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目覚め(24)

2017 04 17
ドアの向こう側に、もう人の気配はない。

部屋のキーをテーブルに投げ出し、佐代子はどうしていいかわからない自分を抱えたまま、ソファに腰を沈めた。

午後からずっと疼き続けている躰。レストランであの男に揉みしだかれた感触が、佐代子の美脚にまだ残っている。

熱いシャワーを浴びて、嫌な記憶のことは忘れ去りましょう。ソファに座ったまま、佐代子はそんなことを想った。

銀色に光る細い腕時計を見つめた。午後10時になろうとしている。

リゾート最後の今夜、夫はいない。シャワーを浴びて、ベッドに入れば、すぐに朝が来て、夫と再会できるはずだ。

だが、それは日常へと戻らねばならぬ日の到来を告げる朝でもあった。

佐代子には、このまま夜を終わらせることができそうもなかった。

何かアルコールでも口にしようかしら。過去に思ったこともないことを心に浮かべ、佐代子はすぐに打ち消した。

そんなことしても、躰の疼きを鎮めることなんかできない。それなら、どうすればいいというのか。

既にその答えはわかっているはずだった。だが、佐代子はそれを認めようとせず、ただソファに座り続けている。

そのとき、部屋の電話が鳴った。

夫だろうか。佐代子は一瞬そう思い、すぐに別の考えを思い浮かべた。もしかして、彼が電話をかけてきたのかもしれない・・・・。

数回のベルを、佐代子は鼓動を高めたまま、見つめた。そして、それが夫であることを信じ、受話器を手にした。

「奥さんですね」
聞こえてきたのは夫の声でなければ、想像した彼の声でもなかった。

「・・・・・」
佐代子は、受話器を手にしたまま、返事を口にすることができなかった。

「奥さん、今、何をしてるんですか」
3人連れのグループの年長者、夕食の際、佐代子の隣に座っていた男性の声が、受話器の向こう側から届いた。

「困ります・・・・」
佐代子が思わず口にしたのは、その男を非難し、同時に、助けを請うようなトーンを伴った言葉だった。

こうして電話をかけてきている以上、彼らは私の部屋番号を知っている。佐代子はそれを感じながら、もう一度言った。

「困ります、こんなこと・・・・・」
「もう少しだけ我々と飲みませんか」

「もう、休ませていただきますから」
「レストランで感じていたんでしょう」

「・・・・・・」
「もっとあんな風にいじめられたいんじゃないですか、奥さん」

「いい加減にしてください・・・・・」
「この旅行が終わったら、もうあんな体験はできませんよ、奥さん」

「・・・・・・」
「どうでしょう、奥さん。今から部屋に伺ってもいでしょうか」

男の声色は本気だった。

「待ってください・・・・・、困りますから、本当に・・・・・・」
彼らがここに押しかけてくることを想像し、佐代子は声を高めた。

「無理に押しかけるつもりはありませんが。そんな風に奥さんに迷惑をかけてしまうことは我々の本意ではないですからね」

白々しい言葉を口にする男に、佐代子ははっきりと言った。

「もしいらっしゃったら、ホテルの方に連絡しますから」
「さっきのレストランのあの若い彼に、ですか?」

「おやすみなさい・・・・・・」
佐代子は強引に会話を打ち切り、受話器を置いた。激しい鼓動と共に、佐代子はしばらくの間、電話を見つめ続けた。

もう鳴ることはなかった。しかし、それは良い知らせとはいえないのかもしれない。佐代子はここに彼らがやってくることを想像した。

この場所にいるべきではない。

それ以上、何も考えることはできなかった。佐代子は再びドアのロックを外し、星空に包まれた屋外に飛び出した。

すぐそこにまで、彼らが迫ってきている気がする。佐代子は小走りで、あの場所に向かった。

曲がりくねる狭い小道を走り続けるにつれて、少しずつ落ち着きが戻ってくる。闇の中、人の気配はない。この方向には、客室もないのだ。

やがて、佐代子は歩き出した。息を整え、ゆっくりとしたペースで進みながら、佐代子は遠方にある家屋の灯りを見つめた。

本当に私はあそこに・・・・・

昼間、あんな刺激を与えてくれた彼の許に、人妻である私が夫に内緒で自分から向かっている。

佐代子がずっと従い続けてきた規範からは、かけ離れた行動だった。

ドアの前にたどり着いても、佐代子はその中の空間に踏み出す勇気がなかった。

しばらくの間、佐代子はドアの前で佇んだ。夕食の時と同じワンピース、そしてサンダルを履いたまま、佐代子は自分の部屋に戻ることさえ考えてしまう。

その時、ドアが僅かに開き、佐代子の細い腕が掴まれた。

「やっ・・・・・」
室内は漆黒の闇に包まれている。部屋の中に遂に導かれた佐代子は、暗闇の中で川原に抱きしめられた。

「佐代子さん、お待ちしてましたよ」
「川原さん・・・・・、私、ただ・・・・・・」
「何も言わないで」

一瞬、唇が吸われた。熱い彼の息吹。それだけで佐代子の両脚が震えた。

「こちらへ」
照明が全て消されている。闇の中、佐代子は彼に腕を引かれてゆっくりと歩いた。ちょうどろくろが置いてある辺りに、僅かな灯りが揺らめいているのが見える。

それは数本のキャンドルだった。

「佐代子さん、そこに立って」
ろうそくの灯りの中、佐代子は川原の姿を見つめた。ポロシャツとデニムという、日中と同じようなカジュアルな格好だ。

数本のキャンドルが置かれたテーブルの横に立った佐代子を、椅子に座った川原が優し気な視線で見つめる。

「素敵ですよ、佐代子さん」
「見ないでください・・・・」

丈の長いワンピースを着ているのに、佐代子はまるで自分が裸で立たされているように感じた。

「朝まで一緒にいてくださいますね、佐代子さん」
佐代子の決意を確かめるように、彼がそっとささやいた。

佐代子は唇を噛み、闇に溶けるフロアを見つめた。そして、彼と視線を交わす勇気を持たぬまま、小さく、ほんの僅かだけ頷くように顔を動かした。

「何をされたいですか、佐代子さん」
「・・・・・・」

「佐代子さんが望まれることをさせていただきます」
「川原さん・・・・・、私、どうしていいのか・・・・・・」

消え入るような声で、佐代子は彼に懇願した。こうして彼と二人でいるだけで、既に躰は蕩けるほどの熱を感じ始めている。

どこまでも焦らし続ける彼。声をあげたいほどの激しい欲情。佐代子の美唇に蜜の気配が訪れる。

「自分がいやらしい人妻だと思ったことはありませんか」
彼の質問が、佐代子の体奥を妖しく揺さぶってくる。

「そんな風に自分のこと・・・・・・、私・・・・・・・・・」
「佐代子さんはまじめだから、エッチなことさえ考えたことなんかなかったんでしょう」

佐代子の肌に汗が浮かぶ。舞台の上でいじめられているような感覚。

「ご主人以外の男性に抱かれる自分を想像してください」
「そんなこと・・・・・・」

あの3人の男たち。レストランで出会った大学生風の若者。このリゾートのプールで、ビキニ姿の私を見つめてきた男性客たち。

人妻である私を激しく求めてくる彼らの欲情。様々な妄想が佐代子の体奥で錯綜し、興奮の予感が高まっていく。

「今夜はご主人には内緒で」
「・・・・・」

「おかしくなるほどに、佐代子さんを狂わせてあげますよ」
「困ります・・・・」

部屋に押しかけようとした男たちに訴えかけたのと同じ言葉を、佐代子は艶めいた声で漏らした。

佐代子の美しい顔が、キャンドルの灯りの中で妖しく火照っている。恥じらいと戸惑い、そして興奮の気配。

駄目っ・・・・・・・・・

ワンピースを着ているというのに、佐代子は乳房を隠すように片腕を胸に置いた。ワンピースに隠された美脚に、侵入を拒むように力が込められる。

下方を向いて僅かに首を振る佐代子に、川原が命じた。

「佐代子さん、ショーツを脱いでください」


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