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闇の奥からの誘惑(2)

2013 08 15
高速道路を後にし、私は一般道へと車を進ませた。私たちが目的地とした場所は、栃木のかなり山間部に踏み入ったエリアに位置するオートキャンプ場だった。

そこを候補地として勧めてくれたのは妻だった。初心者でもある我々にとって好都合な環境に整備されていること、そして川遊びができることもその理由の一つだった。

「翔太はきっと喜ぶわよ。川で遊べるなんて聞いたら」
「そうだろうな。俺だって一度も川で泳いだことなんてないさ」
「あら、そうなの?」

こんな些細な会話からも、私は妻と自分との志向の違い、それに妻の過去について知らぬことが多く残されていることを感じたものだった。

オートキャンプ場であるため、テントを設置する場所にそのまま車でアプローチできるらしい。素人の私にも、それは随分便利な環境のように思えた。

過去の人生において、林間学校などの行事を除いて、キャンプになど行ったこともない私にとって、テントをはじめ必要な道具を買い揃えることも結構な作業であった。

「キャンプに行くとなると、テントとか必要だよなあ」
「そうねえ。コテージやバンガローに泊まるっていうのもいいけど、それじゃあ翔太が喜ぶかなあ」

「おいおい、それ、テント買えってことだろう?」
「ふふっ、まあそうなんだけどね」

キャンプ地の選定、そしていくつかの道具の購入。あれこれと計画をし、そして買い物を進める中で、妻はいつも以上に楽しげで、活発な姿を見せた。

もっぱらインドア派で、不器用でもある私に気を遣ってか、自分からそうした経験を私に話すことずっと避けてきたような妻が、抑え込んでいた欲望を解き放とうとしているかのようだった。

「あっ、あそこにスーパーがあるよ!」
息子のその叫び声と同時に、ハンドルを握る私もまた、前方に見える看板に気付く。

「この先もうお店がないかもしれないから、ここで買い物していけばいいんじゃないかしら」
妻のその言葉に同意した私は、そこで夕食の材料を調達することに決めた。

いかにも地方色の強いスーパーではあるが、なかなかに広く、冷房も十分すぎるほどに効いた快適な空間であった。走り回る息子の姿を追いながら、我々は食材を選んだ。

やはり夏休みシーズンということもあってか、アウトドアでBBQを楽しむような客を狙ったコーナーが充実している。妻と相談しながら、肉、野菜を次々にかごに放り込む。

「ねえ、パパ、ジュースも買ってよね!」
「じゃあ翔太、好きなの選んでいいぞ、今日は」

ソフトドリンクを選ぶ息子を見つめながら、私はちらりと妻の姿に視線を投げる。私はアルコールが一切飲めない。一方で、妻は決して嫌いなほうではないはずだ。

ないはずだ、という表現には、少し理由がある。交際時から結婚当初の頃は、麻由美は私に構うことなく、自分だけよくアルコールを口にしていた。主にビールが好きなようだった。

だが妊娠発覚と同時に止めたその習慣は、結局出産後これまで一度も再開されていない。私が何度かそれとなく誘ってみたこともあるが、妻は遠慮するようにもう何年もそれを避けてきた。

「麻由美、今日は久しぶりにビールでも飲めば?」
よく冷えた缶ビールが並ぶケースの前で、私は今日もまた妻にそう聞いてみる。しばらく迷うような素振りを見せた後、妻はいつものように答えた。

「いいわ。今日もあなたと同じコーラにするわ」
「でも、キャンプで飲むビールなんて、酒が飲めない俺でもうまそうに思えるけどな」
「うーん、そうねえ。でももうそんな若くないし。お酒はもういいわよ、私は」

本音をごまかすように、妻が笑いながらそう答える。謙遜するようなその言葉とは裏腹に、36歳の妻の外見は、決して若さと無縁のものではない。

勿論、20代の頃の無垢な雰囲気はそこにはもはや漂っていない。しかし、それを遥かに上回るかのような、大人の女性としての魅力が、そこには醸し出されているように感じられた。

出産を経たせいかもしれないし、30代後半になれば、どんな女性にもそんな色香が備わってくるのかもしれない。それは無防備な若さとある種の経験を予想させる妖しさとが混在した、どこかなまめかしさすら感じさせるような雰囲気だった。

長身の両親の遺伝子が影響したのだろうか、妻の身長は165センチと高いほうである。過去はやせすぎとも思えるほどの体型だったが、ここ数年でそこにも微妙な変化が訪れている。

結婚当初とは明らかに異なるスタイルを示し始めた妻。30代後半の熟れた女性の魅力。その一つの証左であるかのように、妻の肉体は明らかにその曲線が明確になりつつあった。

身長と体重で判定するならば、まだやせている部類に属するのだろう。だが、夫の私にも、その変化は顕著に思えた。腰からヒップの辺りの丸みは、結婚当時の妻は決して備えてはいないものだった。

それは胸元にも当てはまる。豊かなサイズとは言えないまでも、スリムな体型と肢体全体に色濃く漂い始めた色香が手伝い、以前にも増してその丘陵は私を刺激するようになっていた。

「これぐらいでいいかしらね。翔太、ほらママたち先に行っちゃうわよ!」
「待ってよ、ママ! 今、ラムネも買ってるんだから!」

慌てて走ってきた息子と一緒に、私たちはレジの列に並ぶ。そろそろ正午になろうとしている。地元客、観光客双方が2台のレジに列を作っていた。

皆、この暑さに辟易としているようであったが、どこか楽しげでもあった。見知らぬ人同士でもつい、会話をしてしまうような、そんな平和な空気がそこにある。

「おや、坊やもキャンプかい?」
我々のすぐ後ろに並んでいた男性客からそう声をかけられた翔太が、内弁慶を露呈するように、返事もできないまま麻由美の背後に隠れてしまう。

「ええ、そうなんです。凄く暑そうで大変そうなんですけど」
「少し山に入るだけでかなり温度は下がりますよ。それに夜はもっと、ね」

妻とそう話す男性もまた、どうやらキャンプに行くような雰囲気だった。よく日焼けしたたくましげな外見が、私たちとは違ってアウトドアに精通していることを物語っているようだ。

彼に買い物の中身をチェックされているような気がして、私はかすかな劣等感さえ覚えてしまう。そんな私の気まずさに察知するかのように、彼はそれ以上会話をしようとはしなかった。

精算が終わり、食材を先に詰め終わった彼が軽くお辞儀をして先に店を後にする。よく観察すると、周囲には他にもキャンプに行くような客が複数いた。

「みんなキャンプに行くんだなあ」
「そうね、この先には私たちが行く場所以外にもいくつかキャンプ場があるみたいだから」

「果たしてちゃんとテントが造れるかどうか・・・・」
「やだ、大丈夫よ。何とかなるわ」

店内から一歩足を踏み出せば、更に厳しさを増した暑さに一気に包まれる。耳慣れないセミの声が、私たちに旅先にいることを楽しげに教えてくれる。

「さあ、行きましょう」
私とさして変わらぬ背の高さの妻が、先に立って歩いていく。デニムがよく似合う、長く伸びた脚は、背後から見つめてもどこか私の本能を惑わすものがあった。

食材で満載となったレジ袋を片手に集め、私は妻の横に立ち、さりげなく手をつなぐことを求める。少し驚いたような色を漂わせながらも、妻は私の手から逃げようとはしない。

しかし、妻がその手に特別な感情を伝えようとすることはない。結婚後しばらく経過した頃のある出来事をきっかけに、私に対する妻のそんな態度はもう6年近く続いている。

熟れた妻の肉体から、もう私はそれだけの期間、距離を置いているのだ・・・・・・。


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Comment
珍しく思う
栃木県。
具体的な県名をあまり書かれないですよね。新鮮ですよ。


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