FC2ブログ

脅迫(24)

2010 03 09
自宅前の細い道に、宅配便の車が停まっているのが見える。忙しげな様子で降りてきた運転手が、白色の箱を持ち、斜め前方に見える家の前に立った。

何度かドアフォンを押すが、どうやら留守のようだ。不在票らしき紙片を郵便受けに入れると、彼は車に飛び乗り、そのまま次の目的地へと消え去った。

穏やかな午後の静寂が、再び志織を包み込んだ。

そんな日常の何気ない風景にすがりたいほどに、志織は動揺していた。誰もいない道を、なおもしばらく見つめた後、志織は再び携帯のディスプレイを覗き込む。

「オクサン、オボエテイマスカ、アノヨルノコトヲ」

見つめれば見つめるほど、そこに漂う不気味さは増してくるようだった。2週間前のあの夜の記憶が、志織の脳裏に鮮明に蘇ってくる。

誰・・・・、いったい誰なの?・・・・・

汗ばんできた手で携帯を握り締め、志織はそのメッセージを見つめ続けた。しかし、それは勿論、幻想の中のものではなかった。

こんなメールをもらったことなど、過去には一度もない。アドレスから判断する限り、どうやら携帯から送信しているらしい。志織はダイニングの椅子に深く身を沈めたまま、ゆっくりと息を吸い込んだ。

落ち着いて・・・・、落ち着くのよ・・・・

一瞬、誰かに見つめられているような気がした。志織は立ち上がり、素早くリビングの窓辺に駆け寄った。しかし、自宅の門の周辺、そして先ほど宅配便の車が走り去った道に人影はない。

志織はカーテンをきっちりと引き、部屋の中が外から見えないようにした。視線を感じたせいもあるが、今の自分自身の姿を、誰にも見られたくなかったのだ。

再びテーブルに歩み寄り、志織は椅子に座った。そして、自分がどんな状況に置かれているのか、冷静に考えてみようとした。

まず考えられるのは、単なるいたずら目的のメールだということだ。入手した大量のアドレスに対し、一方的に迷惑メールを送りまくり、そこから反応があった人間に、更に巧妙な罠を仕掛けていく。これは、昨今の犯罪の常套手段でもある。

こんなメール、無視すればいいのよ・・・・

だが、それができないことぐらい、志織にはよくわかっていた。画面に浮かぶ短い文章には、あなたの混乱を知っているという脅迫めいた匂いが、濃厚に感じられたのだ。

あの山小屋で一晩過ごした後、志織は自分の人生が確実に別のレールを進み始めたことを感じていた。それは決して大げさな表現ではなかった。

全てが元の日常に戻ったというのに、志織の体奥では、依然として何も解決されてはいないのだ。その混乱を見透かしたかのように、今、メールは届いた。

あの男だろうか・・・・・

赤木の姿を思い浮かべながら、志織はその可能性について考えてみる。小屋の中で深い眠りに陥った人妻の携帯電話を手にし、メールアドレスを探りだすことなど、彼にとっては簡単だったはずだ。

やはり、あの小屋で何かあったのだ・・・・・

志織はそう確信した。あの男は私が知らない事実を知っている。それを材料に、私をいじめようとしているのだ。

自分が赤木に教えられた会社の代表番号に電話したばかりであることを、志織は改めて思い出した。赤木はそれを知った上で、私に接近してきたのか・・・・。

冷静さを忘れてしまうほどに、志織はあの男への憎しみを感じていた。それは、あの夜、彼が何かを仕組んだらしい、という理由からではなかった。

志織は、ただ真実が知りたいだけだった。涼介も眠り続けていたとなれば、それを知っているのは赤木だけだ。姿を消し、真相を隠し続けている彼に対し、志織は深い憤りを感じてしまうのだった。

なおも携帯を見つめ続け、志織は無意識のうちに返信ボタンを押した。そして、相手の素性を探ろうと、短いメッセージを送ろうとしたときだった。

プルルル・・・・・・

再び鳴った着信音に、志織は息を呑んだ。じりじりと追い詰められるような感覚に襲われながら、志織がそれを開く。

「奥さんはもう忘れられないでしょう、あの快感が」

カタカナではなく、見慣れた文字での表記に、かえって濃密な刺激を覚えてしまう。ただその文章だけで、志織は淫らな自分が目覚めようとしていることを感じた。

この2週間、気づかぬ振りをしていた欲情の存在を、志織はもう、無視することができなかった。そのメッセージは、夫にも告白できない、人妻が抱えた秘匿を、正確に指摘していた。

私の夢の中の風景を、この男は知っている・・・・。いや、あれは夢ではないのかもしれない。志織の心に、再びその疑念が浮かび上がった。

あの夜の記憶の中で、現実と虚構の境界線がいったいどこに存在するのか、志織にはもう、判断できないような気分だった。

プルルル・・・・・

混乱を加速させる志織に、更に新しいメッセージが届く。

「椅子に座ってるんだろう。脚をゆっくり広げるんだ」

鼓動が耳に届くほどに高鳴っているのを感じる。窓に視線を投げるが、カーテンは完璧に外からの視線を遮断している。

あの男から、自分はもう逃れられないのだと、志織は感じていた。支配されている。完全に。それは、この2週間、ずっとそうだった。

「ベルトを外せ。ジーンズのジッパーを下げろ」

矢継ぎ早にメールが届くディスプレイを、志織はぼんやりと見つめ続けた。涼介の裸体の上で、激しく腰を振る自分の姿を思い起こす。

ずっと思い出さずにいようとしていたその記憶に手を染めてしまった志織には、もう、我慢することなどできなかった。

涼介君・・・・

あの若者のたくましいペニスに貫かれる自分を想起し、志織は右手をそっと伸ばし、男の指示通り、デニムのベルトをゆっくりと外した。



(↑クリック、凄く励みになります)


エルシーラブコスメティック
Comment
カタカナだけのメッセを見た時、
ゾクッとしました。
完全に自分の事のようにハマってしまってますw

あの小屋で飲んだスープには
エロ妄想の秘薬でも入ってたんでしょうか。。
ナゾは深まるばかり。。

先急ぐ気持ちで読んでおります。

管理者のみに表示