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欲情のトライアングル(26)

2011 10 25
長い廊下の天井に取り付けられた照明は、一部しか輝きを示していません。数メートル先がはっきりと確認できないほどに、周囲は闇が支配しています。

窓から差し込む星の光が、かろうじて視界を広げてくれます。しかし、たとえそこが完璧な闇に包まれていたとしても、僕にとって歩くことに支障はありませんでした。

既に2年近く、この寮に住んでいるのです。隅々まで知り尽くした僕にとって、今歩むを進めている廊下は、目を閉じても歩けるほどの親密さがありました。

喉の渇き、そして脈動が高まるのを感じます。「そこ」に近づけば近づくほど、僕の緊張は加速し、足取りは重いものになっていきます。

年の瀬を迎えたこの寮内には、もうどの選手も残っていません。皆、それぞれの実家に帰省し、それぞれの穏やかな時を過ごしているはずです。

無人の寮内を歩きながら、僕は思い出します。キャプテンの浜本さんと一緒に祝杯をあげたのも、昨年のこんな夜だったことを。

ちょうど1年が経過した今夜、僕はまだここにいます。あの夜を遥かに上回る興奮の予感に包まれながら、僕は「そこ」に向かっているのです。

食堂を通り過ぎ、更にしばらく歩いた僕は、そこにある階段を見つめます。廊下以上に闇が黒い階段を、僕はゆっくりと昇り始めます。

人の気配は全くありません。しかし、僕は恐怖など感じません。そんな余裕さえ、僕にはありません。こうして歩いているだけで、熱いものを股間に感じているのです。

数日前、最後に聞かされたあのメッセージを、僕は再び思い出します。携帯の留守電に残されたその伝言を、僕は2度聞いた後、既に消去しました。

犯罪に手を染める人間というのは、こんな気分に陥るのだろうか。いや、これは犯罪なんかじゃない。約束された行為であり、そこに罪の気配はないのだ。

自らに言い聞かせ、僕は歩みを速めていきます。妙な息切れを感じてしまうほど、昂ぶっている自分を感じます。静まり返った周囲の壁も、僕に冷たさを与えてはくれません。

2階、そして3階へ・・・・。選手達の部屋が続くエリアを歩き、やがて、廊下が直角に曲がります。そこに立ち止まり、僕はデニムのポケットに手を伸ばします。

既に暖房も停止した廊下を歩いているというのに、僕の首筋には汗が浮かんでいます。取り出したハンカチでその滴を拭い、腕時計を見つめます。

午後11時を示すアナログ時計を信じることができないように、しばらくの間、僕は視線を釘付けにします。そして、行動すべき時が来たことを、遂に認めます。

あとはここをまっすぐに歩くだけだ・・・・・・・

そのエリアには、もはや選手の部屋は存在しません。ドアの数も少なくなり、学生達の息遣いとは無縁の空気が漂い始めます。

廊下の一番奥の部屋に、誰が住んでいるのか、僕にはもちろんわかっています。ただ、ここに足を踏み入れるのは、僕にとって今夜が初めてです。

監督と奥様が住むこの部屋は、僕達学生にとって縁がない場所なのです。

同じ寮内といっても、部屋の構造は多少異なり、スペースも十分に広いはずです。夫婦が共に過ごす部屋には、立派なダブルベッドが設置されているのかもしれません。

その上で濃厚に愛し合う夫婦の姿を、僕は想像します。しかし、現実の世界では果たしてどんな光景がそこで繰り広げられているのか、既に僕は知っています。

原島監督夫妻にまだ子供がいないことを、僕は改めて思い出します。

気づいたとき、既に僕はドアの前に立っていました。数分間、僕はそこで沈黙を守り、立ち続けます。ドアの向こう側の気配を、懸命に探ろうとします。

かすかな息遣いが聞こえてくるような気がします。いえ、気のせいではありません。闇に消え入りそうなその声量は、やがて確かなものとなって僕の耳に届き始めます。

暗闇に目が慣れていくかのように、その小さな声を、僕はもう、はっきりと聞き取ることができます。苦しむような、懸命に何かを求めるような、そんな女性の声です。

ううんっ・・・・・・・・、ううんっ・・・・・・・・・・

悩ましげなその声の主が誰なのか、僕に分からぬはずはありません。携帯電話に残されたあのメッセージが正しかったことを、僕は確信します。

息を大きく吸い、そしてゆっくりと吐き出します。汗ばんだ右手を握り締め、その暗闇に不似合いなほどに、僕は力強くドアをノックします。

「誰っ?・・・・・・、あなたなの?・・・・・・・・」
窮地から救われることを祈るような人妻の声が、僕の耳に捉えられます。



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Comment
なんだか
なんだか、藍子、最低な予感。
No title
いやー興奮しますねー
こっちも硬くなちぃます。
続きをお話しください。
よろしくお願いしします。

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