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脅迫(22)

2010 03 06
「怪我はありませんか、奥さん!?」
「昨夜はどこで休まれたんですか!?」

ふもとまでたどり着いた志織と涼介を待ち受けていたのは、マスコミのカメラの放列だった。矢継ぎ早に届く記者連中の声に、志織はただ戸惑うだけだった。

親戚同士の高校生と主婦という、ハイカーとしてはやや珍しい組み合わせもあってか、マスコミからの質問はどこか好奇に満ち、同時に詰問調のものでもあった。

「志織、さあ、早く行こう」
明らかに動揺を見せている志織の背中を、久雄が優しげに押した。すぐ横には、緊張気味ではあるが、元気そうな足取りの奈津美がいる。

涼介と志織があの避難小屋を出発したのは、午前8時少し前だった。快晴ではあるが、またいつ雷雨に襲われるかわからない。二人は疲れを感じさせない力強い足取りで、昨日辿った道を逆に進んだ。

黙々と先を歩いていく涼介の背中を見つめながら、志織は無言だった。いまだに彼女は、不可思議な気分を引きずっていたのだ。

やがて、何人かの登山客とすれ違い、二人の安堵は増していった。そして、赤木が指摘した通り、午前中のうちに、二人は昨日昼食を摂った山頂にたどり着いた。

「志織! 涼介君!」
「ママ!」

登山客で賑わいを見せる頂上には、捜索隊と思われる何人かと一緒に、久雄と奈津美の姿があった。二人の姿を見て、志織の緊張は一気に緩んだ。

よかった・・・・・

奈津美の無事を確認できた瞬間、志織は深い安堵に包まれるのと同時に、自らのあの記憶がやはり現実のものでなかったのだと痛感した。

「大丈夫か、志織・・・・」
「あなた・・・・、ごめんなさい・・・・」

溢れ出る涙をこらえようともせず、志織は久雄の元に駆け寄り、その胸に飛び込んだ。捜索隊の面々が、そんな二人を見守り、登山客からは拍手も起こっている。

「いったいどうしたんだ、志織・・・・」
志織を抱きしめながら、そう訊いてくる久雄に、涼介が申し訳なさそうに答えた。

「俺が全ていけなかったんです、久雄さん・・・・」
涼介は、昨日午後からの一連の出来事を、久雄と捜索隊に手短に説明をした。

予定とは違うコースへと自分が誘ったこと、登山道から滑落したこと、そして雷雨に遭遇した後、暗闇の中で道に迷ってしまったこと。

「そうか、その方に助けてもらったのか・・・・」
偶然遭遇した一人の登山家に避難小屋まで案内してもらったという涼介の話に、久雄は深い謝意を示すような口調で答えた。

「そうなんです。赤木さんっていう人で、食事まで用意してくれて。で、その小屋で1泊して、今朝、赤木さんとは別れたんです・・・・」

涼介の説明に、志織は何も言葉を挟むことができなかった。それが事実なのだ。志織は、懸命に自分にそう言い聞かせていた。

「奥さん、とにかくふもとまで戻りましょう。それから簡単な事情聴取をさせてもらいますから」

「本当にご迷惑をおかけしました・・・・」
捜索隊のリーダーらしき男に対し、志織は深々と頭を下げた。

ふもとへ向かう登山道を、志織は奈津美と手を繋いで下っていった。母親と無事に再会できたことにはしゃいでいる娘の姿には、赤木に拘束されたという気配など微塵も感じ取ることはできなかった。

「奈津美、ずっとパパと一緒にいたの?」
志織は、娘の様子を伺おうと、さりげなくそう訊いた。

「そうだよ。暗くなってからもずっと待ってたんだけど、結局寝ちゃった」
「そっか・・・・」

娘の暖かい手を何度もきつく握りながら、志織はふもとにたどり着くまでに、どうにか気持ちの整理をつけようした。

あの記憶が現実のものでないことは、どうやら確かなようだ。だとしたら、あれは、自分自身の夢だったことになる。

しかし、ただ単に夢という一言で片付けることができないような、どこか重く濃厚な記憶が、体の芯にはっきり刻み込まれていることを、志織は感じていた。

体のあちらこちらが依然として痛み、随分ましにはなったが、鈍い頭痛もかすかに残っている。風邪から回復したばかりのような、妙な感覚が体に残存している。

それは、あの記憶は実際に起こったことなのだと、志織に伝えようとしているようでもあった。

汗ばむほどの日差しの中、志織は下り道を歩きながら、昨夜の記憶を思い起こしていた。赤木に脅迫され、服を脱がされた後、自慰行為を強要された自分・・・・。

その後、涼介に愛撫を加えられ、濡れ始めた肉体は、もう抑えることができなかった。眠り続けていた欲情が、目覚めてしまったかのように、志織は涼介と激しく愛し合い、初めての絶頂にまで昇り詰めてしまった。

硬いペニスで気が遠くなるほどに貫かれた快感の余韻が濃厚に残っている。涼介の腰の突き上げから伝えられた震動を、志織はまだはっきり思い出すことができた。

歩きながらでも、志織は感じていた。ショーツの下のあそこが、依然として熱を帯び、疼き続けていることを。

あれが夢だとしたら、いったい自分はなぜあんな夢を見てしまったのか・・・・。そんな質問を心に浮かべた志織は、すぐに一つの推測に思い当たる。

私は無意識のうちに、あんなことをされるのを望んでいたのだ・・・・

夫以外の男に淫らな行為を強要されること。高校生の若々しい肉体に乱暴に愛されること。そして、いやらしく男の上で脚を広げ、自分から腰を振ることを・・・・。

性的な妄想など一度だってしたことはない。穏やかで、常識的な主婦と勝手に思い込んでいた自分の本当の姿は、そんな欲深い娼婦のようなものだったのか・・・・。

ふもとに到着し、記者からの質問、そして途切れることのないカメラのシャッター音を耳にしながら、志織の心はそこにはなかった。

彼女は、どうしても、自分の推測を受け入れることができなかった。それであれば、自分がとるべき行動はただ一つだけだと、志織は既に決断していた。

もう一度、あの男、赤木に会うのだ・・・・・。



(↑いったん中断しようかと思いましたが、このまま書き続けることにしました。クリック、凄く励みになります)


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Comment
つづきがたのしみです。

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