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波涛の彼方(27)

2010 07 08
夏祭りまで1ヶ月を切ろうとしていた。カレンダーは既に7月であり、梅雨明け前の蒸し暑い日々が続いている。

城崎朋子は、自治会メンバーの1人として祭りの準備に忙しくしていた。何度かの会合にも全て参加し、他の会員とも随分距離を縮めた。

幸いなことに、初回の食事会のような破廉恥な状況が再現されることはなかった。老人達は、あの夜が嘘のように、真面目な態度で準備に取り組んだ。

東京から来た人妻に、これ以上島の恥部を見せたくはない。彼らの生真面目な姿には、どこかそんな本音が隠されているように、朋子は感じていた。

「奥さん、その後、問題なくお過ごしですかな?」
何度目かの会合で、朋子はあの老人に声をかけられた。食事会で司会を務め、短時間、朋子と一緒に酒を酌み交わした、三原という名の老人だ。

彼の言葉の裏には、明らかに村岡の存在が含まれていた。蕎麦屋の2階の座敷で、村岡に乳房を愛撫されていた人妻の姿を、彼は当然記憶しているはずだ。

「え、ええ、お蔭様で、島にもすっかり慣れました・・・・・」
「そうですか、それは安心ですな。祭りの準備も期待してますよ」
「はい、不慣れな点も多いかと思いますが、どうぞよろしくお願いします・・・・・」

朋子は、親身な雰囲気を醸し出している三原にそう答えた。理由は何であれ、その老人が自分のことを心配してくれていることが、朋子には嬉しかった。

三原に答えたとおり、朋子にとっては何のトラブルもない日々が続いている。村岡とは、あの最初の食事会以来、会っていない。

携帯に電話がかかってくることもない。あの男は、もう朋子には興味がないとでもいうように、すっかりその存在を消していた。

それは、菊地あずさも同様だった。自宅に忍び込み、二人だけの秘密の時を過ごした彼女が、あの夜以降、朋子に接触することはなかった。

彼女の電話番号を知っている。しかし朋子は、あずさに電話する勇気がなかった。あんなことをされた後、いったいどう挨拶をすればいいと言うのか。

あずさの指先で、あの夜、朋子はかつて達したことのない場所へと導かれた。意識を半ば失い、肢体を痙攣させながら、大量の蜜で布団を濡らした。

恐らくそれがエクスタシーなのだ。朋子は、そう考えると同時に、女性の手によって初めてそうさせられたことに、戸惑ってもいた。

男性にされても、あんな風に乱れるのだろうか。或いは、もっと別な風に感じてしまうのか。夫によって、まだ絶頂にまでいざなわれたことがない朋子は、心のどこかで淫らな想像を展開させては、そんな自分を律した。

変なことを考えちゃいけないわ・・・・・、もうあのことは忘れるのよ・・・・・・・

あの夜、隆夫が帰宅したのは、随分遅い時間だった。あずさは既に姿を消し、朋子はいつもと同じように夫を迎えた。

不信を与えるような要素は、家の中のどこにもなかった。夫は何も疑問を口にしなかったし、朋子もまた、何か言い出すことはなかった。

今夜夫に抱かれたらどうなってしまうのだろうか。そのときの朋子は、どこかでそれを欲していたが、隆夫は妻の期待を裏切るように、すぐに眠りに就いた。

夫が体を求めてくることはそれ以降もなかった。朋子は、淫らな気分を意図的に封じ込め、ただ日常の生活を送ることに集中していた。

***************

「今度、東京に出張することになった」
7月も半ばにさしかかった頃、隆夫は朋子に突然そう切り出した。

「大学に顔を出す必要があってね。週末を利用した1泊の出張だ。留守を頼むよ」
その言葉に、朋子はただ従うしかなかった。

どうせなら一緒に行きたかった。島に来てまだ3ヶ月少々だが、朋子はもう、何年もここにいるような気がしていた。

勿論、そんなわがままを言えるわけもない。朋子はたとえ一晩だけでも1人きりで過ごすことに不安を感じながらも、夫の指示に従った。

自治会での会合に重ねて出席しているうちに、その週末はすぐにやって来た。土曜日の朝、隆夫は慌しく出発し、島を去った。

「とにかく、戸締りはちゃんとしないと・・・・」
菊地あずさの姿を、どうしても思い出してしまう。朋子は明るいうちに買い物を済ませようと、午後の早い時間に島内のスーパーへと向かった。

真夏を思わせるような青空が広がっている。今日あたり梅雨明けが宣言されるのかもしれない。スーパーからの帰途、朋子はそんなことを思いながら車を走らせた。

もうすぐで自宅に到着するという場所までやってきたとき、朋子は少し先の道路脇に停車している車の存在に気づいた。

「あんなところに・・・・・・」
砂浜ではなく、岩場が広がる海岸に沿った道である。海に向かってせり出した崖は時折途切れ、原生林と称したくなるような茂みが顔を覗かせている。

車は2台だった。奥深い林の入口付近のスペースに並んで停車されている。目の前は堤防、そして黒々とした岩に波が打ち寄せているだけの場所だ。

そんな場所に車が停まっているのを、朋子が見たのは初めてだった。林の中に、植物か何かを採集にでも行ったのだろうか。

そう考えながらスピードを少し落とし、更にその2台の車に接近したときだった。朋子はその光景がどこかおかしいことに気づいた。

「この車・・・・・・・」
朋子は、その2台の車に見覚えがあった。ナンバーこそ記憶してはいないが、その色やタイプは、この島では他に見かけないものだ。

「どうしてこの2台が一緒に・・・・・・・」
朋子にとって、それはあり得ない光景だった。村岡の車と、菊地あずさの車が、寄り添うように並んで停車しているのだ。




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