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波涛の彼方(31)

2010 07 14
目の前にいる高校生は、ほんの冗談でそんなことを言ったのだろう。朋子は、祈るような気持ちとともに、宮本の表情を見つめた。

だが、そうではないようだった。彼は本気でその質問を口にしたのだ。宮本が女教師をからかうような言動をするタイプでないことを、朋子はよく知っていた。

「もう、何言ってるのよ、宮本君・・・・・・・」
それでも朋子は、強がった風に答えを返した。動揺を示すように、自分の頬が少し強張っているのがわかる。朋子はそれをどうすることもできなかった。

「冗談じゃないですよ、先生・・・・・・」
「えっ・・・・・・」

「隠してるんでしょう、エッチなDVDを。僕、知ってるんですよ、先生」
かつての秀才振りを彷彿とさせるように、宮本はクールな口調でそう言った。

言葉に詰まったまま、朋子は懸命に考えを巡らせた。宮本が、あの2枚のDVDの存在を知っている。果たしてそんなことがあり得るのか。

もしそれが事実だとしたら、考えられるシナリオはひとつだけだ。ポストにあれを投函したのは、この若者なのだ・・・・・。

「宮本君、ねえ、どうしてそんなこと聞くの?」
朋子は、自らの推測を確認するかのように、そう訊いた。

「クラスの誰かが言ってたんだよ」
「クラスの誰か?・・・・・・・」

「うん。城崎先生の奥さんが、昼間から自宅でエッチなDVDを見てたって」
「・・・・・・・・」

「先生、だから隠しても駄目だよ。僕、今日、それを探しに来たんだから」
宮本はそう言うと、すっくとその場に立ち上がった。そして、居間に隣接する寝室へ足を踏み入れようとした。

「待って、宮本君!・・・・・・」
そこにあるタンスの引き出しの奥に、それは隠されている。まるでそれを知っているかのような若者の行動に、朋子はつい声を荒げてしまった。

「やっぱり・・・・、隠してるんだ、先生・・・・・・・・」
狡猾な不良生徒であれば、ここでニタニタと笑い出すのかもしれない。しかし、宮本は、どこかショックを受けたような表情を浮かべていた。

中学時代、想いを寄せていた女教師が、そんな淫らな映像を1人で見たなんて信じたくない。宮本が無言のまま、そう訴えてくるように朋子は感じた。

「いいから、ここに座りなさい、宮本君」
教師のような朋子の厳しい口調に、宮本は一瞬怯んだ。

朋子は思い出した。DVDを見たあの日、庭に何者かが侵入していたことを。あれが、夫が勤務する高校の生徒だったとでもいうのか。

しかし、あれは平日だった。勿論、学校を抜け出してくる生徒がいないとも限らないが、その可能性は低いような気がした。

誰かが高校の生徒に言いふらしたのかもしれない・・・・・・・・

朋子の脳裏に、村岡の姿が思い浮かんだ。あの男ならそれをやりかねない。じわじわと包囲を縮めるように、執拗な嫌がらせを私に繰り返すつもりなのだ。

そんな風に確信する朋子は、今日の昼間目撃した光景を再び思い出してしまう。林の中、獣のように交わりあう、村岡とあずさの姿だ。

「ねえ、先生、持ってるんでしょう、そういうDVDを?」
畳の上に座った宮本は、先刻より朋子に少し近い位置にいた。彼の不安そうな顔を至近距離で見つめてしまったとき、朋子の緊張がかすかに緩んだ。

「勝手にポストに入れていったのよ・・・・・・」
「ポストに?」

「ええ・・・・。恐らく誰かの嫌がらせだと思うんだけど・・・・・」
そのDVDが隆夫宛に配達された事実を、朋子は伏せている。

「だから、先生、少しだけ見たの。どんなDVDかもよくわからなかったし・・・・」
朋子は更に嘘を重ねた。過激な写真で包装されたパッケージのことも、そして、自分が2枚のDVDを全て鑑賞したことも・・・・・。

「そうだったんだ・・・・・・」
宮本は、朋子の説明を素直に受け止めるように、そうつぶやいた。

しばらくの沈黙が二人を包み込んだ。朋子は宮本の次の科白が怖かった。これ以上、こんな話題で息詰まるような思いをしたくはなかった。

「先生、そのDVD、どこにあるの?」
「えっ?・・・・・・」

朋子の不安を的中させるような言葉を、宮本が発した。穏やかになりつつあった鼓動が、一気に高鳴っていくのを朋子は感じた。

「そのDVDだよ。まだどこかに隠してるんでしょう?」
「ええ・・・・。いつか、何かの証拠になるかもしれないからね・・・・・」

「ねえ、少し見せてよ、そのDVD・・・・・」
「駄目よ、宮本君・・・・・・、駄目に決まってるでしょう・・・・・・」

朋子は、敢えてふざけた調子でそう答えた。控えめな性格は結局変わってはいないのか、朋子の一言に、宮本は少し落胆したような様子を見せた。

「まだ高校生じゃないの。大人になってからじゃないと、あんなのは見ちゃ駄目よ」
宮本に少しばかり同情するように、朋子が声をかける。

「僕・・・・、まだそういうの、1回も見たことないんだよね・・・・・」
それが今どきの高校生にとって平均的なことなのか、朋子にはよくわからなかった。どこかで心を許そうとしている自分を抑え込み、朋子は言葉を重ねた。

「でも駄目よ。先生、絶対に許しませんからね」
「じゃあ、代わりに1つだけ質問していいですか?」

宮本はどこか幼い様子でそう言った。恩師に何か酷い事をする気配は、彼には全く漂っていない。だが、朋子は若者のそんな雰囲気が逆に不安だった。

「いいけど・・・・・・、何かしら?・・・・・・」
「先生、そのDVD、どんなストーリーだったの?」
「どんなって、宮本君・・・・・・・」

「教えてくださいよ、先生。それぐらいいいじゃないですか」
じわじわと、自分が追い詰められているような気がする。妙な圧力を感じながら、朋子は返事ができなかった。

「忘れたの? 僕が思い出させてあげようか、先生・・・・・・」
「・・・・・・・・」

「先生みたいに結婚してる女の人が、他の男の人にされちゃうって話でしょう?」
「宮本君・・・・・・」

「ねえ、そのDVD見て、先生、濡れたの?」
うぶな宮本がそんな大胆なことを口にするとは思ってもみなかった。朋子は、頬が火照ってくるのを抑えることができなかった。



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