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近くに住む男(完)

2011 04 04
「おい、気をつけて運べよ! そんな持ち方じゃ床に傷つけちゃうぞ!」
「はい、すみません!」

引越業者のスタッフたちが、声をかけながら次々に家具を家の中に運び込んでいく。1人の人妻が、そんな風景を自宅2階の寝室からそっと覗いている。

彼女のすぐ向い側の家だ。手に取るように、全てはっきりと視界に捉えることができる。人妻は、ふと視線を動かし、その家の2階の窓を見つめる。

かつて、その家には別の人間が住んでいたことを、彼女は思い出す。その男に、その家の中で、自分がいったいどんなことをされたのか、その濃密な記憶をも彼女は呼び起こす。

男の転居は唐突なものだった。実際のところ、それは人妻が知らないうちに起きた。彼女がそれを知ったのは、近所の主婦からだった。

「ねえ、奥さん、お宅のお向かいの本城さん、急に引越されたんですってね」
「えっ?・・・・・・」

「あら、やだ知らなかった? 数日前の夜、まるで逃げるように出て行ったらしいわよ」
「でも・・・・・、ここは確か持ち家だったんじゃ・・・・・・」

「リストラされてお金なくなったんじゃないかしら。結局手放したみたいね」
「そうなんですか・・・・・・・・」

「奥様とも離婚されたのかしらね。まあ、あんな変な人いなくなって、こっちは安心だけど」
「それで・・・・・・、どちらに越されたんでしょう?・・・・・・」

「知らないわよ、そんなの。奥さん、そんなこと知ってどうするのよ」
「い、いえ・・・・・・、そうですね、別に知る必要もないですね・・・・・・」

その人妻は、姿を消した男との連絡を試みた。携帯電話は既に解約されているようだった。彼の知人にもまた、連絡が届くことはなかった。

彼の家の中で一夜を過ごしてから、まだ1ヶ月も経っていなかった。人妻は、安堵すべきなのに、どういうわけか執拗に彼の存在を追い求めようとした。

いつか必ずまた欲しくなるぜ、奥さん・・・・・・・、必ず、な・・・・・・・・

男の言葉が、人妻の心の中から消え去ることはなかった。そのメッセージに引き寄せられるように、人妻は男を捜したが、しかし、遂に見つけることはできなかった。

いったいどこに姿を消したのだろうか。彼、そしてその知り合いたちは、私の秘めた記録を手にしているのだ。人妻は、そんな危惧を強くした。

新たな脅迫、という恐怖が、人妻を襲う。だが、何かが起こることはなかった。数週間、そして数ヶ月が経過しても、人妻の周辺に異常はなかった。忌まわしい記憶が、全て夢だったかのように。

もう忘れるの・・・・・・・、あの男に会う前のように、平穏に暮らしていくのよ・・・・・・

人妻は、そんな風に自らに言い聞かせる日々を送った。刺激のない日々が単調に過ぎ去っていく。そして、男が消え去って1年以上の月日が瞬く間に経過した。

夫との距離は離れるばかりで、夫婦間の夜の営みは、もはやその予感さえもない。その一方で、娘は順調に成長し、もうすぐ小学校への入学を控えている。

そんなときだった。向かいの家に、全く別の家族がやってきたのは。

引越の日、少し鼓動を早めながら、人妻はそこに新しく住むであろう家族の様子を観察した。荷物の運搬を指示する夫婦は、人妻よりも随分年上のようだった。

どうやら、問題を起こすような家族ではなさそうだ。人妻はそう思いながら、カーテンを閉じようとする。そして、ふと、その手を止める。

若者の姿が人妻の視界に捉えられた。その夫婦の子供だろうか。恐らく大学生だろう。長身で体格がよく、くっきりとした顔立ちの男だった。

彼の様子をしばらく見つめた後、人妻は完全にカーテンを閉ざした。そして、何もなかったかのように、日常の家事に戻っていった。

**********************

「あら、今から学校?」
「ええ、そうなんです。なまけものですよね、もうお昼近くだっていうのに・・・・・」

「大学生はみんなそうなんじゃないかしら。でも、授業は結構大変でしょう?」
「僕はもっぱら課外活動に精を出してるんです・・・・・」

恥ずかしげに答える若者の顔を、人妻はまぶしそうに見つめる。平日の午前、路上で会話を交わす2人の周囲には、誰もいない。

「課外活動かあ。体格いいわよね。何かスポーツでもしてるのかしら」
「僕、陸上やってるんです」

「えっ、そうなの? やだ、私も昔やってたのよ、短距離」
「えっ、そうなんですか? どうりでスタイルがいいんですね」

「へえ、いまどきの大学生はお世辞もお上手なのね」
「い、いえ・・・・・・、お世辞じゃないですよ・・・・・・・・」

口ごもってしまう若者を見つめているうちに、人妻は久しぶりに何かを感じている自分に気づく。恥ずかしさから立ち去ろうとする若者の背中に、人妻は思わず声をかける。

「ねえ、もしよかったら今度・・・・・・」







(↑最後までご愛読、本当にありがとうございました! クリック、凄く嬉しいです)

Comment
これで、終わりなんですか……残念です。
今回も素晴らしい作品でした。SEXの描写がすごくよかったです。
次回作が楽しみです。
できれば君枝さんに会いたい。熟した東大出の人妻が翻弄される姿が見たいです。
No title
尻切れでしたね。お疲れ様ですが、有終の美を飾れていないのが残念です。
一気に読みました
全部、ぜ~んぶ、私がして欲しい事でした!
いえ、いえ。それ以上!
官能小説を読んだだけでこんなに満足出来たのは初めてです。
旦那とのセックスより、ポイントついてて、読んで5回はイケます。
女(熟女)心、わかってますねっ!

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