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続・波涛の彼方(24)

2010 09 29
朋子が運転する車で、二人は椎名に指定された場所へと向かった。警察で増井と対面した日の数日後のことである。

夏本番といえる午後の青空が広がっている。小さな浜で島民たちが海水浴を楽しんでいる。朋子は海岸沿いのそんな風景をやり過ごし、車を走らせた。

小さな島ではあるが、こうして車で移動すると案外に広いことがわかる。今日の目的地は、朋子がまだ一度も足を伸ばしたことがないエリアにあった。

いくつかの集落を経て、やがて険しい山道に入っていく。車がようやく1台通れるほどの道は、ところどころ舗装が剥げ落ちている。

「姉さん、随分辺鄙な場所を指定されたものね」
「そうね・・・・、この辺りには私も来たことがないわ・・・・・」

椎名の言葉を信じるならば、この道の終点には小さな宿屋が1軒あるとのことだった。松木島には珍しく、観光客にも十分に奨められる施設であるらしい。

「せっかくこの島にいらしたんですから、一度お二人でのんびりなさっては?」
そんな風に言いながら、椎名はその宿屋を朋子に紹介した。彼はそこで1泊することを二人に勧め、朋子もまた、それを了承した。

椎名も現地で合流するという。どれほどの規模の宿かわからないが、恐らく他に客はいないのだろう。山奥の小さな宿で、椎名と一夜を過ごすことになる。

隆夫との過去を頑なに隠し続けているその男への疑いは、朋子の体奥の中で確かなものになっている。そんな男と一緒に行動することは、十分に危険なことだった。

しかし、朋子はそれを避けようとは思わなかった。この際、彼の招待を素直に受け入れ、真実を掴むために接近を図るのだ。

朋子のその決意に、千佳子もまた同意した。女性とはいえ、こちら側が二人いれば恐れることはないだろう。彼女達はそんな風に考えてもいた。

「そろそろ着くころだと思うけど・・・・・」
うっそうと繁る木々のこずえが、フロントガラスをこすってくる。慎重に車を走らせながら、朋子は周辺の様子を観察した。

他に車が走る気配はない。午後4時になろうとしている。既に1時間近く車を走らせている。そのとき、千佳子が前方の景色を指差した。

「姉さん、あそこじゃないの?」
藪の奥に、木造家屋が突然現れた。傍らに流れる小さな川では、巨大な水車が動いている。確かにそれは、旅の情緒を感じさせる建物であった。

「そうね。きっとあそこだわ」
宿泊客用の駐車スペースと思われる草むらに、他の車は見当たらない。どうやら椎名はまだ来ていないようだ。

車を降りた二人は、質素な玄関から中へと入った。そこはやはり宿屋だった。しばらくすると、女将と思われる中年の女性が中から顔を出した。

「あら、お早いお着きでしたわね」
「あの、椎名さんはまだ・・・・・・」

朋子は、何かを試すように椎名の名前を口にしてみた。宿屋の女将の表情に変化はない。椎名の話どおり、予約が入っていることをうかがわせた。

「まだいらしてませんわ。さあどうぞ、先にお通しするように言われておりますから」
案内されるがままに記帳を済ませ、朋子達は客間へと案内される。

「狭いところですから、お部屋はお二つしかないんです。椎名さんは別室で、お二人には景色のよいこちらの部屋を、と言われております」

女将の言葉通り、部屋は1階であるというのに、窓の外に広がる眺望は素晴らしいものがあった。西空に傾きかけた太陽、そして碧い海まで眺めることができる。

「いい景色ね、姉さん」
「ええ。この島にこんなところがあるなんて、私、知らなかったわ」
「ほんと。観光客にもっとPRすればよさそうなものなのに」

8畳程度の狭い部屋である。用意されたお茶をゆっくりと飲みながら、二人は出発からずっと感じていた緊張を少しだけ緩めた。

「お食事の前にお風呂をどうぞ。椎名様からもそう言われておりますから」
再び部屋にやって来た女将が、二人にそう声をかける。朋子は腕時計を見た。もうすぐ午後5時になろうとしている。

「あの、椎名さんは何時ごろいらっしゃるんでしょうか」
「夕食が始まる6時ごろになると、先ほど連絡がございました」

少しばかり迷ったが、結局二人は女将の提案を受け入れることにした。用意された浴衣に着替え、狭い廊下の突き当たりにある浴場へと向かう。

小さな宿屋であることの証のように、そこは男湯にも女湯にも別れてはいなかった。木製の湯船、そして石が敷かれた洗い場は、まるで温泉宿のように雰囲気のあるものだったが、スペースは狭かった。

湯船は数人が入ればいっぱいになりそうなサイズである。洗い場も含めて、個人の家の浴室を少しだけ大きくしたほどの広さしかない。

「狭いですがいいお湯ですから。さ、ごゆっくり」
そういい残すと、女将は木戸を閉めて立ち去った。戸惑いつつも、朋子と千佳子は一緒に浴衣を脱ぎ、風呂場へと足を進めた。

女将が言うとおり、それは確かに快適な湯だった。ゆっくりと湯船に浸かる朋子をちらりと見つめ、千佳子が少し照れたように言う。

「いつ以来かしら、姉さんと二人でお風呂に入るなんて」
「ほんとね。何だか変な気分だわ」

笑みを浮かべてそう答えながら、朋子は千佳子の顔を見る。見事なプロポーションをした妹の裸体が、お湯の中に見え隠れしている。

海の家で、若者達に全裸にされた妹の体の記憶が、朋子の脳裏に蘇る。その裸体が激しく陵辱され、声をあげた妹の姿を思い出し、朋子は少し鼓動を早くする。

姉さんだって、あんなことされたじゃないの・・・・・・・

千佳子が心の中でそんな風にささやいているような気がする。三原との行為を、妹に覗き見されていた可能性を考え、朋子は戸惑いを深めてしまう。

「姉さん・・・・・」
「えっ?」
「椎名さん、いったいどういうつもりなのかしらね・・・・・・」

千佳子の言葉に少し驚きながら、朋子は懸命に冷静さを取り戻す。間もなく対峙するであろう男にどう立ち向かうのか、朋子は確固たるプランを抱いてはいない。

「さあね。ここで私たちにいい思いをさせて、この島から追い出すつもりだと思うわ」
「そうでしょうね。でも、姉さん、ちゃんとあの人に聞くんでしょう?」
「ええ。勿論そのつもりよ。でないと、ここに来た意味がないから」

互いの意志を確認しあうように、朋子と千佳子はしっかりと見つめあった。夫の殺害犯を特定するという姉の挑戦に協力することを、千佳子は強い視線で示す。

時間をかけて、二人はその湯を堪能した。再び浴衣に身を包み、髪を整えて部屋に戻ったときには、もう6時になろうとしていた。

食事が用意された部屋に、椎名が穏やかな表情で座っている。



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Comment
山奥の宿に美人姉妹……ヤバイ早く続きが読みたい。
ほぅ~、いつ読んでも文章きれいですね~。。
官能的な文章書けるヒトって尊敬です。。。

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