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欲情のトライアングル(完)

2011 12 12
観客席は立錐の余地もない。ぎっしりとスタンドを埋めた大観衆が、グラウンドの中にいる選手達に歓声を浴びせかけている。

遂に1部リーグに昇格という快挙を成し遂げたのだ。6月初旬ながら、上空には夏と形容できるような青くまぶしい空間があり、選手達をたたえている。

「おめでとう!」

「よくやったぞ!」

入れ替え戦に見事に勝利した選手達に、観客席から紙テープが乱舞し、次々に声がかけられる。全ての視線がグラウンド内に注がれ、誰も「彼」に気づくことなどない。

通路に続く階段の陰に隠れるように、彼は立っている。周囲の視線を避けながら、彼は気づく。補欠の選手達が応援している一角に、懐かしい面々が数多くいることに。

しかし、彼は沈黙を貫いたままで、誰かに声をかけるようなことはしない。彼らもまた、彼がそこにいることに気づく様子はない。

「それでは、見事にチームを1部リーグ昇格に導いた原島監督に来ていただきました!」

グラウンドの中央に設けられた壇上に、地元TV局のアナウンサーが立ち、マイクを通じて叫ぶ。その傍らにいるユニフォーム姿の男の姿を、スタンドにいる彼は熱く見つめる。

「やりましたね、原島監督。チームを率いて3年目、遂に1部リーグに上り詰めました。いかがですか今のお気持ちは?」

歓声が一層高まり、場内全体の興奮が一気に上昇していく。彼は、スタンドの片隅から、マイクを向けられた監督の姿を見つめ続ける。クールで、ハンサムなその風貌に変わりはない。

半年振りに見る監督の姿が、スタンドに密かにたたずむ彼の瞳を熱く濡らしていく。

俺はこの場所に帰りたがっているのか・・・・・・・・・・・

あの12月の夜を最後に、彼はこの場所から突然姿を消した。大学を中退し、故郷に戻るという決断を下した理由につき、彼が誰かに説明したことはまだ一度もない。

自らの感情に気づかぬ振りをし、彼は監督の姿に視線を注ぎ続ける。監督へのインタビューはしばらく続き、グラウンド内にいる記者連中が何枚もの写真を撮影していく。

「これほど急速にチームを育て上げたのは、原島監督の手腕に拠るところが大きいと、もっぱらの評判です。これを機に有力な社会人チームの監督に就任するとの噂もありますが?」

「いえ、私はプレーヤーとしての経験しかなかった自分を監督に抜擢してくれたこの大学に、深く感謝しているんです。このチームを見捨てるつもりは全くありません」

原島監督の力強い言葉に、観衆のボルテージは最高潮に達する。溢れ出した滴を素早く拭った彼は、アナウンサーが監督に差し向けた最後の言葉に耳を奪われる。

「監督、最後になって恐縮ですが、実はプライベートでもおめでたいことが?」
「いや、それはいいじゃないですか・・・・・・・、いや、参ったな・・・・・・・・・・」

珍しく照れた様子の監督に、観客席から冷やかしと祝福の言葉が投げられる。急激な緊張と鼓動の昂ぶりを感じながら、彼は時間が停止したかのような衝撃を受ける。

「皆さんも既にご存知かと思いますが、実は監督、えっと確か9月ですか、予定は?」
「え、ええ、まあ・・・・・・・・・」
「ご結婚されて15年以上。いやあ、待ちに待ったんじゃないですか?・・・・・・」

気づいたときには、彼は足早に階段を駆け下り、場外に向かう廊下を走り出していた。彼は感じていた。聞いてはいけないことを俺は耳にしたのだと。

様々な憶測と疑惑、そして確信が彼の胸中を一気に駆け巡る。通路にいる何人もの人間を押しのけながら、彼はその場から逃げ去ろうとする。

暗がりを走りぬけ、場外の道路と繋がる階段にたどり着く。息を荒げたまま、彼は何か予感に包まれたようにそこに立ち止まる。

外に広がる風景を見つめ、一歩足を踏み出し、彼は階段を下り始めようとする。その瞬間、外に出ることを許さないかのように、誰かが彼の手首を掴む。

沈黙の刹那が訪れる。確かに時間が停止したことを感じた彼の耳に、その声が刺さる。

「宮崎君・・・・・・・、やっと捕まえたわ・・・・・・・・」

彼は後方を振り返ることができなかった。その声は、彼の背中に冷たいものを走らせた。

同時にそれは、濃厚な興奮を彼に与えてもいた。半年振りに味わう、あの汗ばむほどの肉欲だ・・・・・・。

ハアハアという息遣い。途切れる悶え声。官能的に何度も震えたヴァギナ。封印したはずの記憶が、激流となって彼を飲み込んでいく。

下腹部の硬直を予感しながら、彼は片手をそっと後方に伸ばす。絡んでくる指先から伝わる彼女の情念を、彼は確かに感じ取る。

トライアングルが再び妖しい音を奏でようとしている。






(↑最後までご愛読、ありがとうございました。クリック、凄く嬉しいです)
Comment
No title
是非に、いつか続きが更新される事を希望します。
のりのり先生の描く主人公の人妻は、私の理想と実在する人とリンクして実に興味深く又すごく興奮してしまいました。これからも素敵な作品をお願いします。
有り難うございました
お疲れ様でした。

もっと続けて頂きたかったと思います。
これも名作だと思います。
次の作品も期待しています。
おつかれ様でした。
毎回楽しみに読ませてもらっています。のりのりさんの文章表現はいつも素晴らしいと感じます。センスの良さでしょうね^^今後の活躍を期待しています。頑張ってください。それと、身体に気を付けて自分なりのペースで宜しくお願いします。
お疲れ様
藍子のツンツンした性格は良かったですね。今までにないキャラだし
ただちょっと童貞が頑張りすぎたかな
貞淑と背徳の魔術師、作者様に感謝!
続編期待
これは名作です。
藍子のキャラもいいです。

是非、続編をお願いしたいです。

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