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嘘のしずく(5)

2010 05 01
中川が予想したとおり、テーブルの二人は共に日本人駐在員の妻だった。彼女達は一緒に飲もうという中川の誘いを迷う様子もなく受け入れた。

香奈、なつみ、とそれぞれの名前を紹介した二人は、どちらも若く、20代と思えそうな風貌をしていた。二人ともまだ子供はいないということだった。

「いいの、こんなところで遊んでても?」
「え~、別に遊んでなんかいませんよ~」

中川のからかうような言葉に、香奈が笑いながら答える。彼女のその一言を聞いただけで、私はそこに中川と同じ雰囲気が漂っていることに気づいた。

表現は悪いが、異性と派手な交際をしてきた過去を持つ女性のように思えたのだ。

いったんそう感じてしまうと、彼女がここにいる理由が何となくわかる気がした。恐らく、夫は家にいないため、暇を持て余してここに来たのだろう。

会話はもっぱら、中川と香奈の間で交わされた。私はそれを聞きながら、もう1人の女性、なつみの様子も観察してみた。

短く束ねた美しい髪が印象的な女性だ。はっきりした目鼻立ちは、隣に座る香奈よりも男好きがするタイプといえた。

半袖のシャツに膝丈のパンツというラフな格好だが、そこに下品さは感じられない。細身ながら、豊かな胸の膨らみがシャツの上からでもはっきりわかる。

「なつみさんのご主人も日本に行ってるの?」
どうやら香奈の夫は日本に出張しているらしい。それを知った中川が、それまでほとんど喋ることのなかったなつみに、そう訊いた。

「日本じゃないけど、出張中なんです」
「へえ、ちなみにどんな会社、ご主人は?」
「えっと、自動車関係なんですけど・・・・」

少しためらいながらも、なつみはそう答えた。中川が注文したワインボトルを4人で分け合いながら、私たちは彼女達の背景をいろいろと訊いてみた。

二人ともこの国に来て3年近く経つらしい。ゴルフ教室で知り合った二人は、たまにこんな風に出かけて食事などをする仲ということだった。

この国の事務所を拠点として周辺国を管轄するという企業は多い。そのため、夫が頻繁に出張して不在がち、という駐在員家庭も珍しくない。

どうやら香奈もなつみも、そんな境遇にあるようだ。私は二人の人妻を見つめながら、自宅で待つ晃子のことを思い、そしてまた、彼女達の夫のことを想像してみた。

そのとき、中川の携帯が鳴った。立ち上がり、慌てた様子で中川が店の外に出ていく。残された私は居心地の悪さを感じたが、予想以上に早く彼は戻ってきてくれた。

「風間、友達が合流するっていってるけどいいかな? 昔、よくつるんでた奴なんだ。大場っていうんだけど、風間は知らないか」

私は、中川の遊び仲間をほとんど引き継ぐことはなかった。恐らくは、彼と同じ、独身の駐在員なのだろう。

断る理由もないことを、私は彼に告げた。二人の人妻達も、別に構わないとのことだった。そして10分もしないうちに、その男はやってきた。

「あれ、中川、また知らない女の子連れてるの?」
「大場先生のために、ちゃんとキープしておきましたよ」

旧友との再会に嬉しそうな中川がそんな科白で出迎えた。香奈となつみは大場を歓迎するように笑っている。私たちは簡単に互いを紹介し、改めて乾杯した。

「へえ、二人とも人妻なんだ・・・・」
目の前の二人の女性を見つめながら、大場がうまそうにワインを飲む。

「そうだ中川、人妻といえば面白い話があってさ」
大場のその言葉に、香奈となつみも身を乗り出してくる。

「日本人駐在員妻の売春組織があるらしいぜ」
「え~っ?」
香奈が思わずそう叫ぶ。

「知ってた、中川?」
「昔から噂はあったよな。客は日本人専門でそういう組織があるらしいって」

「まあな。それが笑っちゃうんだけど、旦那の本社に密告されてばれたらしいんだよ」
「旦那の本社に?」

「そう。お宅の会社の○○に駐在している誰々さんの奥さん、売春してますよって」
大場の話に、テーブルの全員が声をあげて笑う。

「大場、それ、どこの会社なんだ?」
「某商社らしいけどね。たぶん、同じ会社の駐在員妻同士で密かに結成したんじゃないか? 旦那ばっか遊びまわっててしゃくだから売春でもやりましょうか、って」

「んなわけねえだろ!」
「いや、それで更に笑っちゃうのがさ、本社がどういう反応したと思う?」

「そりゃ即強制帰国だろう。奥さんに売春させちゃう駐在員はさすがにまずいよ」
中川の言葉に、私、そして二人の人妻もうなずく。

「それが違うんだよ。ご主人の給料上げるから、頼むから奥さん、もう売春はしないでくれ、って本社の人事が頼み込んだらしい」

再び香奈がえ~っ、と叫び声をあげる。私と中川も思わずふきだした。そんな話が、現実にあるものだろうか。

「よほどその駐在員がVIPだったのかよくわからんけど。しかし笑うよな。その奥さん、別に金目当てで男遊びしてるわけじゃないと思うんだけどね」

本社の対応の真偽はともかく、駐在員の妻が夫に隠れて体を売っている、というのは、絶対にないとは言い切れないような話だった。

夫が出張で不在が多ければ、時間は余るほどにあるのだ。刺激的な異国での生活も、単調な毎日が続いてしまうと、羽目を外したくなるのかもしれない。

「凄いわね、その話。じゃ、まだその組織はあるのかしら」
興味深そうに、香奈が大場に問いかける。

「だろうね。案外、香奈ちゃんと同じコンドでやってたりして」
「きゃ~、やだ!」

大場と中川の巧みな話に、二人の人妻はぐんぐん引き込まれていくようだった。私たちは、午前零時を回る頃までその店で飲み続けた。

「えっ、もうこんな時間?」
最初にそう言ったのは香奈だった。彼女の話によれば、明日は朝からゴルフレッスンだから、そろそろ帰宅したいとのことだった。

「いいじゃん、もう少し飲もうよ」
「でも・・・・」

「じゃあ、俺の家で飲み直す?」
「え~、大場さんの家で?」

「男の1人暮らし、人妻としてはどんな部屋か見てみたいでしょう?」
「あ~、どうしようかな・・・・・」

大場の提案にしばらく迷った後、香奈はやはり家に帰ると言った。遊び人の印象を持っていた私には、彼女のその決断は少し意外だった。

同時に、私は確かな安堵を得た。香奈が帰るのなら、なつみも一緒に帰るだろう。これで今夜の会はお開きで、後は中川と大場が二人で過ごせばいいだけだ。

だが、私のその予想は外れた。なつみは大場の誘いを受け入れたのだ。



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