FC2ブログ

続・波涛の彼方(3)

2010 08 25
隆夫の死去後、東京の実家に戻った朋子のもとに、妹の千佳子はすぐやって来た。思いがけない形で、二人は再会を果たした。

「姉さん、何て言ったらいいのか・・・・」
「そうね・・・・・、でも、大丈夫だから、私は・・・・・・」

朋子は気丈にそう言いながら、夫の身に何が起こったのか、千佳子に教えてやることにした。朋子自身、あの悲劇の詳細を辿るためにそうしたかった。

「主人が勤務する高校の教頭先生から最初の報せがあったの」
「教頭先生から?」

「ええ。椎名さんといって、いろいろとお世話になった方よ。その人に、主人が亡くなったことを突然言われて、何が何だかわからなくなってね・・・・・」

夏祭りの打ち上げの後、村岡に激しく抱かれたあのひと時の記憶が、朋子の心をよぎる。勿論、妹にそんな事実まで告白するわけにはいかない。

「島のとある砂浜で主人の遺体が発見されたっていうの。それからの記憶ははっきりしてないんだけど、現場に行って主人のことを確認した後、警察に事情を聞かれて、それから・・・・、とにかく椎名さんが付きっ切りでいてくれて」

「隆夫さんが殺されたって、すぐにわかったのかしら?」
持ち前の好奇心を発揮するかのように、千佳子は姉にそう訊いた。

「ええ。首に紐で絞められた跡が残っていたから、恐らくそうだろうって」
「その現場で殺されたのかしら?」

「警察の人が言うには、周辺に争ったような形跡はないらしいのよね。だから、どこかで殺害されて、そこに運ばれてきたんだろうって最初は言ってたんだけど」

「でも違ったんだ」

「ええ。司法解剖したら、主人の体内から微量の睡眠薬が検出されて」
「睡眠薬?」

「例えば、その現場で誰か知人と一緒にいて、そこで気づかぬうちに睡眠薬を飲まされて、眠っているときに首を絞められたって、そういう可能性もあるらしいのよね」

「でも、深夜の砂浜で隆夫さんはいったい誰と一緒にいたのかしら?」

「それは私にもさっぱりわからないわ・・・・・・」

朋子は妹にそう漏らしながら、自分が夫のことをあまりに知らなさすぎたことを、改めて痛感した。彼の知り合いが誰なのか、朋子はそれさえも知らないのだ。

千佳子とそんな会話を交わしたとき、朋子はまだ、隆夫の死を現実のものとして受け入れていなかった。どこか他人のような口ぶりで、淡々と説明をしたものだ。

それから2年近くが経過した。その間、朋子はずっと東京の実家で過ごし、捜査の進展を見守っていた。しかし、期待するような報告は何もなかった。

そもそも、被害者の妻であるというのに、まとまな情報さえ入ってこないのだ。理不尽な法律のために自らの権利が行使できず、朋子は何度も苛立ちを感じていた。

容疑者は全くわからないのか。決定的な証拠は何かないのか。島の住民からの情報はどうなのか。何もわからぬまま、朋子にとって無為な時間が過ぎていった。

やがて彼女は考え始めた。警察とは別に、自分自身が行動を開始することについて。もう一度、あの松木島に渡り、自らの手で調べてみるのだ。

夫を殺害した人間は必ずあの島のどこかにいる。当然、警察もそれを疑って動いているはずだが、私しか知らない事実だってある。

村岡の姿が朋子の心に浮かぶ。あの男は島で生まれ、ずっとそこで暮らし続けている。この事件に関し、何らかの考えを持っているに違いない。

それに、教頭の椎名にも更に突っ込んだ話を聞きたい。主人の交友関係が何かわかれば、犯人特定への突破口になるかもしれない。

「お母さん、私、もう一度あの島に行ってみるわ・・・・・」
朋子のその決意を聞いた母親は、無駄だとは思いつつも、それに反対した。しかし、朋子の意志は固いものだった。

「私自身が調べないと、主人に何か悪いような気がするのよ・・・・」
朋子のその言葉には、夫に対する罪の意識が含まれていた。

隆夫が殺害された頃、朋子は村岡のペニスに貫かれ、その圧倒的な快感に屈服するかのように、淫らな声をあげていたのだ。

その記憶は、朋子の心の奥に強く刻み込まれていた。自分があんな誘惑に屈することがなければ、主人は死ぬことはなかったのかもしれない。そんなことさえ、朋子は思うこともあった。

贖罪の念が、朋子を積極的なアクションへと駆り立てた。そして、姉のそんな決意を知った千佳子が、思いがけず、それに同調した。

「姉さん、私もその島に一緒に行かせて」
「千佳子、何を言ってるの?」

「姉さんだけじゃお母さんだって心配よ。私が一緒なら怖いものなしだから」
「千佳子・・・・・・」

休職手続きを素早く済ませ、千佳子は朋子に同行を迫った。母親の賛成もあり、朋子は千佳子の願いを結局受け入れることにした。

「わかったわ、千佳子。でも、驚かないでよね、凄く田舎の島だから」
「いいわよ、姉さん。覚悟しておくわ」

自分よりもはるかに世間を知っている様子の妹の姿を、朋子はどこかたのもしげに見つめた。30歳になる彼女の肢体は、姉の目から見ても美しく、魅力的だった。

村岡が千佳子のことを見たらどう思うだろうか。妹の同行を心強く思うと同時に、朋子は一抹の不安をも抱いていた。



(↑クリック、凄く嬉しいです)

http://ameblo.jp/norinori2009/
↑アメブロで新作連載開始しています。こちらも読んでいただけると嬉しいです。


エルシーコスメ&ラブグッズ体験談

Comment

管理者のみに表示