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続・波涛の彼方(22)

2010 09 27
「主人の実家に原因があるらしいの・・・・・・」
「隆夫さんの実家に?」

朋子の言葉に、千佳子は意外そうな反応を示した。同時に、姉の夫であった男の過去に更に興味を示すように、彼女の瞳は光を帯びた。

「三原さんによれば、この島に住んでいる人たちの家系は皆、相当古い時代に発祥があるらしくて、それぞれが複雑な因縁を持っているっていうの」

「それで、隆夫さんの家に何か問題があったのかしら?」
千佳子の指摘に、朋子は小さく頷く。

「いつの時代の頃からそうなったのか、或いは原因が何だったのか、いずれもはっきりしないらしいんだけど、ともかく主人の家は酷い差別を受けていたみたい」

「差別?」

「ええ。三原さんは、あの家は代々周囲からいじめられてたって言っていたわ。だから、主人も小さな頃から、子供達に嫌がらせを受けてたって・・・・」

「それが椎名さんの弟の交通事故に関係あるって言うの?」
椎名という名前を、千佳子は少しためらいながらも口にした。

「椎名さんの家と主人の家は近所でね。特に執拗にいじめられていたらしいわ。家族ぐるみでね。主人はとても成績が優秀な児童だったらしくて、それがまた、椎名さんの家にはよく思われていなかったみたい」

千佳子にそう説明しながら、朋子は30年以上前のこの島での不幸な出来事のことを想像した。交差点付近で、もみ合う子供達の姿を・・・・。

「事故のあった日、いつも通り、主人は1人で下校していたらしいわ。そこを、追いかけてきた他の児童に絡まれて、ひどいことをいろいろ言われたみたい」

「ひどいこと・・・・・・」

「両親を侮辱されたらしいわ。それを言ったのが椎名さんの弟だったみたいで、普段は冷静だった主人が思わず突き倒したって。そして更にその後に・・・・」

そう話す姉の瞳に涙が光っていることに、千佳子は気づいた。別の不幸な出来事が、その事故に続いて起こったらしいことを、彼女は察知した。

「息子の責任を背負い込むように、数日後、主人の両親は心中したって・・・・」
涙を流す姉の手を癒すように握りながらも、千佳子は冷静な思考を巡らせる。

「そんな悲惨な過去が隆夫さんに・・・・。姉さんは全く知らなかったんでしょう?」

「ええ・・・・。彼の両親は昔事故死したって聞かされてたわ。それに、彼の本籍地は東京って記載されていたから、まさかこの島の出身だなんて・・・・・」

「過去を隠すために、誰かが手を加えたのかもしれないわね。それで、事故の後、隆夫さんはこの島を去ったのね」

「県外の児童支援施設に送致されたらしいわ。ご両親のこともあるから、それっきり、この島に戻ることはなかったって」

「それを、椎名さんが再び呼び戻したのか・・・・・・」
千佳子の言葉の意味を、朋子もまた、少し考えてみた。朋子たちにこの島から出て行くようにとさりげなく伝えてきた椎名の姿が、はっきりと蘇ってくる。

「姉さん、椎名さんはきっと、その過去が蒸し返されるのを避けようとしているのね」
「ええ、そうかもしれないわ・・・・・」

「ある家のことを島全体で差別してたなんていう過去、恐らく島の誰もが隠したがってると思う。だから、私達のことを追い返そうとしてるんだわ」

海の家で、突然襲い掛かってきた若者達のグループのことを、朋子は思い出す。彼らは高校の生徒だ。まさか、教頭である椎名があの若者達の背後で・・・・・。

「姉さん、もう一度椎名さんに会ってみましょうよ」
「えっ?」

「隆夫さんを殺したのはあの人かもしれないわ・・・・・・・」
「まさか・・・・・・」

千佳子が、その想像を遂に言葉にした。寒気を感じてしまうような恐ろしさに襲われながら、朋子はしかし、自分も同じことを考えていたことを認めた。

「弟さんを殺されたことへの復讐をずっと狙っていたんだと思う。それで、隆夫さんの居場所を遂に突き止めて、この島に呼び寄せたんだわ」

「・・・・・・」

「負い目がある隆夫さんは、それを拒絶することはできなかった。姉さんには過去を隠したまま、椎名さんのために働いて、それで最後には・・・・・」

親身な態度で接してくれたあの椎名が、まさかそんなことをするのだろうか。千佳子の描くシナリオを、朋子はすぐに受け入れる気にはならなかった。

しかし、考えれば考えるほどそう思えてくる。隆夫の家を激しく差別していた過去を、彼は完全に隠蔽しているのだ。そんな男なら、何をしても不思議ではない。

だが、椎名に再会したところで、ストレートにそんなことを聞けるわけもない。仮にも彼は、朋子にとっては依然として恩人の立場にあるのだ。

「千佳子、椎名さんに会う前に、まず警察に相談してみましょう」
「警察に?」

「ええ。この過去のことを警察が知っているのかどうかわからないけど。とにかく話してみれば、何かの参考になるかもしれないわ」

朋子のその提案に、千佳子は少し不満げな表情を浮かべる。行動派ともいえる彼女にとっては、姉の考えが少し回り道をするように思えたのかもしれない。

そのときだった。朋子の携帯の着信音が鳴った。覚えのない固定電話の番号が表示されている。千佳子を見つめたまま、朋子は電話を握り、通話ボタンを押した。

「はい・・・・・・、ええ、城崎朋子ですが・・・・・・・・」
相手の声に朋子は少し驚いた様子を示した。会話は簡単なやり取りで終わった。

「誰からなの、姉さん?」
「驚いたわ。主人の件を捜査している警察からよ」

「警察?」
「私たちが島にいることをどこかで知ったみたい。一度会いたいって言ってきたわ」

事件が少しずつ前に動き始めたことを朋子は感じていた。警察からの電話は、彼女にどこか楽観的な見通しを抱かせるものだった。

しかし、事件は意外な結末を迎えることになる。官能的な美しさを漂わせた姉妹は、自分達にどんな未来が待っているのか、このときはまだ、知る由もない。



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Comment
どうなるから楽しみです。できれば千佳子さんが強気で抵抗しながらも堕ちていく展開が読みたいです。

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