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欲情のトライアングル(5)

2011 08 24
「ほら、今夜は無礼講よ。遠慮せずにさあ、飲んだ、飲んだ」
普段から男勝りな振る舞いが目立つ藍子さんですが、その夜は特にそうでした。

浜本さんには勿論、大学1年生とはいえ、まだ未成年の僕にもどんどんビールを勧めてきます。そして、自らもまたおいしそうにアルコールで喉を潤していきます。

「ああ、久しぶり、こんな風にビール飲むなんて」
「藍子さん、いつもは飲まないんですか?」
「当たり前でしょ。大切な選手の皆様をお世話しなきゃいけないんですからね」

浜本さんの質問を軽く流しながら、藍子さんは心底リラックスしたような表情を浮かべます。そして、恥ずかしげに口ごもる僕のことを時折からかうように見つめてきます。

マネージャーではありますが、僕は藍子さんと2人きりでじっくり話をしたような経験はそれまでほとんどありませんでした。

浜本さんがいるとはいえ、狭い空間で藍子さんと体が触れるほどの距離にいることに、僕は何故か妙な緊張感を抱いていました。

監督の奥様であり、女性の色気を感じさせないような普段の振る舞いも手伝い、藍子さんに対する妙な感情を選手達が抱いていないことは、前にも書いたとおりです。

勿論、僕もそのつもりでした。でも、その夜は何かが少し違いました。お酒のせいか、藍子さんがあまりに近くにいるせいか、理由ははっきりとはわかりません。

でも、僕は久しぶりに男として心が弾むような気分に浸っていました。藍子さんに女性を感じ始めていたのです。それは浜本さんも同じようでした。

「藍子さんがこんなに飲むなんて想像もしてませんでしたよ」
「あら。浜本君に言われたくはないわねえ。相当飲むって噂じゃないの、キャプテン」

浜本さんは明らかに酔いが進んでいました。酒に強いはずの浜本さんのそんな姿は、僕の記憶にはありませんでした。一方の藍子さんは、全く変わった様子を見せません。

ジャージの袖をひじまでまくり、僕達と楽しげに飲み続けています。すぐそばに座りあっているのに、藍子さんの手は決して僕や浜本さんの体に触れることはありません。

そんな硬派とも形容できるような態度が、僕にはいかにも藍子さんらしく思えました。僕達が勝手に女性として意識し始めても、藍子さんはいつもと変わりないのです。

「ねえ、藍子さん、1つ質問していいですか?」
酔った勢いに任せるように、浜本さんが質問を投げます。その声色には藍子さんに更に奔放に振舞ってほしいかのような願望が込められているようです。

「何? どうせエッチな質問なんでしょう?」
浜本さんの先手を取るように、藍子さんが余裕たっぷりの表情で答えます。少し嬉しそうな顔つきは、まるで僕達からのいやらしい質問を待っているかのようにも見えます。

「ねえ藍子さん、何歳ですか?」
「浜本君、女性に年齢を聞くのはタブーよ。たとえ相手が38歳の人妻であってもね。あっ、いけない、自分で言っちゃった」

こんな風に過ごすのが本当に久しぶりな様子で、藍子さんは1人で盛り上がっていきます。浜本さんは、しかし、何か企みがあるように負けずに笑みを浮かべます。

「やだなあ、藍子さん、俺が聞いたのは今の年齢じゃなくてさ」
「えっ?」
「つまり、その・・・・、藍子さんが初めて男を知ったのは何歳のときかってことですよ」

恥ずかしそうな様子で浜本さんがそう聞いた瞬間、藍子さんの右手が伸びました。いつしかスリッパを握り締めていたその手は、浜本さんの頭を心地よい音で弾きます。

「いてっ!」
「駄目っ! 38歳の小娘にそんなこと聞いちゃ!」

恥ずかしさを隠すようにそう叫ぶと、藍子さんは自分のコップにビールを注ぎます。たじろぐことなく、浜本さんが質問を続けます。

「やっぱり監督とが初めてですか?」
「知らないわよ、そんなこと・・・・、だって、私、まだ処女なんだから」

苦しげな冗談を口にしながらも、藍子さんは反撃の機会をうかがっています。浜本さんは、これまで心の底で眠っていた感情に初めて気づいたように、藍子さんを見つめます。

「そういう浜本君はどうなのよ。もう女の体を知ってるのかしら?」
一気に形勢が逆転します。恥ずかしげに口を閉ざす浜本さんの仕草は、質問への答えを曝け出しているかのようです。

「えっ、浜本君、22にもなって、まさかまだなの!?」
「そ、そんなわけないでしょう、藍子さん。まあ、いいじゃないですか、俺のことは」
「ふーん、そうなんだあ。今どきの学生さんって、結構そんなところがあるのよねえ」

自分への攻撃を巧みにかわし、藍子さんはどこか好奇な視線で浜本さんを見つめます。しばらくの躊躇の後、浜本さんは意を決したように口を開きます。

「藍子さん、今度は質問じゃなくてお願いがあるんですけど・・・・」
「いいわよ。何かしら?」

「リーグ昇格の褒美が欲しいなあ、なんて・・・・・・」
「あら、遠慮せずに言いなさいよ。そうね、キャプテンへのご褒美は与えられて当然だわ」

妙な沈黙が室内を包んでいきます。そこにいる3人、誰もが鼓動を早くし、同じことを想像しているかのような、なまめかしい沈黙です。浜本さんがそれを破りました。

「ほら、映画があったじゃないですか、藍子さん」
「映画?」
「高校のバレー部かなんかが舞台で、試合に勝ったらおっぱ」

ぱしっ!

今度は藍子さんは左手を伸ばしていました。先ほどと同じように握り締めたスリッパが、見事に浜本さんの後頭部をひっぱたきます。漂っていた妖しい空気が一気に霧消します。

固い決意とともに浜本さんが口にしようとした単語が、最後まで発せられることはありませんでした。頭を抱える浜本さんに藍子さんが笑いかけます。

「38歳の人妻の胸なんか見ても興奮しないわよ」
藍子さんの言葉に、僕は思わず視線を動かしてしまいます。だぶっとした大き目のジャージは、細身の体には不似合いな何かを隠そうとしているかのようです。

「もう少し別なお願いなら聞いてあげるわよ。ご褒美なんだからね」
励ますような口調で、藍子さんが浜本さんを見つめます。しかし、浜本さんは自らの発言を悔いるように、恥ずかしげにうつむくばかりです。

僕は、それまでの間、ほとんど黙り続けていました。ビールを何杯も飲むこともなく、ほとんど平静な状態を保っていた僕は、そのとき突然口を開きました。

「あの・・・・、違う服を着た藍子さんが見たいです、僕・・・・」
「えっ?」

突然の言葉を発した僕を、藍子さんが驚いたように見つめます。


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