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欲情のトライアングル(3)

2011 08 12
「おい、宮崎、まだ実家に帰らないのか?」

キャプテンの浜本さんがそんな風に僕に声をかけてきたのは、年も押し迫った12月のある日のことでした。

見事に2部リーグに昇格を果たしたあの試合から、既に1か月が経過していました。祝賀会などのイベントもひと段落し、チーム内の興奮もほぼおさまった頃です。

年末年始は原島監督の意向で長期休暇となり、選手寮で暮らす大半の選手は実家に戻りました。気がつけば、だらだらと残っているのは僕と浜本さんだけのようです。

「僕は明後日帰る予定なんです。浜本さんこそ、まだ帰らないんですか」
「俺は明日帰るつもりなんだよ。いろいろとこっちで用事があってさ」

「いよいよ卒業ですからね・・・・。寂しいですよ」
「おいおい、まだ早いだろう。別れの挨拶は」

最上級生ではありますが、浜本さんは偉ぶったところがなく、後輩からも信頼が厚い先輩でした。まさにキャプテンの器を感じさせてくれる人物です。

いつもは夜遅くまでもざわざわとにぎやかな寮内ですが、今日はまだ夕方なのに、しんと静まり返っています。ここにはもう、僕たち二人しかいないのですから。

監督と藍子さんは、年末年始もここで過ごすはずです。でも、今日はどこかにいったのか、寮内にいる気配はありません。

「宮崎、どうだ、今夜は何か予定あるのか?」
「別に、何もないです。暇ですよ」

僕は迷うことなく答えました。浜本さんがどんなつもりで質問しているのか、すぐにわかったのです。

キャプテンにふさわしい人物ではありますが、浜本さんには人間味溢れる部分もありました。その一つが、お酒が大好きなところです。

決して泥酔するわけでもなく、人に迷惑をかけることもないのですが、浜本さんはとにかくお酒をよく飲みます。未成年の僕ですが、この何ヶ月かで随分と鍛えられたものです。

「だったら今晩、一緒にどうだ、宮崎?」
「浜本さん、未成年ですよ、僕は」

「今更何言ってやがる。今夜ぐらい、真面目なマネージャーの肩書は外してもいいだろう。俺が許可してやる」

「わかりました。では喜んでご一緒させていただきますよ」
「ささやかながら、二人だけで最後の祝賀会と洒落込もうか」

そんなわけで、僕は浜本さんと二人、飲み会を開くことになりました。会場となる浜本さんの部屋に、僕たちは大量の缶ビールとワイン、そしてつまみを持ちこみました。

「今年ももう終わるな・・・。とにかく、乾杯だ、宮崎」

勧められるがまま、僕は浜本さんとグラスを鳴らしました。夢でもあった2部昇格を果たした1年を振り返ってか、浜本さんの表情にもいつになく感傷的な色が浮かんでいます。

「浜本さん、今年は遂にやりましたね」
「ああ。そうだな・・・・。遂にやったんだ、俺たちは・・・・」

たかが2部昇格じゃないかと、笑う人がいるかもしれません。しかし、僕達は心底達成感を味わっていました。掲げた目標の意味なんて、他人には所詮わからないものです。

寮内に誰もいない解放感も手伝ってか、僕達は早いピッチで缶ビールを空けていきました。特に浜本さんは、何かを追い求めるように、次々にお酒を飲み干していきました。

「宮崎、なあ、男2人じゃ寂しい忘年会だなあ」

2時間近く経った後、浜本さんがぽつりとそうつぶやきました。僕はそのとき感じました。浜本さん、随分酔っているな、と。

特定の交際相手がいる上級生は多くいましたが、浜本さんにそんな噂は一切ありませんでした。クラブのことだけに専心し、女性にはまるで興味を示さなかったのです。

そんな僕にも勿論彼女のような存在はいません。それどころか、僕はまだ、誰かと付き合った経験さえありませんでした。

それを知っているはずの浜本さんがそんな言葉を口にするなんて、過去にはありませんでした。

「そうですね、昇格のご褒美があってもいいですよね」
僕は浜本さんの意味していることをわかったような口ぶりでそう答え、そして部屋の壁にかかった時計を見ました。

午後8時を過ぎようとしています。寮内は相変わらず静寂が支配しています。僕は何本めかの缶ビールを、浜本さんのグラスに注ぎました。

その後にどんな出来事が待っているのか、その時の僕達2人に分かるはずもありませんでした。

決して忘れ去ることのできない強烈な体験が、幕を開けようとしていました。

全ては・・・・・・。この夜から始まってしまったんです・・・・・。



(↑次回更新は8月22日以降とさせていただきます。クリック、凄く嬉しいです)


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待ってました

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