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欲情のトライアングル(6)

2011 08 26
「違う服装って・・・・、どういうことかしら、宮崎君・・・・・」
さすがの藍子さんも、僕のその質問は予想していなかったようです。浜本さんと会話していたときとは違う、かすかな戸惑いの色が、その個性的な切れ長の瞳に浮かんでいます。

「別に深い意味はないんですけど・・・・・、ただ、藍子さん、いつもジャージ姿だから・・・・・」
そう言うのが精一杯の僕でしたが、心の中ではもっとはっきりとした気持ちを抱いていました。

浜本さんが藍子さんの胸のことに触れたとき、僕は初めて気づいたんです。藍子さんがいつもジャージを着ている理由に。

藍子さんは長身で細い体の持ち主ですが、水泳部出身で肩幅がすこし広く、女性としては大柄なタイプといえます。そして、愛用しているジャージはいつも大き目のサイズです。

藍子さんは実は自分のボディラインを隠そうとしているのかもしれない。周囲にいるたくさんの若い学生たちに刺激を与えないためにも、意図的にあんなジャージを着ているんだ。

僕はそう確信したんです。藍子さんのそんな企てに僕らは皆、見事に騙され続けていたのかもしれません。でも、その夜、間近に座った藍子さんを見つめ、僕は気づきました。

だぶっとしたジャージの下に隠された、ボリューム感漂う胸の膨らみにです。そんな風に意識して藍子さんを見つめると、折り曲げられた脚が随分と長いことにも改めて気づかされます。

ジャージ姿じゃない藍子さんが見たい。僕は、とっさにそんな願望を口にしてしまいました。それは藍子さんを動揺させるとともに、浜本さんの強い賛同をも得ました。

「宮崎、いいこと言うじゃないか。そうだな、それがいいなあ、俺も」
赤面してしまうような要求を自分が口にしたことも忘れ、浜本さんはすっかり嬉しそうです。

藍子さんは、しばらく迷うような素振りを見せましたが、でもすぐに元の陽気さを取り戻しました。何杯かビールを飲んだはずですが、顔色には少しも変化がありません。

「仕方ないわね、ご褒美あげるって言い出したのは私なんだから。でも、宮崎君、どんな服を私に着て欲しいのかしら。水泳部出身だからって、水着着てください、なんてのはいやよ」

きわどい内容の言葉でも、藍子さんが口にすると妙に明るく、素っ気無いものに感じられます。それでも僕は、藍子さんの水着姿を想像し、再び鼓動を早くしてしまいます。

そんな妄想は一度も抱いたこともありません。そんなうぶな僕をわざと追い込もうとするかのように、藍子さんは誘惑するような視線を投げかけてきます。

「どうしてもって言うのなら水着でもいいわよ。こう見えても学生時代から少しも体型変わってないんですからね」

藍子さんはそう言いながら、その肢体を見せ付けるようにその場に立ち上がりました。浜本さんが何か言いたそうな表情をしていますが、眩しそうに藍子さんを見つめるだけです。

「じゃあ、ここでおとなしく待ってなさい。水着は冗談だけど、ちゃんと部屋で着替えてくるから」
座り込んだままの僕達を見下ろしてそう言うと、藍子さんは楽しそうに部屋を出て行きました。

「おい、どうする、宮崎・・・・・・」
「どうするって、何をですか、浜本さん・・・・・・」
「藍子さん、本気で俺たちに褒美くれるかもしれないぜ・・・・・」

冷静なキャプテンとしての姿とは全く違う様子で、浜本さんが女性への欲望を素直に告白します。でも、そこには汚らわしい気配は感じられませんでした。

スポーツにずっと没頭してきた若者らしく、どこか爽やかささえ感じられる態度です。浜本さんの言葉の意味を考えながら、僕はしばらく黙り続けました。

2人だけの空間に、再び妙な静けさが漂います。同じ寮内に住む藍子さんは、今自分の部屋で着替えをしているはずです。僕達2人は、その藍子さんの姿を密かに想像していました。

これまで抱いたこともなかった藍子さんへの妄想を、今夜は断ち切ることはできそうもありません。ジャージを脱ぎ、下着姿になった藍子さんの肢体を、僕は思い浮かべます。

学生時代と変わりないというその体型。細身ではありますが、どこか筋肉質な腕、そして脚をしているはずです。僕は、藍子さんの全身の肌を見てみたいという、強い欲望を感じていました。

いったいどんな服を着てくるんだろう。年も押し迫った12月の終わりですが、室内は暖房が効き、寒さを感じさせない空間です。僕は妙な緊張感に包まれたまま、藍子さんを待ちました。

「お待たせ。入っていいかしら」
藍子さんが戻ってきたのは、20分程度後のことでした。ドアをノックした藍子さんを、立ち上がった浜本さんが迎えに出ます。

「うわっ、藍子さん・・・・・・」
「ふふっ、似合うかしら」

浜本さんの向こう側から現れた藍子さんは、いつものジャージ姿とは全く違う格好をしていました。上半身は黒色のニットのタートルネックで包んでいます。

バストラインがくっきりと浮かび上がった胸元は、男性なら誰でも手を伸ばしたくなるような曲線を描いています。藍子さんの上半身のシルエットを、僕たちは初めて目にしました。

そして、藍子さんのスカート姿を見るのも、これが初めてでした。細かいチェック柄のグレーの地味なスカートですが、膝丈のタイトなデザインです。

「こんな格好、もう何年もしたことないかもね~」
恥ずかしさをごまかすような雰囲気で、藍子さんは自分の座布団に再び腰を下ろします。

部屋のムードは、明らかに一変しました。浜本さん、そして僕は、大人の女性に圧倒されるように、すっかり押し黙ったまま、紙コップにビールを注がれるだけです。

「はい、何時まででも付き合ってあげるからね、今夜は」
勧められるがまま、僕は久しぶりにビールを口にします。浜本さんは、先刻までの調子のよさをすっかり忘れたかのように、隣に座る藍子さんの肢体をちらちらと見るだけです。

「38歳のおばさんでも、やっぱり興味あるのかしら、浜本君?」
「そ、そりゃそうですよ・・・・、まあ、でも・・・・、監督の奥さんだから・・・・・」
「あれっ、監督の奥さんじゃなかったら、何かしようとするの?」

挑発するような言葉は、藍子さんにはよく似合います。冒険することをあきらめたかのような浜本さんとの距離を、藍子さんは少しずつ縮めていきます。

「別に遠慮しなくてもいいのよ、浜本君。ねえ、何がしたいの?」
「・・・・・・」
「胸見せるのは駄目だけど、他のことなら考えてもよくってよ」

決して誘惑するのではなく、藍子さんは本当に浜本さんに何か褒美をあげたいと考えているようです。殊勲者の1人であるキャプテンへの思い入れは、やはり特別なのかもしれません。

「だったら・・・・・、少しだけそこを触らせてください・・・・・・」
つぶやくように、浜本さんがそんな要求を口にしました。

視線の先には、藍子さんの胸の膨らみがあります。そこに触れるのを許されているのは監督だけです。しかし、浜本さんは今、そんな理性を敢えて捨て去ったように見えました。

藍子さんは、すぐに返事をしませんでした。YESと言ってやりたくても、やはり監督の妻としての立場を考え、ためらっているのかもしれません。

「うーん、それはちょっとねえ・・・・・・・」
やはり藍子さんは酔ってはいないようです。僕は安堵と、そして心のどこかでかすかな落胆をも同時に感じました。

そのときでした。

ドンっ! ドンっ! ドンっ!

僕達3人以外にこの寮には誰もいないはずなのに、ドアを激しく叩く音が鳴り響いたのは。その強い調子は、ドアの向こう側にいるのが男性であることをはっきりと伝えていました。



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Comment
いつも楽しみにしてます。
いよいよ、といったところですね。期待してます。

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