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嘘のしずく(22)

2010 05 10
「風間さん、土曜日は申し訳なかったですな・・・・」
電話をかけてきた男の声に、何かを隠している気配は感じられない。

週末の長い夜の記憶が、依然頭の中に居座っている。月曜の昼前、西脇からの電話をもらった私は、すぐに言葉を返すことができなかった。

あの夜、エレベーターで逃げるように地上に降りた私は、後を追うように8階から降下してきたもう1基のエレベーターの表示灯を、じっと見つめていた。

それは、私がいた1階ではなく、地下で停まった。私は、駐車場をふらふら歩き自宅へと戻っていく西脇の姿を思い浮かべながら、まだ高鳴る鼓動を感じていた。

しばらくの後、自宅に戻った私を待っていたのは、ボトルやグラスが散乱するダイニングテーブル、そして変わらずに眠り続ける妻、晃子だった。

ベッドの上で何事もなかったかのように、妻は心地良さそうな寝息を奏でていた。その姿は、月曜になっても私を混乱し続けていた。

「どうしました、風間さん?」
「い、いえ・・・・、随分飲まれましたね、西脇さん。もう大丈夫ですか?」

私は相手の男の冷静な口ぶりに戸惑いつつ、言葉を搾り出した。電話の向こうの西脇に、私の質問に動揺する素振りはやはりない。

「ほんとにお恥ずかしい限りです。つい飲みすぎてしまって・・・・。目が覚めたときにはお部屋にはもう誰もいませんでしたよ・・・・」

男の言葉が、さりげなく私を非難するように聞こえてくる。なつみとの秘め事を、この男は全て知っているのではないか、という懸念が私を襲う。

「奥様がお疲れのようでしたから、先にご自宅にお送りしたんです・・・・」
「ええ、そうみたいですね」

西脇の言葉に、私は自分の説明に矛盾が生じていないことを知り、軽い安堵を得る。なつみは西脇をうまく納得させることができたようだ。

「西脇さんは結局何時ごろ帰宅されたんですか?」
「どうだろう、もうかなり朝方だったと思いますけどね」

「恐らく私が奥様をお送りした少し後だったんじゃないでしょうか。その後自宅に戻る私と入れ違いになったみたいですね」

「そうだと思いますよ。いや、本当にご迷惑をおかけしました。とにかくお詫びの電話を早く風間さんに、と思いましてね」

私となつみとの関係を、やはりこの男は夢にも疑っていないようだ。同時に、私の妻の寝室で犯した行為についても、彼は全く触れようとしない。

ひょっとしてあれは泥酔の夢の中で行ったことで、彼自身、覚えていないのかもしれない・・・・。そんなことを考えている私を揺さぶるように、西脇が言った。

「風間さんだけでなく奥様にもご迷惑をおかけしたかと思いますが、どうですか、大丈夫でしたか? 奥様が休まれたのをいいことにあんなに長居してしまって」

それは、妻のその後の様子に関して探りを入れてくるような言葉だった。私は改めて思いを強めた。この男は間違いなく、「あのこと」を覚えているのだと。

「大丈夫でしたよ。妻は朝までぐっすりと眠っていましたから」
「そうですか。どうかくれぐれもよろしくお伝えください」

私の言葉に満足するようにそう答えると、西脇は電話を切った。電話をもらう前と比較し、私の感情の揺れは決して小さくなってはいなかった。

なつみとの情事が露見していないことは、いい報せだった。だが、この男が確信犯として妻の体に触れ、自慰行為をした事実は、私の心をじわじわと攻撃してくる。

「結局何時まで飲んでたの、昨日は?」
日曜の朝、妻、晃子が投げてきた質問を私は思い出した。

その口調には、西脇を嫌悪する雰囲気が濃厚に漂っていた。自宅へと押しかけ、遠慮なく飲み続けたあの男を、妻はやはり受け容れることができないのだ。

「3時か4時頃までかな」
「こう言っちゃなんだけど、随分失礼ね、あの西脇さんっていう人・・・・」

「そうだな。俺もあそこまであの人が飲むなんて思ってなくてさ。結局、酔いつぶれてソファでしばらく寝てたんだよ、あの人」

「第一印象からいい感じしなかったけど、やっぱり当たってたわ。ねえ、もういやよ、私、あの人と一緒に食事するのは」

きっぱりとした口調で、晃子は私に言った。だが、寝室で受けた「被害」について、結局妻は一言も口にすることはなかった。

全く気づいていないのだ。あの男の不潔な手で素肌を撫でられ、ブラの上から乳房を揉みしだかれ、大量の精液で体を汚された事実を・・・・。

ならば、このままあの記憶は封印してしまえばいい。西脇が今後何を望もうと、妻には過去の記憶はないのだ。あの男を晃子にこれ以上近づけるものか。

西脇との電話を終えた私は、そんな風に考え、あの夜、寝室で目撃した光景を忘れようとした。そして、なつみとの再会だけを待望しようと試みた。

しかし、それは簡単なことではなかった。月曜、火曜・・・・、日々が経過していくにつれて、くすぶり続ける疑問が私を縛りつけていく。

それは、こんな疑念だった。「あのとき、本当に妻は気づいていなかったのだろうか」。そう思わせるのは、私が確かに見てしまった妻の「反応」だった。

西脇が妻の小ぶりな胸を愛撫し始めたとき、一瞬、彼女は顔を左右に動かすように見えた。それはまるで、湧き上がる快感に我慢できないような仕草だった。

そして射精の直前、あの男が「奥さん」とつぶやいたとき、妻は再びそんな風に首をかすかに振った。更に男の液体を腹部に降りかけられたときには、男との淫らな戯れに満足するかのように、晃子は唇を噛んだ。

思い過ごしだろうか。いや、確かに晃子はそんな風に反応していた。だとしたら・・・・。西脇をきっぱり拒絶する妻の言葉も、私の疑いを消すことはできなかった。

時間が経過するにつれて、その苦悶は大きくなっていった。仕事に集中することもできない。目を閉じれば、西脇に愛撫されて表情を歪める妻の姿が浮かんでしまう。

いつしか、私は1つの結論めいた考えに達していた。それは、妻の態度を確かめると同時に、私があのときに感じた興奮を再び味わうためのものでもあった。

もう一度、西脇にチャンスを与えてやるのだ・・・・。そのときに妻がどんな反応をするのか、それを直接この目で確かめてやればいい。

しかし、どうやって・・・・。しばらくの間、理想的な計画を描き出すことができなかった私に、意外な形でその機会は訪れることになる。



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