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近くに住む男(2)

2010 12 20
「さあ、早くご飯用意しなくちゃね」
後部座席に座る結衣をミラー越しに見つめ、依子は笑顔を浮かべた。車を停止させ、ギアをバックに入れる。いつものように車庫内に車を進めていく。

そのときだった。後部ボディと何かがぶつかるような、がしゃっ、という衝撃音がした。依子は慌ててブレーキを踏み、車を止めた。

「ちょっと、何なの?」
確かに何かがぶつかった音だ。しかし、車庫と道路の境界線にあたる箇所に障害物など何も存在しない。車庫前に到着した際にも、車内から視認したはずだ。

ただ、バックで車を進めようとした時に、依子ははっきりとそこを見続けていたわけではなかった。サイドミラーから右後方を確認していただけだ。

そんな自分の行動が、依子に僅かな焦燥を与えた。ドライバーとして完璧な振る舞いであったかと問われれば、それがそうでないことは、依子自身わかっていた。

停止した車に結衣を残したまま、依子は車外に出た。暗がりの中、車の後方にまわり、そこに何があるのか確認しようとする。

近所に住む子供達が自転車でも置いて、そのままにしておいたのだろうか。依子のそんな想像は、その場の光景を目にした瞬間に消し飛んだ。

「ああっ、いてえ・・・・・・・・」
後輪のすぐそばに、1人の男がうずくまっていた。依子は驚きのあまり、すぐに反応することができなかった。

「奥さん、ひでえな、後ろを見ずにバックしてくるなんて・・・・・・」
男は右足首のあたりを押さえながら、顔をあげた。紛れもなくそれは本城だった。

「あ、あの大丈夫ですか?・・・・・」
「大丈夫なわけないだろう、車に足を踏まれたんだぜ」

依然として路上にしゃがみこんだまま、男は足を痛そうにさすっている。傍らには彼のものと思われる小さな鞄が置いてある。

「奥さん、やっぱあんた、運転下手くそだね。とうとう事故まで起こしやがった」
男のその物言いに、依子の中の何かに火がついた。そもそも、この男は何故こんな場所にいたのか。

彼の家は全くの反対側である。ここを歩く必要はまるでない。それに、家に接近し、到着するまでの間、付近の道路を歩く彼の姿を見ることはなかった。

常識的に考えれば、彼がどんな行動をとったのか、すぐにわかる。依子が車で帰宅するのを、物陰に隠れてずっと待っていたのだ。

そして、見られることがないよう身をかがませながら、彼女の車にそっと近づいたのだろう。バックする車に自ら意図的に接触し、事故を装ったのだ。

「本城さん、あなた、いったいここで何をしていたんですか?」
「そんなの俺の勝手だろう? ここは公道だ。それとも奥さんの土地なのか?」

「そんな屁理屈言わないでください。我が家の車庫に何か用でもあったんですか? でなきゃ、こんなところに隠れるようにいる必要なんてないはずですけど」

依子の強い口調に、しかし、本城が怯むことはなかった。人妻のその強気な態度を予想していたかのように、彼は冷静なトーンで言った。

「奥さん、あんたは間違ってるぜ」
「何がおっしゃりたいのかしら・・・・・」

「俺が何をしていようと、どんな風にいようと、そんなことは関係ねえ。問題なのは事実だよ。奥さんが後方確認をおろそかにしたまま、車をバックさせ、俺と接触事故を起こした。この事実は奥さん、変えようがないぜ」

男の言い分を依子は強引にはねのけることはできなかった。完璧に後ろを見ていたわけではない自分を、依子は自覚しているのだ。

「どうなんだい、奥さん。運転者の義務だぜ、ちゃんと後ろは確認してたのかい?」
「そ、それは・・・・・・・」
「そちらの責任だろう。あんたが一番わかっているはずだけどな、奥さん」

依子の側に落ち度があったことを強く印象付け、本城はその場に立ち上がった。痛そうに足を押さえながら、自宅のほうを見つめる。

「たまに外出したかと思ったらこのざまだ。全くついてねえぜ」
依子をそこに残したまま、男はすぐ向かい側の自宅に戻ろうとする。依子はつい、自分の方から男に声をかけてしまう。

「あ、あの・・・・・・、いいんですか、怪我は・・・・・・・・」
「病院で診察して改めて奥さんにご報告させてもらいますよ」

恨みを込めた丁寧な口調でつぶやきながら、本城は足を引きずり、家の中に姿を消した。後には、困惑したままの依子が残された。

改めて車に乗り込み、車庫内に入れる。不安げな娘とともに家に帰り、慌しく夕食をとった。夫が帰宅したのは、午前零時を過ぎた頃だった。

「いつも言ってるじゃないか、結衣を乗せているときは気をつけろと」
疲れきった様子の夫が最初に口にしたのは、妻を非難する言葉だった。

「でも、あなた、あの人、まるで当たり屋みたいに突然姿を現して・・・・」
「ちゃんと見てたのか、後ろは?」

「それは・・・・・、まさかそんなとこに人がいるなんて思わないから・・・・」
「まあ、何か言われたら、腰を低くして謝ることだな」

忠弘は、この件に巻き込まれることを明らかに避けていた。連日帰宅が遅い夫だが、今夜はかすかな酒の匂いも漂わせている。依子は一抹の寂しさを感じた。

結局、たいしたアドバイスももらえないまま、その夜は終わった。依子の体奥には、自らが犯した失態への後悔の念だけが、とげの様に残っただけだった。

翌日になると、自らが不注意だったことへの自責の念が、更に強まってきた。体育会系で男勝りの部分さえある彼女だが、同時に妙に真面目すぎる面も持っていた。

そんな感情の揺れが、依子に昨日のトラブルのことを警察や保険会社に報告するという当然の行為から、知らず知らずのうちに遠ざけてしまっていた。

本城の怪我の具合はどうだったのだろうか。依子は、ただそれだけを気にかけ、何とか事態が穏便に過ぎ去ってしまうことを願った。

男が依子の家のドアホンを押したのは、更に翌日のことだった。



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