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脅迫(33)

2010 03 19
「ご主人は週末にもよく仕事が入るんですか?」
ビールが注がれたグラスを握ったまま、赤木がそう尋ねた。

「え、ええ、時期にもよるんですんけど・・・・」
「そうですか。それは奥さんも大変でしょう」

志織はすぐに言葉を返すことができなかった。自分達が仕組んだシナリオが、この男に全て筒抜けになっているような気がしたのだ。

大丈夫、彼は何も知るはずはないわ・・・・

心の中でそう繰り返しながら、志織は赤木との二人きりの時間を過ごした。それは、ほとんど会話も交わされることのない、どこか息苦しい時間だった。

人妻の本音を探るように、時折赤木が視線を投げかけてくる。それを感じる度、志織は顔を背けたり、或いは席を立ってキッチンへ向かったりした。

「どうしました、奥さん、お疲れですか?」
「い、いえ、そんなことないですけど・・・・・」

「じゃあここでゆっくりと食事を楽しもうじゃないですか」
男の言葉が志織には、決して逃がしはしないという脅迫のように響く。

それ以上動き回ることを許されないかのように、志織は椅子に座った。いったいこの男がどんな行動に出ようとしているのか、志織には全く予想できなかった。

これまでのところ、彼の仕草に不審な色は全く感じられなかった。刑事が指摘したように、食事やドリンクに何か薬物を混入させるような行為も一切確認できない。紳士的な態度に終始している赤木が、志織には逆に怖かった。

「奥さん、もう山には登らないんですか?」
「えっ?・・・・」

突然、赤木が志織に向かって質問を投げかける。その男の素性をあれこれと考えているときに、そんなことを訊かれ、志織は言葉に窮した。

「学生時代には随分登られたんでしょう。久しぶりに出かけた山であんな目に遭ってしまって、もう懲りたんでしょうか?」

「え、ええ・・・・、やっぱり中途半端な気持ちで山に行ってはいけないんだと、改めて思い知らされました・・・・」

少しばかり俯き加減で、手にしたグラスをじっと見つめたまま、志織はそう答えた。男の攻撃が既に始まっていることを、志織は感じていた。

「どうですか、奥さん、今度は私と一緒に登りませんか?」
顔を上げ、志織は思わず赤木を見つめた。たったその一言で、頬が赤くなったような気になるのは、いったい何故だろうか。

「いつも1人で登るんですけどね。奥様のような美人の女性と一緒に歩くっていうのも、随分楽しいような気がするな」

志織の戸惑いを楽しむように笑みを浮かべながら、赤木は言葉を続けた。姿勢を正そうと動かした脚の先が赤木の足にかすかに触れ、志織は慌ててそれを引く。

「それとも、また涼介君と一緒がいいのかな。その後、彼は元気にしてますか?」

あの登山の後、涼介は再び多忙な高校生活に戻ったようで、志織はほとんど話す機会もなかった。それを説明する余裕もなく、志織は赤木の言葉にただ頷いた。

じわじわと、この男に接近されているのを感じる。あの山の記憶を、少しずつ思い出させようとしている。赤木の意図が、志織にはよくわかるような気がした。

「あの、赤木さん・・・・・」
彼のペースを乱そうとするかのように、志織は自分からそれを口にした。

「私、あの小屋での記憶が、何と言うか、はっきりしないんです・・・・」
「ほう、そうなんですか?」

赤木の表情に、かすかな緊張が走ったように見えた。彼にとっての秘密がそこに隠されていることを確信し、志織は話を続けた。

「赤木さんが外に出かけた後、私、すぐに眠ってしまったんです。涼介君も同じだったみたいですけど・・・・」
「眠っていたなら、それは記憶なんてないでしょうね」

「それがその、全くないって言うんじゃなくて、その後に起きたことをぼんやりと覚えているような気がして・・・・」

目の前の男を誘うかのように、志織は思い切ってそんな言葉を口にした。ビールに少し口をつけた赤木は、志織を見つめながら、ゆっくりと答えた。

「具体的にどんなことを覚えているんですか、奥さん?」
「それは・・・・」

言葉に詰まる志織から視線を逸らすことなく、赤木は少し唇を歪ませた。それは彼の動揺の表れとも、或いは興奮の兆候とも感じ取れる仕草だった。

「ご主人にはお話したんですか、その記憶のことを?」
「・・・・」

「まさか、話せるわけないでしょうね」
正体を遂に曝け出すように、赤木がおかしそうに笑う。その瞬間、その男への志織の怒りが露にされた。

「赤木さん、あなたは全て知ってるんでしょう、あの夜のことを・・・・」
「奥さん、別に私が教える必要はないでしょう」

「・・・・・」
「奥さんの体が覚えているんじゃないですか?」

とどめを刺されたかのように、志織はしばらく黙ったまま、椅子に座り続けた。赤木もまた、動こうとはしない。再び訪れた沈黙の中、志織は捉えられた獲物のように肢体を硬くさせながら、しかし、どこか違和感を感じていた。

最初、それが何に起因するのか、彼女にはよくわからなかった。だが、突然、志織はそれに気づいた。

いつのまにかテーブルの下で、赤木のつま先が志織のふくらはぎに触れている。ゆっくりと上下に動くそれは、志織の肢体に震えるような感覚を伝えてくる。

やめてっ・・・・

テーブルを見つめたまま、志織はきつく脚を閉じた。明らかにそれは、男の意図的な行為だった。足の親指の先で、人妻のすねから膝の内側付近をさすり続けてくる。

どういうわけか、志織はすぐに声を出すことができなかった。抵抗を言葉にしてしまうと、その男に対して負けを認めてしまうような気がしたのだ。

志織が強く抵抗できないことを確認し、赤木の行動は少しずつエスカレートしていく。スカートの裾に触れたつま先が、閉じられた人妻の両脚を強引にこじ開ける。

助けを請うように、志織は一瞬、壁にかかるバリ土産の仮面を見つめた。だが、そこに隠されたカメラに、テーブルの下の行為が撮影されているはずもない。

あなた、私、どうすれば・・・・

「奥さんの体が覚えているかどうか、今確かめてあげますよ」
ぐいと突き出された赤木の足が、一気にスカートの中に達する。

息が急速に乱れ始める。それは男の行為のせいだけではない。志織は妙な興奮に襲われていた。自分の姿が夫に覗き見されていることを思いながら・・・・。



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