FC2ブログ

6本の腕(6)

2020 06 05
格子状の扉越しに広がる暗闇を見つめたまま、美智代は驚きで息を呑んだ。

「お一人でお越しですか?」

美智代の肩を軽く叩いた手の持ち主は、人妻の緊張に既に気付いていることを伝えるように、優しげな声を後方から投げた。

「えっ・・・・」

不安と高鳴る鼓動が入り混じった息を吐きながら、美智代は振り返った。

「驚かせてしまいましたね」
人妻とほんのわずかな距離を置き、一人の男性が立っていた。美智代と同じくらいの身長の彼は、白っぽい和装に身を包んでいた。

「どう声をかけようかと思ったのですが・・・・」

年齢も美智代と同じくらいであろうか。肢体が弾けるほどの驚きから解き放たれ、美智代は落ち着きを取り戻して彼のことを見つめた。

「つい我を忘れて覗き込んでしまって」
「せっかくお越しになったのに、こんな風に扉を閉ざしてしまって申し訳ないです。こちらにはお一人でお越しですか?」

自らの身分を明かす言葉と一緒に、彼はもう一度その質問を投げかけた。その視線は人妻を観察するように動いているが、美智代はそれに気づくことなく答えた。

「こちらには仕事の関係で来たんですが、少し時間ができましたので」
「歴史がお好きなんですね」
「こちらの彫刻はいつか実際に見たいと思ってたんです」

午後3時は既に過ぎただろうか。森の奥深くにあるこの場所は、しかし時間の感覚が失われているような空気感が支配している。

生茂る木々の向こう側に、眩しい陽光と青空がかすかに見える。ここにくる途中、何度か耳にした刺すような鳥の声が再び美智代の耳に届いた。

「私はこちらの史跡を管理している人間の一人なんです」
周辺の林を案内するように手で指し示しながら、彼は説明を続けた。

「年1回、この扉が開かれる時だけ、ここには多くの観光客がお越しになります。それ以外の時期で、今日のように平日となれば、このような山奥に足を運ぶ方はほとんどいらっしゃいません」

彼が銀縁の眼鏡をかけている事実に、美智代は今気づいた。その奥にある視線は、この地で起きた出来事を全て知っているような光を漂わせている。

「もちろん初めてですか、こちらは?」
「ええ。最初で、恐らくこれが最後になると思いますわ」

その言葉の意味を確認するように、彼はしばらくの間沈黙した。そして、人妻の要望を全てわかっているとでもいうような笑みを浮かべて言った。

「王妃をご覧になりますか?」
思いがけぬ彼の言葉に、美智代は先刻とは別の驚きに包まれた。

「えっ?」
「せっかくいらっしゃったんですから、特別に鍵を開けますよ」

「そ、そんな・・・・」
「失礼ですが、奥様、ですね」

美智代は薬指に光る指輪に彼の視線が注がれたことを感じ、素直にその問いに答える。

「は、はい・・・・」
「奥様がこの彫刻に本当に関心をお持ちであることがわかりました。それに・・・」

「・・・・」
「奥様にこそ、この王妃の姿は是非見ていただきたいのです」

鍵を手にした彼は、歩を進めて木製の扉に近寄ると、ためらうことなく鉄製の鍵を開けた。ぎーっという低い音と共に、重い扉がゆっくりと開かれる。

その瞬間、異空間から流れてきたような冷たい空気が人妻を包んだ。

「奥様、どうぞ中にお入りください」
言葉を返すことができなかった。彼に促されるまま、人妻は小さなお堂の中に足を踏み入れた。

暗い空間は、外とはまるで違うひんやりとした空気に支配されている。想像以上に広いスペースで、息苦しさを感じることはない。

「奥様、ここは別世界でしょう」

小さく頷きながら、美智代は前方の闇を見つめた。しばらくの後、背後に立つ彼が人妻に教えた。

「王妃が正面にいます」
漆黒の闇に包まれていた空間だったが、目が慣れてきたのだろうか、少しずつそこにあるものが見えるようになってきた。

やがて、正面の祭壇のような場所に置かれた、高さ2メートル程度の想像以上に大きな彫刻が見えてきた。

「・・・・」

何回か写真では見たことがある。だが、実際の彫刻を至近距離で目にし、美智代はまるで魔力に引き寄せられるように、視線を釘付けにされた。

仏像を思わせるように、すっくと立つ王妃がそこにいる。乱れた着衣の隙間から、豊かな乳房、そして丸みを帯びた下腹部の裸体がはっきりと確認できる。

王妃の両腕は、背中で手をつないでいるかのように後方に伸びている。

そして、美智代は見つめた。王妃の体に背後から伸びる6本の腕が、その美しい裸体を堪能し、いじめるようにまとわりついている様を。

戦士を思わせるような、筋肉質でたくましい6本の腕。王妃の服を脱がし、露になった胸元を愛撫し、彼女の両脚付け根付近に伸ばされた腕、そして指先。

それは、王妃の神聖な肉体をいじめ、貪るようにうごめく腕たちであった。

「どうぞお座りになってご覧ください」
彼に促されるまま、美智代は背もたれがある木製の椅子に座らされた。タイトスカートから伸びる美脚を揃え、手に持ったスーツの上着を太腿の上に置く。

そして息を呑んだまま、再び前方に立つ王妃の姿を見つめる。

「この王妃は敵国の兵にいたぶられているのでは、というのが一般的な解釈です」
人妻が座る椅子の背もたれに手を置いたまま、彼はそう教えた。

「王が王妃を一夜だけ敵国に渡し、その隙に攻め落としたという歴史家もいますが」
「・・・・」
「隣国にも美貌が伝わっていた妻の身体を、王は勝利のために差し出したのです」

美智代はいにしえの時代を想像した。美しい王妃が敵国の兵に捕らえられ、その熟れた肉体を時間をかけて堪能されていく光景を。

密室に閉じ込められた人妻の美しく官能的な裸体を、ゆっくりいじめていく3人の兵士たち。たくましくも、繊細な彼らの責めに、王妃の体がやがて震え始める。

王妃の表情を美智代は見つめた。うっとりとした顔つきで、顎を僅かに上に向け、小さな唇を開いている。それは懸命に男たちの責めに耐えている姿であった。

無礼者っ・・・・・、やめなさいっ・・・・・・・・

冷気の支配する空間に座りながら、人妻は今、濃密な熱を感じ始めている。素肌に汗が浮かび、ブラウスを僅かに湿らせ、美智代は無意識のうちに唇を噛んだ。

この暗闇は、異次元の空間に繋がる入口なのだろうか。美智代はいつしか瞳を閉じ、そこにいる王妃が男たちの6本の腕で追い詰められていく姿を想像する。

耐え続けている王妃の唇から、やがて濃密な甘さを隠し切れない息が漏れ始める。

やめてっ・・・・・、いやっ・・・・・・、あっ・・・・・・・・・・・

背後で何かが軋む音がしたことに、美智代が気づくことはなかった。

密かに扉の鍵を閉めた彼は、完全なる密室と化した空間に座る人妻の耳元で囁いた。

「王妃の腕は背後で縛られています」
椅子に座った美智代の両手が後方に導かれ、両手首が麻紐で拘束される。


(↑クリック、凄く嬉しいです)
 | HOME | Next »