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近くに住む男(16)

2011 02 15
「申し訳ないけど、こちらからかけ直してもいいかしら」
本城からの電話に対し、依子はクールな口調でそう答えた。もうあの男に対し、卑屈な態度で接するつもりはなかった。

依子の意外な調子に不意を突かれたのか、本城は言葉を言い返すことができない。電話を切った依子は、濡れた裸体を改めてタオルで拭った。

体奥のどこかに、火照りを伴った物足りなさが残存しているような気がする。しかし依子は、そんな気分にもう誘惑されるつもりはなかった。

着替えを終え、再び冷えた水をコップに注ぎ、ゆっくりと喉に流す。帰宅した直後と比べ、依子は随分すっきりとした気分になった。

まだ洗濯さえも片付けてはいない。午後になれば、娘が幼稚園から帰宅する時間も近づいてくる。だが、依子にはすべきことがあった。

あの男は私がすぐに電話をかけてくるとは想像していないだろう。リビングのソファに腰を下ろした依子は、そんな男の観測を覆してやりたい気分だった。

携帯を手にし、ためらうことなく指先を動かす。至近距離にいるあの男の姿を想像し、依子はどこか複雑な気分に支配される。

「素直に電話をかけ直してきたじゃねえか、奥さん」
本城の声には、依子に対する驚きの色が漂っていた。

「報告が遅くなりました。さっき、榎本さんのお宅から戻りましたから」
あのアパートの記憶を呼び起こしつつも、依子は淡々とした口調でそう言った。

「それで、奥さん、ちゃんと仕事はしてきたんだろうな」
「預かったお金は確かに返してきましたよ。領収書をもらってはきませんでしたが」

「そんなことはいいさ。俺が言ってるのは、不足した金利分のことだ」
「私の体で返そうとした20万円のことかしら」

言葉に詰まることなく話し続ける依子の態度に、本城は少し圧されているようだった。それをごまかすように、男は声をあげて笑う。

「奥さん、随分素直じゃねえか。そうだよ、その件はどうなったんだよ」
「本城さん、あなた、本当に酷い人ね」

「・・・・・・」
「最初からこうするつもりで私を彼のところに送り届けたんでしょう?」

「だとしたら何だって言うんだ。あんたは俺に借りがあるはずだぜ」
「例えそうだとしても、何もあんなことまで私が我慢する必要はないはずよ」

「へへっ、奥さん・・・・、何されたんだ、榎本に?」
「それは・・・・・・」

ソファに腰を沈めたまま、依子は思わず唇を噛んだ。乳房を揉みしだかれ、着衣を乱されるほどに抱きしめられた自分自身の姿を、本城に伝えたくはなかった。

「俺と違っていい男だろう、あいつは。奥さんも楽しんできたんじゃねえのか」
「馬鹿なこと言わないで」

「欲求がたまってるはずだ、奥さん。俺の前で下着姿を披露してもう何ヶ月にもなる」
男の言葉が依子の心に確かに刻み込まれていく。この数ヶ月で自分の中の何かが変化し始めていることを、この男に見透かされているような気がしてしまう。

「本城さん、妄想めいたことは言わないでほしいわ。私、そんな女じゃないですから」
「ほう、じゃあ何をしてきたんだ、榎本とは?」

「はっきり断ってきました。それでも十分満足してもらったと思います。私ができることはさせてもらったつもりですから、あとはお二人で話し合ってください」

どちらにしろ、本城は榎本に連絡するはずだ。変に隠すようなことはしたくない。依子は自分からそう促すとともに、これ以上の彼らとの関わりを避けようとした。

果たして榎本は何と説明するだろうか。依子にされた仕打ちを理由に、本城に金を返せと再び迫るのだろうか。しかし、依子にその展開は想像できなかった。

あくまでも自分の印象だが、榎本というあの男に、依子は本城と同じ匂いを感じることはなかった。執拗に脅迫を続けるような、酷いタイプではないはずだ。

アパートの部屋であんなことをされたのに、榎本をどこかでかばおうとしている。自らの甘さを感じつつも、依子はしかし、彼への憎しみを抱くことはできなかった。

「まあ榎本に聞けば分かることだ。奥さんの言っていることが事実かどうか」
「別に、嘘なんか言ってませんから、私・・・・」
「その言葉を今は信じてやるよ、奥さん」

どこか不満げにつぶやきながら、本城は電話を切った。張り詰めていた緊張が一気に弛緩し、依子は更に深くソファに腰を沈めてしまう。

これで終わりになるのだろうか。いや、そうなって当たり前なのだ。これ以上、私が本城の個人的なトラブルに巻き込まれる必要など、どこにもない。

立ちあがった依子は、窓からちらりと向かい側の家を見た。交通事故を偽装し、接近してきた卑劣な男。今となっては、本城の素性がはっきりわかる気がした。

一度奪われた下着も、既に取り戻している。今日の件だって、私はあくまでも巻き込まれた被害者であり、正当防衛としての行為をとったまでだ。

過去数ヶ月の間に降りかかった出来事を整理するように、依子はそう考えた。そして、結論を導く。もうあの男と関わり合う必要は微塵もないのだ、と。

その日、本城からの電話はなかった。何事もなかったように時間が過ぎ去り、日常の空間が戻ってきた。そして、更に幾日かの日々が過ぎ去っていった。

夫には何も気づかれることはなかった。忠弘は依然として忙しそうで、依子と顔を合わせる時間も僅かだった。帰宅時間も連日深夜である。

妻のことには何の関心もないような態度も変わることがなかった。依子は、本城との一連の出来事を夫に言うこともなく、永遠に封印するつもりだった。

だが、男はあきらめたわけではなかった。彼の仕組んだゲームは、ターゲットの人妻が安堵に包まれ、不安を忘れた頃に再開された。

それは一通のメールからだった。初夏を思わせるような暑い日の午前、依子は携帯の着信音を耳にした瞬間、本能的にその送信者を思い浮かべた。

あの男だ・・・・・・。彼のメッセージは確かな衝撃を伴ったものだった。

「今夜、榎本が俺の家に来る。奥さんから詫びの言葉をもらいたいそうだ。旦那が帰宅した後、一人でこっちに来てもらおうか」

自らが思い描いた平穏なストーリーが音を立てて崩れていくのがわかる。本城の送信したそのメールは、依子の鼓動を一気に高鳴らせた。

榎本が謝罪を要求している。それは事実なのだろうか。既に1ヶ月以上も前のことなのだ。再び私に接近しようと、本城が仕掛けた罠に決まっている。

依子はいったんそう考え、男に拒絶のメールを返信しようとした。しかし、そのとき、依子は気づいた。彼のメールに添付ファイルがあることに。

息を殺しながら、それをクリックする。そこに浮かび上がったのは画像データだった。不鮮明ではあっても、それが何であるのか、依子にははっきりわかった。

寝室の窓辺で下着姿になり、うっとりとした表情で乳房を揉みしだく自分の姿を見つめ、依子は携帯を握り締めた手を震わせた。



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