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続・波涛の彼方(完)

2010 10 15
「遠いところを申し訳ございません・・・・・・」
「いや、いいんですよ、ちょうど出張で上京する予定がありましたからな」

久しぶりに会うその刑事は、相変わらずくたびれた背広を着ていた。洒落たカフェの雰囲気に戸惑いながら、彼は促されるままに椅子に座る。

簡単な挨拶を改めて交わし、飲み物を注文する。互いの様子を見つめあい、しばらくの沈黙が続く。先に口を開いたのは増井のほうだった。

「ご主人が島の出身で、椎名をはじめ、周辺の住民達からいじめられていたことは間違いありません。椎名の弟を子供の頃事故死させた、というのもね」

「やはりそうでしたか・・・・・」

「椎名と村岡、そしてご主人は皆、島の同じ地域に住んでいたようです。彼らに家族を侮辱され続けた幼いご主人の怒りは、相当なものだったんでしょう」

「そんな主人のことを彼らはずっと探し続けていた・・・・」

「東京の大学で活躍されているご主人の名前を椎名が見つけたんですね。それで、過去を材料に脅迫し、ご主人を再び島に連れ戻したようです」

そこまでの話は、朋子がかつて描いていたのと同じものだった。刑事は、少し補足するように、椎名の隠れた行為を朋子に伝える。

「奥さんに妙なDVDを送ったり、その他諸々、全て椎名が仕組んだことです。それに彼は、ご主人の前任者の奥さんと愛人関係だったらしい」

増井のその言葉に、朋子は一度だけ電話で話したことのあるその女性の声を思い出した。困ったことがあれば椎名を頼るように、彼女は言っていたはずだ。

「だから、あんなことを・・・・・・・」
「それもあって、奥さんのことを同じように我が物にしようとしたんでしょうな」

椎名と村岡の二人は、私が性の罠にはまっていく様をじっと観察していたのだ。改めてそれを知るとともに、朋子は刑事の話の続きを聞くのが怖かった。

「それで・・・・・、奥さんは少しもご存じなかったんですね?」
刑事の優しげな言葉が、胸に鋭く突き刺さる。彼が何を言おうとしているのか、はっきりとわかる。その言葉は確かな痛みを伴い、朋子を責める。

「海外から戻った彼女が再び東京に住むことを宣言したのは、確かに私たちが結婚した頃でした。でも、その理由がそんなところにあったなんて・・・・・」

「じゃあ、度々奥さんのご自宅にも?」
「ええ。よく食事に招待したんです。私が不在のときにも確か何度か・・・・」

これまで思い出すこともなかった過去の記憶の存在に、朋子は初めて気づく。あの二人がどんな風に出会い、近づいたのか、今となってはわかるような気がする。

「奥さんを連れて島に行く決断をご主人が下したとき、彼女は激しく抵抗したそうです。そこでご主人は、自らの過去の秘密を、彼女に告白したらしい」

「えっ・・・・・・」
私が知らない話が始まろうとしている。朋子は、息を呑んだまま、増井を見つめた。

「彼女は、それで一度は納得したそうです。ただ、ご主人の意志はそれだけではなかった。東京を去ることを契機に、ご主人は彼女と完全に別れようとしたんです」

朋子の瞳を、増井が癒すように見つめる。城崎隆夫のその決断の理由が、妻の存在にあることを、刑事はそれとなく伝えようとしている。

「奥さんとまたやり直すおつもりだったんでしょう。自分が生まれた島で」
「・・・・・・・」

「だが、そうはいかなかった。椎名たちの執拗ないやがらせは続き、ご主人は早い時間に帰宅することさえ許さなかったようですね」

「でも主人は私には何も・・・・・・・」

「奥さんには過去の記憶を永遠に伏せておきたかったのかもしれません。妻であるあなたに、重荷を背負わせたくはなかったんでしょう」

僅か半年で終わった島での生活のことを、朋子は思い出した。隆夫に激しく抱かれた島での初夜の記憶は、朋子の体にはっきりと刻み込まれている。

「そのまま生活が続いていれば、ご主人はどうなったのか、それは私にもわかりません。ただ、現実は彼が思いもしない方向に動いてしまいました」

「・・・・・・・・」

「彼女が密かに島を訪問したのは、夏祭りの数日前だったようです。ご主人に接近し、復縁を迫ったと、彼女自身告白しています」

「それを主人に拒絶されたから、あんなことを・・・・・」
全て納得したような雰囲気で朋子がそう言った。だが、刑事の話には続きがあった。

「我々も彼女の供述を聞くまではそう思ってました。でもそうじゃなかった。彼女は、別の理由でご主人を激しく憎んだんです・・・・・・」

「別の理由?・・・・・・」

「奥さん、菊地あずさという女性をご存知ですね?」
刑事が口にしたその名前を、朋子は予想もしていなかった。

「彼女は、ご主人に復縁を拒絶された翌日、偶然目撃したんだそうです。海岸沿いの道路脇の茂みの中で愛し合う、ご主人と菊地あずさの姿を・・・・・」

「・・・・・・・・」

「菊地あずさは村岡の女です。まあ、腐れ縁ってやつですよ。だが、彼女にはある過去があった。ご主人のことを、子供の頃、好きだったらしいんです」

「あの人が主人のことを・・・・・・」

「島に戻ったご主人に、あずさはなかなか接近できなかった。それで、相談を受けた村岡が脅迫したらしい。一度だけあずさを抱け、さもなきゃ過去を暴露する、と」

「そんな・・・・・」
「妹さんはその現場を偶然目撃したんです。その瞬間、殺意を抱いた、と」

刑事の話は、朋子を激しく混乱させるものだった。まさかそんな理由で夫が殺されたなんて、彼女は想像もしていなかった。

「妹さんは、ご主人に復縁を拒絶されて、逆にほっとしたって言ってました。これで姉さんを不幸にするような行為から自分を解放できたって。そんな平穏をようやく手にしたとき、別の女性を抱くご主人を見てしまったんです」

「・・・・・・・」

「姉さんを再び裏切った男のことを、もう許すことができなかったんでしょう」
静かにそう述べながら、増井は瞳を潤ませる朋子を優しげに見た。

「刑事さんはいつから妹のことを・・・・・・」

「目撃証言から、我々は犯人は女だと考えていました。でも、島民を対象にした捜査はすぐ行き詰まりました。そんなとき、奥さんと妹さんが島にやってきたんです」

「でも、彼女は自分から島に行くって言ってたんです・・・・」

「捜査をかく乱したかったんでしょう。ご主人の過去を知っている彼女は、椎名か村岡を犯人に仕立て上げたかったのかもしれません。あの新聞記事を警察や奥さんに送りつけたのも、恐らく彼女でしょう」

「・・・・・・」

「妹さんが島に来たという情報を耳にしたとき、何となく勘が働いたんですよ。それでお二人を駐在所に招待したとき、紙コップでお茶を差し上げたわけです」

「紙コップでお茶を・・・・・・・」

「捜査上の理由で隠していたのですが、ご主人の遺体には別人の髪の毛や体液が残ってましてね。それと、紙コップに残った妹さんの唾液のDNAを照合したんです」

話を全て終えたかのように、増井はすっかり冷めた紅茶を口にした。だが、言い残したことはまだあった。彼は、ささやくように朋子に言った。

「妹さんには、どこかで姉さんに負けたくない気持ちがあったのかもしれません。順調に人生を歩んでいく姉を、羨むような気持ちが・・・・・」

「刑事さん・・・・・・」

「でも、今は自分の気持ちがやっとわかったみたいです。妹さんは何度も教えてくれましたよ。私は姉さんのことが好きなんです、って・・・・」

千佳子のその言葉を私はずっと待っていた・・・・・。波涛の彼方で初めてそれに気づいた朋子に、溢れる涙を抑えることなどできるはずもなかった。







(↑皆様のクリックを励みに、何とか最後まで書き終えることができました。本当にありがとうございました!)

http://ameblo.jp/norinori2009/
↑偶然ですがアメブロも今夜で完結です。こちらも読んでいただけると嬉しいです。


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Comment
うわっ・・・
そうきましたか。楽しめましたよ。
もう少し、伏線があったらよかったかなぁ。。

次作も期待しています
いゃ~
犯人が、、、

彼女とは、

結末はあっぱれです
義兄と
千佳子がデキていたのでは?と想像していましたが。

まさか犯人とは思ってもいませんでした。

仲が良い姉妹に見えて愛欲はドロドロしていて面白かったです。

次回作も楽しみにしてます。
お疲れ様です
いつも読ませて頂いてるファンです。
サスペンス?は苦手です。えっちに集中できないから(笑)
珠代さんの続編が見たいです♪

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