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欲情のトライアングル(25)

2011 10 24
「か、監督・・・・・・・・」
しらを切ることなど、その時の僕には無理でした。原島監督の指摘を認めるように言葉に詰まったまま、僕は椅子に座ることしかできませんでした。

「あの日の夕方、洗濯場に藍子といたのは、宮崎、お前だろう。違うか?」
監督の机には、ノートパソコンは書類ファイル、それにスポーツ雑誌が乱雑に置かれていました。その向こう側から、肘掛け椅子に座った監督がじっと僕を見据えます。

その視線には、しかし僕を非難するような気配は感じられませんでした。自分が抱き続けてきた疑問をただ解き明かしたいという、素直な欲求だけがそこにはあります。

「す、すいません、監督・・・・・・・」
僕は監督に促されるがまま、素直に白状しました。

「偶然に藍子とあそこで一緒になったのか?」
「・・・・・・」
「それで、あんなことをしたってわけか・・・・・」

監督は、一部始終を目撃したようです。藍子さんを押し倒すように暗がりに追い込み、抱き寄せながら、そのヒップを激しく揉みしだいた僕のことを。

いえ、それだけではありません。若い学生と濃厚にキスを交わしながら、物欲しげにその右手を伸ばし、勃起したペニスをいやらしくしごきあげた妻の姿をも、監督は確かに見たのです。

告白した僕のことをしばらく見つめた後、監督は再び立ち上がり、窓の外に視線を投げました。外は少しずつ暗闇が支配し、グラウンドの照明が眩しく輝き始めています。

選手達のかけ声が、この監督室にも届きます。僕が監督とこんな微妙な会話をしているなんて、選手達が気づくはずもありません。

「宮崎、悪いけどな、全部見てしまったんだ、俺は・・・・」
「・・・・・・・」

「藍子とお前があの暗闇の中でしたことを・・・・・・」
「・・・・・・・」

「宮崎、いつから藍子とあんな関係だったんだ?」
「あ、あれが最初で最後です、監督・・・・・・・・」

「そうか・・・・・、まあ、そうだろうな・・・・・」
外を見つめたまま、監督は少しばかり安堵したような口調でゆっくりと話します。じっとそれを聞きながら、僕はあの夜のことを再び思い出していました。

いつしか冷たい態度をとるようになった藍子さんを問い詰めようと、僕はあそこに誘いました。そして怒りに任せ、藍子さんを脅迫するような言葉を口にしたのです。

黒木さんとの一夜のことを監督に言いますよ、と・・・・・。

監督は、藍子さんと黒木さんのことも既に知っているのだろうか。そんな疑問が僕の心をよぎります。僕が藍子さんを脅した経緯に、監督は気づいているのだろうか。

その問いかけへの答えは、しかし、あっさりと僕に知らされました。それを証明するような言葉を、監督が自ら口にしたのです。

「宮崎、お前、藍子を別に脅迫したわけじゃないだろう?」
「えっ?・・・・・・」

「そりゃそうだよな。藍子を脅迫できるような材料を宮崎が持っているわけないし、それに、藍子自身にそもそもそんなネタなんかないはずだ・・・・」

僕は戸惑ったまま、監督の言葉を待ちました。少なくとも監督は僕に対して怒りを抱いていない。既にそう感じていた僕は、この会話がどこに向かうのか、想像さえできませんでした。

「宮崎、別に俺は怒っているわけじゃない。ただ、知りたいだけなんだ・・・・・」
「監督・・・・・・」

「藍子が何故お前とあんなことをしたのか。それともう1つ・・・・・」
「・・・・・・・・」

「俺自身の気持ちを、だ・・・・・・・・」
「監督のお気持ち、ですか・・・・・・」

「俺があのとき感じたこと。それをもう一度確かめたいんだよ・・・・・・」

そこにはいつもの監督はいませんでした。妻の予想外の行動に翻弄される、1人の夫の姿があるだけでした。僕は、何も言うことができませんでした。

複雑な感情に引きずり込まれていく僕をよそに、監督は更に会話を続けようとします。藍子さんとあんな関係になった僕だけに秘密を明かそうとしているのです。

「俺たち夫婦には少しばかり問題があってな」
「問題?・・・・・・」

「いや、こう言ったほうが正確だ。俺自身に問題がある、と・・・・」
「・・・・・・・・・」

「俺が何を言いたいのか、お前にも何となくわかるだろう、宮崎?」
「い、いえ・・・・・」

僕の答えに、監督はこちらを振り向き、爽やかな笑みを浮かべました。正直なところ、その時の僕には監督が何を言いたいのか、よくわからなかったのです。

「藍子が宮崎とあんなことをした理由も、ひょっとして俺が原因かもしれない・・・・」
監督のその言葉を聞いたとき、僕の心にふとよぎったものがありました。

あの夜、黒木さんが口にした言葉です。藍子さんに、確かこんな風に言っていました。奥さん、旦那に満足してないんだろう、と。

夫である原島監督には、いつも愛してもらっている。私が満たされるのは夫に抱かれたときだけ。藍子さんは、こんな風に激しく反論したものです。

それが嘘だとでも言うのでしょうか。監督は、まるで黒木さんの指摘を認めているようです。性的な不満を抱いていた藍子さんが、僕との戯れに迷いこんだのだ、と。

だから俺が妻を責めることはない。監督は、今日僕をここに呼び出し、それを告げようとしたのでしょうか。しかし、監督の真の目的はそうではありませんでした。

「宮崎、今日はお前に頼みがあるんだ・・・・・」
「僕に、ですか?・・・・・・」

「かなり変わった依頼かもしれない。しかし、お前なら受け入れてくれそうな気がしてな・・・・」
「それは、監督が先ほどおっしゃった要望をかなえるためのものですか?」

この部屋に来て、初めて僕ははっきりとした口調でそう言いました。少し戸惑ったように顔を歪めた後、監督はすぐにクールな表情を取り戻し、答えてくれました。

「ああ。その通りだ、宮崎・・・・・・」
「藍子さんが僕とあんなことをした理由。それを目撃した監督が抱いたお気持ち、その2つをもう一度確かめたい、ということでしょうか・・・・」

僕に向かって静かにうなずき、監督は再び椅子に座りました。そして、その依頼事項につき、ためらうことなく、ゆっくりとした口調で説明を始めました。

そして、監督は目的を果たしました。長い説得の後、僕にその依頼を遂に受け入れさせたのです・・・・。



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ドキドキします。
早くお話してください。
どんな展開になるの?

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