことに、彼らはそこには見当たらなかった。

既にこのホテルを発ったのかもしれない。少しばかりの安堵と共に、佐代子はプールサイドに置かれたデッキチェアに横たわった。

パラソルの向こう側にある日差しを感じながら、佐代子はしばらくそこでくつろいだ。だが、午後までそこで横たわっているわけにはいかない。佐代子は彼の言葉を思い出す。

少しだけ泳ごうかしら・・・・・・

普段の自分をもう一度忘れようとするように、佐代子は水着姿で立ち上がった。そして美脚からゆっくりとプールに入り、完全にその中に肢体を沈めてみる。

やっぱり気持ちいい・・・・・

冷たい水の感触に久々に包まれ、佐代子はゆっくりと泳ぎ始めた。プールサイドにいる何人かの男性が自分のことを見つめている気がする。

誰も私なんか見ちゃいないわ・・・・。そんなことを想いながら、泳ぎ続ける佐代子。次第に日常を忘れ、水に同化していく自分を感じる。

泳ぎ続ける佐代子の脳裏に、あのろくろの音が聞こえてくる。昨日の午後、川原が教えてくれた愛撫の記憶が、佐代子の肉体に蘇る。

そのとき・・・・・、佐代子は突然、水中で誰かにぶつかった。

「ごめんなさい・・・・・」
水の中で立ち上がった佐代子は、思わず謝罪の言葉を口にした。

「奥さん、昨日はプールに来なかったでしょう」
あの3人の男が、佐代子を取り囲むようにプールにいた。

佐代子は、ホテルスタッフが座っているはずの場所をとっさに見た。だが、そこには誰もいなかった。

「昨日からずっと待ってたんですよ、俺たち」
じわじわと距離を詰めながら、男たちが人妻に近づいていく。

「昨日も旦那に抱かせたんですか、こんないい体を」
一人の男の手が、水中で佐代子のヒップに伸びた。


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