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闇の奥からの誘惑(13)

2013 09 13
自分がいったいどこにいるのか、その認識をすぐ取り戻すことはできなかった。しばらく目を覚ましたまま、私はそこでただ横になり続けた。

暗闇に包まれた空間。背中の下の寝袋、シートから伝わってくる確かな土の感触。そして、周囲をいまや完全に支配しようとしている虫たちの声。

都会を遠く離れたキャンプ場にいる自分を思い出し、私は無意識のうちに右側に腕を伸ばした。すぐ届く距離にいるはずの妻の肢体は、しかし、そこにはなかった。

熟睡した感があるが、時間の感覚は明確ではなかった。一方で、意識は妙に覚醒してもいる。腕時計を点灯させ、私は時間を確認する。

数字は午前1時5分を示している。眠りに就く前、いったい自分が何を目撃し、何を与えられたのか。依然横になったまま、私は自らの記憶を順に取り戻そうとした。

藤原と名乗る男との出会い、そしてその男が妻と過ごしたひととき。更に、このテントに戻ってきた妻が自分自身に、そして夫である私に与えた行為。

それは夢のようでもあり、くっきりと脳裏に刻み込まれた鮮明な映像でもあった。眠りに陥る直前、私は妻の右手によって頂点に導かれたことを思い出す。

あれは何時頃のことだったのだろうか。恐らく午前零時前後だったはずだ。それであれば、私はわずか1時間程度しか眠っていないことになる。

熟睡と言えるほどの感覚に包まれているのは、久々に妻とのそのような行為で満たされた欲情のせいなのかもしれない。私はこの手で触れた妻の肌の感触を改めて想起した。

大量の体液を妻の指先に放出したまま、私は眠りに陥ったはずだ。だが、今の自分は下着そしてパジャマ代わりのスエットをきちんと身につけている。

妻がその処理をしてくれたのだろう。それを想像しながら、私は妻との再会を強く望んだ。睡魔に妨害された自分自身の真の望みを、今度こそ果たすのだ。

そこには別の強い意志も存在していた。夫に対する妻の貞淑な感情を、私は再度検証したかった。スペルマを解き放つ直前の記憶が、私を乱すように鮮明に蘇ってくる。

あのとき、夫のペニスを刺激しながら、妻は自分自身の手を自らの太腿奥に伸ばしていた。そこに這わせようとした私の手を拒絶し、自らの指先で己の秘所をいじめていたのだ。

それは、夫ではなく、別の誰かを想像しているような風に見えた。だからこそ、私はこのテントで今度こそ妻の肉体を抱き、二人の微妙な距離を完全に解消したいと感じていた。

妻はトイレにでも行っているのだろう。そのときの私は、何の疑いを抱くこともなくそう考えていた。やがてここに戻ってくる妻のことを想像し、私は既に眠気からは完全に切り離されていた。

テント奥の翔太は相変わらず眠っている。自宅にいるときと全く同様に、この調子なら朝まで一度も目を覚ますことはないのだろう。寝袋からはみだした彼の体を、私は整えてやった。

周囲に存在するのは虫たちの奏でる音楽以外に何もないようだった。人が起きている気配はなく、雨が降るようなこともなさそうだ。

妻を待ちながら、私は再び先刻の記憶に浸っていた。小悪魔のような挑発的な視線で私を見つめながら、その右手を猥雑に上下させ、瞬く間に頂点にまで導いた妻の技巧。

かつて、妻が私にそんな姿を見せたことはなかった。妻がそんな一面を持ち合わせていることに、私は今さらながら感じていた。夫婦の間によこたわっている見えない深い溝の存在に。

妻は欲情を長期間密かに抑え続けてきたのだろうか。或いは30代半ばという年齢になって、かつて持ち合わせていなかった要求を、その肉体が抱き始めたのだろうか。

そんな妻を、このキャンプ場の何かが刺激したのだ。それは、藤原と名乗るあの男の存在であり、彼と一緒に飲んだ久々のアルコールであることを、私は確信していた。

長期間飲み物を絶たれた人間に関する逸話のことを、私はふと思い出した。それはこんな話だ。飲み物が全く与えられないのであれば、人はある程度我慢を継続できる。

しかし、それを手に入れる可能性を目の前で示されたり、或いは一口でもそれを味わったりした場合には、それまで気付かなった自らの感情に初めて気付く。自分がどれだけそれを欲していたか、いったんそれに気付いてしまえば最後、もはや我慢することなどできないのだ。

ぼんやりとそんなことを考えながら、私は無意識のうちに鼓動を高めていた。今夜の妻は、まさに、長期間禁断されてきた誘惑の一端を味わったのではないのだろうか。

藤原のたくましく、男性的な肉体。いったんその存在を感じてしまえば、もはや我慢することなどできやしない。それを強く要求する肉体の声に背く理性を、妻は既に捨て去ったのだ。

トイレになんか行ったんじゃない・・・・・・・・・・

何かを思い出したように、私は素早く身を起こし、テントの外に飛び出した。寝静まったテント群が星空の下に広がっているが、そこには妻は勿論、人の気配は一切ない。

空気がやや冷たくなったことを感じながら、私はその場から小走りで動き出した。炊事場の近くにあるトイレ、その周辺に間もなく到達したが、やはり人の気配はないようだ。

そこにあるトイレ棟は清潔なもので、男性、女性としっかり区分けされている。さすがに女性トイレに侵入することはできない。しばらくたたずんだ後、私は思い切って声を発した。

「麻由美、いるのか?」
静寂の中、自らの声が想像以上に大きく響いたことに驚きながら、私は反応を待った。だが、予想通り、そこから返事が戻ってくることはなかった。

もはや、私が向かうべき場所は一か所しか残っていない。私は、昨夜自分が歩いた記憶を思い起こしながら、再びその歩を進め始めた。

何区画かのテント設営エリアを通り過ぎ、やがて簡易シャワー棟の場所にたどり着く。そこにもやはり、人の気配などなかった。

この奥のはずだ・・・・・・・・・

テント場の中心からどんどん遠ざかるように、私は森の奥に続く細い道を歩んでいった。自分がしている行為に対し、どこからか疑いの声が届くのを私は感じる。

お前は何をやってるんだ・・・・・・、奥さんがこんな場所に来るはずはないだろう・・・・・・・

非難するようなそんな声を、しかし、私はためらうことなく無視した。これが私の誤解で、妻は既に私たちのテントに戻っているのであっても、それはそれで構わない。

何かに憑かれたように、私はただ前方だけを見つめ、歩き続けた。はっきりと覚えている太い木の幹が、やがて暗闇の中にぼんやりと浮かび始めた。

あの木陰から、藤原と談笑する妻の姿を私は覗き見していたのだ。急に自重するような気分に包まれながら、私は速度を緩める。だが、前進を止めることなどできなかった。

物音を立てることなく、その大木にたどり着く。しばらくそこで身を潜め、藤原のテントがある場所の辺りの様子を観察する。

そこに灯りはない。燃え盛っていた炭の火は、既に消されているようだった。その闇の光景が、私には少し意外だった。

そこに妻がいて、数時間前と同じように藤原とビールを飲んで談笑していることを、私は想像していたのだ。だが、現実はそうではなかった。

人の気配は感じられない。私は身をかがめながら、少しずつ藤原のテントに近づいて行った。一瞬何かを感じ、背後を振り返るが、そこには勿論誰もいない。

数メートルの場所にまで接近した私は、テントの向こう側に彼のバイクが置かれていることを確認する。それは先刻あったのと同じ場所に置かれていた。

ここでは藤原が眠っているだけか・・・・・・・・

そんな思いを抱き始めた時だった。かすかな音が耳に届いたのを、私は感じた。それは虫の音とは明らかに異質な類のものだった。

人の声だ・・・・・・・・・・・

テントの中からそれが漏れ聞こえてくることを確信しながら、私は地面を這うほどに身をかがめ、じわじわと更に距離を縮めていった。

その声の主が誰であるのか、私がそれに気づいたのは間もなくだった。

同時に私は視界に捉えていた。テントの入口付近に、その声の主のサンダルがきちんと揃えて置かれていることに・・・・・。


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Comment
No title
前置きが長いと思います。
ついに・・・
麻由美さん、一人で藤原のテントへ?それとも、何処かで落ち合って、一緒に?
No title
旦那さんの一人称なので、
旦那さんが見てない部分の
記述がないのが残念です。

旦那さんが居眠りしていた1時間くらいに
奥さんは堕ちたのでしょうけど、
そのプロセスは知り得ないのでしょうか?

ネトラレファンとしては肝心な部分かもしれません。
まだまだ…
初対面の男と簡単にやっちゃうってつまらないストーリーですよね。ちょっと捻って欲しいです。
No title
男目線からすると麻由美のオナニーを具体的に知りたかった。
応援しています。
ここまで、文句なしに面白いです。応援しています。
直ぐにやっちゃうのは若者向き
【9時47分】及び【10時25分】書き込みの方の趣向に共感・同感ですね

直ぐにやっちゃう内容は若者向きで・・・

ドキドキ感が減衰しますね~
         
むしろ
夫視点ってことで、堕ちる過程と理由がよくわからない(実はビッチだった?)っての、作者さんのお約束~様式美って気もするけど。
実用性()高ければ、それはそれでアリ。


No title
ちゃんとその辺は用意してあるストーリーだと期待しています。
更新が楽しみです。

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