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終着駅(34)

2012 07 25
いつまでこれを続けるというのか。焦らされることへの憎悪と戸惑いが、京子の胸の奥に湧き上がる。抵抗の言葉を再び発しようとしたとき、真鍋の指先が京子の上半身からようやく離れる。

視線をわずかにあげ、京子は安堵するように息を静かに吐き出す。しかし、それをあざ笑うかのように、男の手が再び人妻の脇腹に伸びてくる。

ふざけないでっ・・・・・・・・・・

男に再び触れられた瞬間、京子は肢体をほんの僅かに震わせてしまう。自らの肉体のその反応が男に察知されたことを想像し、京子は切迫した気分を覚えてしまう。

真鍋に言葉を発する様子はない。しかし、その指先には明らかに先刻までとは別の意志がこめられている。腰のくびれから更に下方に降り、男は人妻のヒップを撫で始める。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あのバーでは途中で邪魔が入りましたからなあ」

男のつぶやきが、中倉真哉への憎悪を意味していることを京子は感じる。座布団に座った人妻のヒップをたっぷり撫で、やがて男の手が太腿に伸びていく。

「下半身も魅力的ですな、奥さん」
掘り炬燵となった空間に、京子はその美脚を伸ばしている。男は人妻の左腿を優しく愛撫しながら、自らの足を人妻のそれに唐突に絡めていく。

「いやっ・・・・・・・・・・・・・・」
無言を貫いていた京子が、思わず抵抗の科白を口にする。おかしそうに人妻を見つめながら、男は巧みにその足を運動させ、人妻の両脛の間にするりと割り込ませる。

いったん入り込んだ男の足は、決して退行しない。閉ざされていた人妻の両膝に、空間が生まれる。男の手がそこに素早く侵入し、スカートに隠された人妻の内腿に愛撫を与え始める。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
隣に座った男を、京子は初めて見つめる。きつい視線をぶつければぶつけるほど、男の表情に試すような余裕が漂ってくる。真鍋の左手がグラスをテーブルに置く。

京子の形のいい顎先を、男の左手が大胆に撫でる。右手で内腿をいじめ続けながら、左手では人妻の頬、顎、そして首筋の辺りを撫でていく。

妙な感覚をはらんだ震えが京子の全身を走り抜ける。男はもはや容赦しようともしない。人妻の顎を下から掴むように固定すると、唐突に唇を重ねてくる。

「いやですっ・・・・・・・・・・・・・・・・」
首を振って、京子は懸命に逃げようとする。男の酒臭い汚れた口が、いやらしく密着してくる。きつく唇を閉ざしたまま、京子は両手を伸ばして激しく男の胸を突く。

その強い動きに、真鍋は思わず後方に倒れこむような格好になる。僅かに乱れた服装を整えながら、京子は自分が許されない抵抗を行使してしまったことを自覚する。

「奥さん、いいんですか、そんなことして」
「・・・・・・・・・・・・・」
「久丘と別れたいんだろう? ええっ?」

あのジャズバーで強引に体を奪おうとしたときと同じように、真鍋が乱暴な口調でその本性の一端を露呈する。京子は男の質問から逃げるように、その視線を逸らす。

「どうなんだ、奥さん。一生あいつと夫婦のままでいいのかい?」
「そ、それは・・・・・・・・・・・・・・」

「早く自由の身になって新しい人生を始めたいんでしょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「だったら今夜は私の言うことを聞いてもらわないと。そう約束したじゃないですか、奥さん」
人妻の従順な態度に満足するように、男の口調が再び落ち着いたものに転化する。京子は自らに言い聞かせるように、男に答えを差し出す。

「わかりました・・・・・・・・、もう・・・・・・、一切抵抗はしませんから・・・・・・・・・・・・」
「本当ですね、奥さん」

「その代わり、主人とのことは、必ず約束してくださいますね・・・・・・・・・・・」
「私は最初からそのつもりですけどね。信じるかどうか、それは奥さん次第ですが」

京子は座ったまま、沈黙を守った。それが人妻の答えであることに、男が気づかぬはずもなかった。押し倒された体勢を整え、真鍋は気を取り直すようにグラスを手にする。

隷属を示すように、京子がそこに酒を注ぐ。男は一緒に飲むことを人妻に求める。指示されるがまま、京子は再びグラスを空にさせられる。

「いい気分になってきたでしょう、奥さん」
「・・・・・・・・・・・・・」
「キスしてもらいましょうか」

男の要求から、もう逃げることはできない。緊張をわずかに感じさせる雰囲気で、京子はただそこに座り続ける。観念した様子で、人妻が男の方に顔を向ける。

真鍋の口が再び重ねってくる。そこから逃げようともせず、京子はわずかに顔をあげ、それを受け止める。真鍋の手がグラスを置き、人妻の上半身を本格的に抱き寄せる。

「奥さん、唇を開けてくださいよ」
京子は閉じ続けていた唇を、遂にそっと開けた。真鍋の舌先が侵入してくるのを感じる。舌が触れ合った瞬間、京子は鼓動が一気に高まるような気分に襲われる。

耐えるだけだ。嫌悪するこの男の仕打ちに、私はただ今夜、耐えるだけなのだ。それ以外に、何の感情も抱く必要はない。京子は、そう決意する。

口づけはなかなか終わることはなかった。何度も離された人妻の唇を、男は執拗に求めてくる。確かに開かれた唇が重なり合い、二人の舌先が繰り返し触れ合う。

強く求めあうようなキスではない。舌の先端が触れ合う程度だけを許し、人妻は巧みに口内にそれを隠す。だが、息苦しさから、時折どうしてもそれを前方に押し出さざるを得ない。

その機会を男が逃すことはなかった。自分から舌を伸ばしてくるかのような人妻に、男は興奮を隠そうともせず、たっぷりと唇を吸い、唾液を与える。瞳を閉じる京子の喉奥から、かすかな息が漏れる。

「ううんっ・・・・・・・・・・・・・」
背中をはい回る男の手を感じる。掘り炬燵の空間で、男の足が執拗に両脚の隙間を責めてくる。次第に京子は、舌先を吸われている時間が長くなってきたことを感じる。

両脚の隙間を更に広げることを求められる。それを拒むことに神経を集中すれば、舌先に隙が生じ、音が出るほどに強く吸われてしまう。

真哉との一夜の記憶が、京子の肉体に蘇ってくる。あの夜以降、乾ききった自分自身の体が、何かを欲しがるように意識を揺らし始めていることを京子は感じる。

こんな男に何かされたところで、感情が乱されるわけがない・・・・・・・・

そう言い聞かせ、京子は男の行為に耐え続ける。だが、真鍋の腕は更に強く京子を抱き寄せてくる。タイトスカートを大胆にまくられ、白くまぶしい内腿がたっぷり愛撫され始める。

「いい脚だ、奥さん」
その肉付きを確認するような手つきで美脚を揉みしだきながら、男は濃厚な口づけを要求する。嫌がるように首を振る人妻の顔を、男が決して逃がそうとしない。

明らかに息が乱れ始めている。男の体を押し返そうとするが、先刻の宣言を意識し京子は抵抗をためらう。まるで合意をしたかのように自分がこの男と戯れていることを、京子は感じる。

「真鍋さん・・・・・・・・・・・・・、もう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうしましたか、奥さん」

「もう・・・・・・・・・・・・・、もうよしてくださいっ・・・・・・・・・・・・」
「抵抗しないんじゃないですか」

「い、いえ・・・・・・・・・・、ただ息苦しいだけです・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「では別のお楽しみをしましょうか、奥さん。今度は背中を向けて座ってもらえますか」

あっさりと要求を呑んだ男の態度に安堵しながらも、人妻はこれからの展開を予想することができなかった。だが、別のお楽しみという言葉の意味を、京子はすぐに知らされることになる。


(↑次回更新27日金曜日です。クリック、凄く嬉しいです)
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