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近くに住む男(4)

2010 12 22
こんな風に夫以外の男を家の中に入れるなんて初めてかもしれない。ダイニングテーブルに座る本城にお茶を出しながら、依子はそんなことを思った。

夫との関係が昔のように緊密なものであれば、こんな展開を選ぶことはなかっただろう。夫が同席する状況で、この男の要望とやらを聞こうとしたに違いない。

しかし、今の夫婦間には確かな距離が存在している。新居に引越ししてくる前からそれは感じていたが、ここ最近、夫の態度は特に淡白なものになった気がする。

本城とのトラブルについても、自分は関わりたくないという姿勢が強く感じられる。妻が苦境に立たされていても、さして気にする様子もない。

ただ仕事が忙しいことが、家族に向けられた冷ややかな態度の原因なのだろうか。それとも、何か別の理由が夫にはあるのだろうか。

寝室で愛し合うこともすっかり少なくなった。もうそんなことを期待する年齢でもない。38歳の依子は、そんな風に無理に言い聞かせてもいた。

とにかく、ここにいる男とのトラブルは私自身で解決するしかないのだ。夫に頼ることはできない。犯したミスは、自分で取り返すしかないのだ。

「奥さん、この件はご主人には話したのかい?」
依子が夫のことを考えていることを見透かしたように、男が訊いた。

「え、ええ・・・・・、一応、あの夜に話はしてあります」
「それで、ご主人は何て言ってたんだ?」

本城の口ぶりには、依子の夫の存在をどこかで危惧しているような雰囲気があった。それを意識しながら、依子は慎重な言い回しで答えた。

「警察や保険会社と連携した上で、本城さんにはご迷惑にならないようにしろと」
「奥さんに責任があるってことは、ご主人も知ってるんだな」
「それは・・・・・、私も嘘をつくことはできませんから・・・・・・・」

湯飲みを握り締めたまま、本城が依子の姿をじっと見つめてくる。座っている男とは対照的に、依子はずっとテーブルの傍らで立ったままだ。

「それで本城さん、どうやったら示談としていただけるんでしょうか・・・・」
「さっきも言ったように、別に金を要求しているわけじゃねえよ、俺は」

男の頬や顎には、無精ひげが伸びている。せっかく見つけた働き口を失ってしまったショックが、男のそんなだらしない風貌にも感じられてしまう。

射るような視線で、本城は依子の体を見つめ続けていた。居心地が悪くなった依子が台所にさりげなく移動する。その背後から、男の言葉が届く。

「奥さんの誠意を見せてもらおうか」
「誠意、ですか?・・・・・」
「俺の将来を壊したことに対する償いの意味で、誠意を見せて欲しいんだよ」

自らのミスが招いた事故だ、という認識から、依子はずっと殊勝な態度を貫いてきた。挑発に乗っては墓穴を掘るだけだ、と言い聞かせながら。

だが、本城の言葉は、そんな依子の意志を激しく揺さぶるものだった。いくらなんでも、お前が俺の将来を壊したとまで断言される筋合いはないはずだ。

「誠意って言っても、結局はお金じゃないんですか、本城さん?」
依子は、少しむっとした口調でそう言った。

「奥さん、そうむきになってもらっても困るな。あんたの不注意が原因だってことを忘れるなよ。金じゃなくて、奥さん自身の誠意が見たいんだよ、俺は」

そのとき、依子は初めて男の言っている意味がわかった気がした。なぜ家の中に入ることを要求し、じっと私のことを見ているのか、その理由も・・・・。

「本城さん、まさか、変なことを考えてるんじゃないでしょうね」
「変なこと? ほう、おもしれえじゃねえか。何だい、奥さん、変なことって?」

自分から隙を与えるような発言をしてしまったことを、依子は悔いた。同時に、依子は感じた。あくまでもこの男が罰の執行者としての立場にいることを。

「奥さんの想像通りだよ。妻に逃げられて1年以上悶々としている男に、人妻が見せることができる誠意が何なのか、子供にだってわかるだろう?」

たたみかけてきた男の言葉が、依子の疑念を確信へと変化させた。この男が欲しがってるのは金銭ではない。もっと猥雑なものだ・・・・・。

「心配するなよ、奥さん。何もここでレイプさせろって言ってるんじゃねえ」
依子の不安を読み取りながら、本城は言葉を更に続けてくる。

「少しばかり目で楽しませてくれよ。それで満足してやるから」
「目で・・・・・・・」
「ああ。もう少し、奥さんのきわどい姿を見たいんだよ、俺は」

台所スペースに立ち尽くす依子のことを、本城は依然として見つめている。男の要求する内容に戸惑いつつ、依子はそれでも気丈に言葉を返す。

「それで本当に満足していただけるんでしょうか、本城さん?」
「ああ。示談にしてやってもいいぜ。奥さんの出方次第だ」

目で楽しませてくれ、とこの男は言っている。それを身勝手な要求だと拒絶できる権利が自分にはないことを、依子は自覚している。

この事故のことを何日も引きずりたくはない。今日限りで忘れてしまいたい。それに、どうせできないだろうと考えている男の見込みを狂わせてもやりたい。

「本城さん、私が何もできないと思ってるんでしょう?」
「あんたには選択の余地はないぜ。加害者である以上、やるしかないだろう」

依子の強気の言葉にも、本城は呑まれることなくそう言い放った。深い息を吐き、依子は改めて男を見つめ、そして言った。

「その足で階段はあがれるかしら。2階の寝室に行きたいんだけど」
「構わないぜ、俺は」

本城を先に立たせ、依子は階段をゆっくりと昇った。そんな空間に夫以外の男を招きいれるという行為の非常識さを感じながらも、もはやためらいはなかった。

ここまで要求されたら、逆に相手の言葉を封じ込めるくらいに、徹底的にその要求に応えてやればいい。本城を寝室に案内し、依子はドアを閉める。

ダブルベッドが置かれたその部屋の窓際には、多少のスペースがあった。姿見があり、小さな椅子もある。本城はさりげなく窓の外から、彼自身の家を見つめる。

「やっぱりこの部屋が奥さんの寝室だったか」
男のさりげない言葉が、依子に緊張を与える。以前からこの男は、自宅の窓からこちらの家の様子を観察していたのだろうか。

「じゃあ、そこに座ってください、本城さん」
かすかな動揺を隠したまま、依子は男に鏡台の椅子を示した。

「それで、きわどい姿って、具体的に私はどうすればいいのかしら・・・・・」
椅子に座った男との駆け引きに、依子は負けるつもりはなかった。



(少し早いですが冬休みとさせてください。次回更新は1月5日の予定です。今年も1年間、ありがとうございました! バナークリック、来年への励みになります)


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Comment
気の強い奥様がどうなるのか、楽しみですね^^。

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