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波涛の彼方(11)

2010 07 01
「どうだ、何か問題はないか、朋子?」
その夜、珍しく早い時間に高校から帰宅した隆夫は、夕食の席で妻にそう訊いた。

島に来て1ヶ月が経とうとしている。この1ヶ月は高校での新たな職に集中していたせいか、隆夫が朋子と会話する機会は以前にも増して少なかった。

夫の突然の質問に、朋子はすぐに答えることができなかった。今日の昼間、あの浜辺で体験したことを夫に言うべきだ。理性はそう指示をしている。

しかし、朋子は迷っていた。それがどういう経緯であれ、村岡という男と自分が接近したという事実を夫に知られるのは、朋子には抵抗があった。

「随分慣れました、ここでの生活も・・・・」
「そうか。何か都合が悪いことがあったら、すぐにいいなさい」
「ええ、そうします・・・・」

夫は何故今夜、そんなことを訊いてきたのだろう。自分の表情に何か不安な色が浮かんでいたのだろうか。朋子は、夫に全て見透かされているような気になった。

責められることは何もないはずだ。一方的にあの男にいやがらせをされただけなのだ。あずさと名乗ったあの女性の話によれば、村岡は昔から評判の悪い男らしい。また同じようなことをされる可能性だって高い。

早い段階で夫に話しておいたほうがいいのではないか。何故隠そうとするのか。食事を進めながら、朋子は何度も胸の内で自分自身にそう問いかけてみた。

その理由が、しかし、朋子にはわかっていた。動物のような無礼な村岡の行為に対し、わずかでも動揺してしまった自分を、夫に知られたくはなかったのだ。

手を握り、汚い息を吹きかけながら、乳房を愛撫してきたあの男の手。強引なキスを与えながら、閉じた唇をこじあけるようにして動いてきた彼の舌。

そして、デニムの上から太腿の隙間に手を差し込まれ、何度も指先であそこを突かれたときに与えられた、言いようのない刺激。

あのとき、あずさが救出に来なかったら、いったいどうなっていたのだろうか。シャツのボタンは既に数個外され、閉じた脚も緊張を解き始めていた。

決壊してしまうように、唇を開いていたのではないだろうか。あの男に舌を吸われ、そして服を脱がされてしまう自分を、私は心のどこかで思い描いていた・・・・。

そんな馬鹿なこと・・・・。あんな男の行為に私が溺れるはずがない・・・・。

激しく葛藤するそんな声が、あの浜から戻る途中、そして家に帰った今でも、何度も体奥で響くのを朋子は感じていた。

この島での初夜が原因なのだろうか。隆夫に激しく抱かれ、絶頂の予感を初めて知ったあの体験が、この肉体の何かを目覚めさせてしまったのだろうか・・・・。

「どうした、朋子。どこか体調でも悪いのか?」
目の前に座る妻に対し、隆夫がそう声をかけてくる。

「いえ、大丈夫です・・・・・・」
朋子は胸の内の戸惑いを消し去ろうと、努めて明るい口調でそう答えた。そして、話題を変えるように、夫にある質問を投げた。

「あなた、前任の方とは連絡をとってるんですか?」
「前任って、僕の前に教師をやっていた男のことかい?」
「ええ。確かあなたの学生時代の友人だったとか・・・・・」

唐突な感が自分でもしたが、朋子は思い切って夫にそう聞いてみた。昼間、あずさに聞いた話が少し気になっていたのだ。

「いや、ここに来てからは特にやり取りはしてないよ。もともと、それほど親しい友人というわけでもないからな」
「そうですか・・・・・」

「何か気になることでもあるのか?」
「いえ・・・・、どちらの出身の方だったのかなって少し思ったものですから・・・・」
「僕達と同じだよ。今頃は東京での生活を再開していることだろう」

隆夫の言葉が、確かな意味を持って朋子に届いた。前任者も東京出身なのだ。それならば、彼の妻が村岡にいやがらせをされたのもよくわかる。

彼女に一度話を聞いてみたいものだ。この島での生活がいったいどんなもので、そして、あの男に何をされたのか。

その夜は、夫からそれ以上聞き出すことは難しそうだった。急ぐことはないだろう。自分自身、もう少しこの島のことを知ってからでもいいのかもしれない。

朋子はそんな風に自分を納得させ、昼間の記憶を忘れ去ろうとした。

とにかく、村岡のような男に今後一切、隙を見せてはいけない。あずさの忠告を朋子は再び胸に刻み込んだ。

それからの1週間は平穏な日々だった。隆夫は高校に毎日出勤し、朋子も家事に専念した。何のトラブルに見舞われることもなかった。

再び、朋子の生活にさざ波が立ち始めたのは、更に数日後のことだった。

「何かしら・・・・・・」
その日、いつものように買い物から帰宅した朋子は、郵便受けに何か紙包みが入っていることに気づいた。

どうやら郵送されてきたものではないようだ。住所も宛名も書かれてはいない。紙包みは、粗末な紙袋が折りたたまれたものだった。

中身を目にした瞬間、朋子は確かな衝撃に襲われ、その場に立ち尽くした。



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Comment
いい感じですね^^。
紙の中には朋子夫婦のアレの写真ですか?

それとも・・・。
想像を覆すような展開を期待します^^。

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