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近くに住む男(10)

2011 02 07
男の術中にはまっている。勝気であり、凛とした性向をも併せ持つはずの人妻は、しかし今、邪悪な男のペースに完全に巻き込まれていた。

依子自身、それを自覚してはいない。忘れようとしたはずの記憶に、ただ激しくすがっているだけだ。38歳の主婦の本性を告白してしまったあの下着に・・・・。

「奥さん、そんなに返して欲しいのか。声が弾んでるじゃねえか」
「そんな・・・・・」
「あんたなかなか強気な女だが、案外かわいいとこもあるんだねえ」

電話の向こうで、本城は余裕たっぷりの口調でそうつぶやく。すぐそこの家の中にいる男が、いったいどんな格好をしているのか、依子は想像する。

あのだらしない格好のまま、汚いベッドの上に寝そべっているに違いない。仕事に出かけることもなく、隣人の人妻の下着を手にし、笑みを浮かべているのだ。

「本城さん、ねえ、もう焦らすのはやめて。私、真剣なんです・・・・」
「この下着を旦那に見られるのがそんなに嫌か。ええっ、奥さん?」

「それは・・・・・・、そうに決まってます・・・・・・」
依子には殊勝に答えることしかできなかった。男の汚れた笑顔を想像しながら。

「何が恥ずかしいんだ? 夫とは違う男の前で下着姿になっただけで、ぐっしょり濡れた自分を知られるのが嫌なのかい?」

男の言葉が、依子の体奥にぐさぐさと突き刺さってくる。封印しようと試みたあの記憶を、それは依子に濃厚に思い出させるものだった。

自分の体が何故あんな反応を示してしまったのか、依子にはそれが恨めしく思えてしまう。だが、それは消すことのできない事実だった。

「とにかく、夫には知られたくないんです・・・・・」
「夫婦仲にひびが入るとでもいうのかい? 旦那とは仲良さそうじゃないか」
「外から見てるだけじゃわからないことはありますから・・・・・」

夫との微妙な関係のことを、依子はそれとなく告白してしまう。そんな自らの危機感を口にしてまで、依子は本城の気持ちを和らげたかった。

「なるほどねえ。ただでさえご主人とうまく行ってないのに、あんな下着の存在なんか知られたら、更に夫婦関係が悪化しちまう。そういうことか?」

「どう思ってもらってもいですから・・・・、とにかく返してください・・・・・」
「わかったよ、奥さん、そこまで言うんだったら。ただし条件がある」

「条件?・・・・」
午前の陽射しがダイニングに差しこみ、片付けの終わっていないテーブルを照らしている。携帯電話を握り締めたまま、依子はそこに立ちすくんだ。

「もう1回俺を目で楽しませてもらおうか」
「またこの家に来るおつもりなんでしょうか・・・・・・・」

「そうじゃねえさ。今度は俺の家からのんびり楽しませてもらうぜ」
「そちらから?・・・・・・・」

「奥さんの寝室の窓から俺の家の窓もよく見えただろう。こっちから俺が眺めているから、そうだな、今夜、旦那と愛し合うってのはどうだ?」

本城の口にした条件に、依子は言葉を詰まらされた。この男が望んでいることの理不尽さに怒りを覚え、同時に、自らに選択肢がないことにも再び気づく。

「嫌ならいいんだぜ、奥さん。ここにある下着はそのうち旦那に渡してやる」
「・・・・・・」

「お向かいさんの男が妻の下着を持ってるなんて知ったら、ご主人、いったい」
「待って・・・・・、待ってください・・・・・・・」

「ほう。できるのかい、奥さん?」
本城への憤りを維持したまま、依子は懸命に答えを探しだそうとしていた。だが、それは考えるまでもないことのはずだ。

この男に夫と愛し合うところを見せることなどできるはずがない。いくら追い込まれていようと、そこまでのことをする義務はない。

それに・・・・。依子は夫の姿を思い出す。忙しさのせいか、或いは別の理由からなのか、依子に対する忠弘のどこか冷めた態度は、もう珍しいものではない。

最後に愛し合ったのは、いったい何ヶ月前のことだろうか。それに、依子自身からそんなことを求めたことなど、過去に一度だってないのだ。

「奥さん、忘れるなよ。今夜だぜ。時間はたっぷりある。まあじっくり考えるんだな」
「待って・・・・、本城さん、待って!・・・・・・」

依子の懇願も虚しく、男は一方的に電話を切った。こちらからかけなおしたところで、男の意志は変わらないだろう。それに私自身の気持ちだって・・・・。

その日、依子は1日、何事にも集中することができなかった。買い物にも出かけ、幼稚園から戻る娘の迎えにも行った。

しかし、心はどこか別の場所にあるようだった。自らの一挙手一投足があの男に見つめられているようで、緊張が休まる瞬間もない。

「ママ、ねえどうしたの?」
「えっ?」
「何か、ずっと怖い顔してるよ~」

幼い娘にそんな風に無邪気な言葉を投げかけられ、依子は無理に余裕を取り戻そうとする。同時に、本城への怒りがふつふつと湧き上がってくる。

完全に舐められている。どうにも抵抗できない立場にいるとはいえ、依子にはそれが悔しかった。せめて、あの男に僅かでも嫌な思いをさせてやりたい。

望み通り、夫と私が愛し合うところを見たら、あの男はどんな気分になるのか。本城の要求を受け入れるつもりなどないのに、依子はそんな想像を巡らせる。

あの男に、夫と親密な時間を過ごす姿を見せつけてやろうか。心の中のどこかで、そんな挑発的な気分がうごめくのを、依子は確かに感じてしまう。

その夜、いつものように忠弘の帰宅は日付が変わった深夜だった。既に食事を済ませたという夫は、素早くシャワーを浴び、そしてベッドへと向かった。

妻への心配りはやはりなかった。依子はしばらくの後、そっと寝室に入った。脅迫者の要求を、完全に無視できない人妻がそこにいた。

忠弘は既にいびき音を立てていた。寝入ってしまったようだ。その体からは濃厚な酒の匂いが漂っている。妻への意志を示すように、背を向けている。

あの男は今頃どうしているのだろうか。そんなことを想像し、妙に昂ぶった気分に包まれた依子の耳に、携帯電話の振動音が届く。メールを受信したのだ。

「奥さん、早く始めろ」
メッセージを見た依子は、反射的に立ち上がり、窓のカーテンを開けた。

目の前の家の窓に、男の姿が浮かび上がっている。双眼鏡のようなものをぶらさげ、パジャマ姿の人妻のことを見つめ、そして片手で携帯を握っている。

窓越しに、依子はじっと本城のことを見つめた。街灯のせいか、想像以上に男の家の窓ははっきり見える。にらみつけたまま、依子は動こうとはしない。

人妻の怒りの視線を楽しげに鑑賞しつつ、本城は指先を動かす。新たなメッセージを依子に送るつもりだ。男への憎悪が、依子の体奥で熱を帯びる。

「キスだけでもしてみろ。それであれは返してやる」
男の命令調の指示が、依子のためらいを逆にかき消してしまう。カーテンを閉じようともせず、依子はベッドに向かう。そして夫の背中を見つめる。



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Comment
お久しぶりです
楽しみにしてた読者に
何にも説明ナシですか…

なんかガッカリ(涙)

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