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欲情のトライアングル(27)

2011 10 27
握り締めたこぶしを停止させたまま、僕はその場から動くことができませんでした。声を発することもなく、ドアのこちら側からその向こうにある光景を懸命に想像します。

「ねえ・・・・・、あなたなんでしょう?・・・・・・」
藍子さんのすがるような声が、再び闇の中に響きます。

ここに立っているのが夫である原島監督だと願っているのです。藍子さんのその言葉が、僕に1つの事実を教えてくれます。

やはり、原島監督はこの部屋にはいないのだ・・・・・・

どうやら、藍子さん1人が自宅に取り残されているようです。先刻まで聞こえていたあの艶めいた息遣いの意味合いを、僕は具体的に心に描きます。

「藍子さん、僕ですよ」
ゆっくりとした僕の言葉に、ドアの向こう側にいる人妻は明らかに驚いたようでした。

僕がまだ帰省もせずに寮に残っていることは、藍子さんも当然知っています。にもかかわらず、午後11時を過ぎた今、ここに僕が来ることを、藍子さんは想像していなかったようです。

「わかりますか、藍子さん、宮崎です・・・・・」
もう一度僕は、室内に向かって声をかけました。一歩足を踏み出してしまった以上、もう後戻りはできないという覚悟が、僕の内側に広がっていきます。

「宮崎君・・・・・、どうしてここに・・・・・・・」
「だって、藍子さんの苦しそうな声が聞こえてきたから・・・・・・」

僕の言葉の意味を探るように、藍子さんはしばらくの間、沈黙しました。ドアのノブを握り、そこを開けるような仕草をしながら、僕は言葉を続けます。

「大丈夫ですか、藍子さん?」
「待って・・・・、入ってこないで、宮崎君・・・・・・・」

「でも・・・・・、何か助けて欲しいんじゃないですか、藍子さん・・・・・」
「え、ええ・・・・・、それはそうなんだけど・・・・・・、でも駄目っ・・・・・・・」

僕を部屋の中に招き入れるかどうか、藍子さんは逡巡を重ねているようでした。その決意を促そうと、僕はずっと秘め続けていた言葉を口にしてみます。

「藍子さん、さっき監督と会いましたよ」
「えっ?・・・・・」

「急に忘年会に誘われたからこれから出かけるって・・・・・」
「ねえ・・・・・、それ、いつのことかしら?・・・・・・」

「1時間くらい前だったかな・・・・・、1階の食堂のそばですれ違ったんです・・・・」
僕の嘘に、藍子さんが気づくはずもありませんでした。それほどに、藍子さんは今、窮地に立たされているに違いないのです。

「だから、監督は当分戻らないと思いますよ」
「・・・・・・」
「藍子さん、僕でよければ、手伝うことできると思うんですけど・・・・」

僕はドアのノブを回し、それをゆっくりと押し開けました。意外なことに、室内には照明は輝いておらず、オレンジ色の小さな灯りだけが存在していました。

「待って・・・・・、ねえ、待って、宮崎君!・・・・・・・」
少し慌てたような口調の藍子さんを無視し、僕はドアの向こう側に体を滑り込ませます。そして、ドアをそっと閉じます。鍵は開けたままにして。

すぐそこの部屋に藍子さんはいませんでした。リビングスペースの部屋を通り抜け、隣の空間に歩いていきます。部屋の中央に置かれたダブルベッドが僕の視界に捉えられます。

二部屋を併せたほどに広いその部屋は、ベッドの脇にも十分すぎるほどのスペースを作っています。小さな棚や姿見に加えて、巨大な器具が置かれています。

トレーニングルームにあるような、2メートルほどもある鉄製の棒を組み合わせた器具です。恐らく、原島監督が自らの筋肉を鍛えるために、設置しているのでしょう。

藍子さんは、その器具のすぐ前に、恥ずかしげにうつむきながら、床に座り込んでいました。壁に手を伸ばし、僕は照明のスイッチを押します。

「宮崎君・・・・・・・」
白い光線が溢れかえる中、まぶしそうに表情を歪め、藍子さんが僕のことを見上げます。無言のまま、僕は藍子さんの姿をじっくりと観察します。

いつものジャージ姿ではありません。1年前の夜、僕の要望に応えたときのようにタイトスカートをはき、上半身はシックなシャツで包んでいます。

藍子さんが苦しげな声をあげていた理由を、僕は確認します。藍子さんの両手は後方に回され、その手首が鉄製のトレーニング器具の頑丈なポールに縛り付けられているのです。

「藍子さん、いったい誰にこんなことされたんですか?」
「いいから・・・・・、ねえ、宮崎君、いいからこれをほどいてくれないかしら・・・・・」

懸命に自分で脱け出そうとしたことを示すように、藍子さんはうっすらと汗をかいているようです。藍子さんの要求にすぐに応えることなく、僕は質問を繰り返します。

「ねえ、誰にされたんですか、こんな格好に・・・・・・」
「それは・・・・・、宮崎君には関係ないでしょう・・・・・・」

「言わないと、ほどいてあげませんよ、藍子さん・・・・・」
「あなたって子は・・・・・、また私を脅迫するつもりなの?・・・・・」

「藍子さん、どちらが有利な立場にいるか、ちゃんと考えてみてください・・・・・・」
僕はそう言いながら、しゃがみこんでいる藍子さんの頬にゆっくりと手を伸ばします。僕の指先を嫌がるように、藍子さんが顔を背けます。

「ほどいてあげるから立ってくださいよ、藍子さん・・・・・・」
「信じていいのかしら・・・・・」
「勿論・・・・・・・」

折り曲げられた長い脚を元の状態に戻しながら、藍子さんはゆっくりとその場に立ち上がります。藍子さんの両手を縛っている紐が、棒を滑り、上に移動していきます。

部屋の中にいるというのに、藍子さんがパンプスを履いていることに僕は気づきます。ハイヒールスタイルの、赤い派手なパンプスです。

「時間をかけなきゃ・・・・・、まずは服の上からゆっくりと・・・・・、ですよね?」
あの屋外の洗濯場で藍子さんに教えられた言葉を口にしながら、僕は藍子さんの胸元に手を伸ばしていきます。焦らすように、とてもゆっくりと。



(↑クリック、凄く嬉しいです。次回更新、28日金曜日です)
Comment
No title
v-91ドキドキします。
興奮度もさらにアップしてきました。
焦らして、お次を早く話してくださいな。
お願いします。

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