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闇の奥からの誘惑(26)

2013 10 14
「パパ、早く行こうよ!」
何度も手を引く息子の勢いに任せ、私は引きずられるようにテントに戻った。

妻はまだ戻ってはこない。他人の視線を避けるように、私はテントの脇に身を隠し、再びその手紙を開く。「彼」が書き上げたその文章を、私は冒頭部分から、急ぎ、読み始めた。

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宮坂様

このような手紙で説明をさせていただくこと、お許しください。

今夜、奥様に起きたことに対する責任は、全て私にあります。許されるとは思っていませんが、私からできる限り正直にお話をさせていただきます。

私のテントの中にいた男は、菊原といいます。私の大学時代の同級生で、一緒のツーリングサークルで出会って以降、ずっと友人として付き合ってきました。

大学を卒業して互いに働き始めてもその付き合いは続き、私たちは時間を見つけては関東近辺を中心によくツーリングに出かけました。

彼はとてもさっぱりとした性格の持ち主で、誰からも好かれるタイプでした。友人も多くいましたが、特に私とは親友として互いの悩みを共有し、深い付き合いをしていました。

その関係が一変したのが4年前のことです。二人の間に、大きな出来事が発生しました。何かのいたずらとしか言いようのない、不幸な出来事でした。

5年前、菊原は結婚しました。別々の就職先に進んだ我々ですが、彼は同じ会社の中で奥様となる女性と出会いました。

千恵香さんという名前の奥様は、我々より3つ年下。大変美しい女性で、結婚前、紹介を受けた私から見ても、二人は理想的で似合いのカップルといえました。

そう、菊原は結婚していました。彼の妻、千恵香さんの命を奪ったのが私です・・・・。

二人の結婚から1年ほど経過した頃、ある週末に千恵香さんから私宛に連絡がありました。それは、一日でいいから、一緒にツーリングに行きたい、という申し出でした。

夫である菊原には内緒の連絡でした。その時、彼は半月程度の海外出張のため不在でした。それで時間をもてあましたのか、千恵香さんが彼に内緒で私に連絡してきたのです。

私は迷いました。知らない仲ではありませんが、親友の妻です。その親友に内緒で遊びに出かけたりしていいものかどうか。ただ、千恵香さんの連絡はどこか真剣なものでした。

結局、私は彼女の要求を受け入れ、日帰りで群馬方面に彼女を乗せてツーリングに行くことにしました。菊原には悪いと思いながらも、一日くらいいいだろうという安易な考えもありました。

当時、交際相手もいなかった私には、久々に楽しみな外出となりました。澄み渡る秋空の下、我々は予定通りのコースでツーリングを楽しみ、そして午後遅く、帰路に就きました。

しかし、私たちがまっすぐに帰宅することはありませんでした。それを誘ってきたのは千恵香さんのほうであり、私もまた、強く拒む意志をもちあわせてはいませんでした。

友人の妻に対し、私はどこかで好意を抱き、その肉体を激しく欲していたのです。私たちは通りすがりで見つけたラブホテルに入り、激しく互いの体を求めあいました。

言葉を交わすことなく、私たちは獣のように情熱的に愛し合いました。親友の妻の肉体を私は濃厚に濡らし、深い快感に悦ぶ彼女の声を深く記憶に刻み込みました。

何度もの行為が終わった後、既に陽が沈んだ山道を、私たちはバイクで走り始めました。そして、高速に合流しようという直前、幹線道路であの事故に巻き込まれたのです。

私の運転に落ち度はなく、対向車線に突っ込んできたワゴン車が一方的に責められるべき事故でした。その時の記憶は、私には今もいっさい失われています。

私が覚えているのは、事故直前、私の背中にぴたりと密着する千恵香さんの感触だけでした。

意識が戻ったとき、私は病室にいました。そして、同乗していた千恵香さんが亡くなったことを知らされました。道路に投げ出されたとき、運悪く路肩の障害物に頭部をぶつけてしまったのです。

やがて、菊原が帰国しました。彼を前に、私は弁解すべき言葉がありませんでした。ただ聞かれるまま、私は全て彼に話しました。事故の直前、ホテルで愛し合ったことも含めて。

それから、彼の性格が一変しました。傷が癒えた私に対し、彼は屈折した要求を繰り返すようになりました。誰でもいい。人妻を遊びに誘うんだ。彼は私にそう求め始めました。

僅かでも他の男と遊ぼうとする人妻に、彼は激しい憎悪を抱くようになりました。それは私自身への憎悪を上回るほどの、濃厚なものでもありました。

夏になると、毎週どこかのキャンプ場に出没し、私たちはそんな行為を繰り返しました。勿論、うまくいかないことのほうが圧倒的に多いですが、時には彼の思惑通りにもなりました。

彼は私をとことんまで追い詰め、逃がそうとはしませんでした。そんな私の巧妙な手口に騙され、罠にはまった奥様達に対し、彼は酷い態度で接し、陵辱めいた罰を与えようとしました。

私にそれを止める権利はありませんでした。

私との週末の密会を望んだ自分の妻、千恵香さんに対する怒りが彼をそう狂わせたのか、それは私にはわかりません。ただ、彼が誘いに乗ってくる人妻を皆、酷く憎んでいたことは事実です。

そして今夜、彼が選んだのが、宮坂様の奥様だったのです。

彼がテントで密かに待っていることを、私は奥様に事前に説明しませんでした。ただ、私はこう言ったのです。お願いしたいことがあるので、後からまた来てもらえませんか、と。

まさか、奥様にいらしていただけるとは思っていませんでした。それは、菊原も同じだったかと思います。彼の奥様に対する態度は、明らかにいつもとは違っていました。

双眼鏡で奥様に目を付けたときから、彼は妙に落ち着かない素振りを見せていました。それはテントの中で二人きりになったときも同じだったはずです。

二人が今、何をしているのか、私にはわかりません。宮坂様と一緒にテントを去ってから、私は一度もあの場所には戻っていません。それを目撃したくもありません。

ただ、はっきり言えることがあります。菊原は奥様のことを一目で好きになってしまったようです。奥様の外見が、どこか千恵香さんに似ていることも、理由の一つかもしれません。

自らの犯した過ちを償うべく、私はこれまで多くの間違った行為を菊原に言われるままに行ってきました。でも、今夜でそれを止めようと思います。

奥様が、私にそれを教えてくれたような気がするのです。

そして菊原もまた、今夜で一区切りつけることを理解してくれるはずです。

彼は悪いことができる人間ではありません。千恵香さんが亡くなった後の彼の振る舞いは、随分無理をしている部分がありました。

その証拠に、彼は今夜、奥様に致命的な傷を負わせることはないはずです。彼は、そんなことができる人間ではないのです。

我々が奥様に対してしてしまったこと、改めてお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。どうか、奥様は責めないでいただきたい。勝手ですが、お願いいたします。

菊原だけではありません。私もまた、奥様のことにお会いした瞬間、好意を抱いてしまったようです。しかし、もう二度とお目にかかることはないでしょう。

そろそろ夜が明けそうです。お気をつけてご自宅にお戻りください。

そして、末永くお幸せにお過ごしください。

藤原

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「ただいま。今、戻ったわよ」
濡れた髪をタオルで乾かしながら、笑みを浮かべた妻がそこにいる。

「ママ、どこに行ってたんだよ!」
飛びつく翔太を、妻がきつく抱きしめる。その表情に、悔恨の色が僅かに浮かんだように見える。

「よし、じゃあ頑張って朝ごはんの準備でもするか!」
陽気にそう叫んだ私のことを、妻が穏やかな様子で見つめてくる。全て受け入れることを示すように、私は小さく頷いて応える。

藤原も、そして菊原というあの男でさえも、もはや我々夫婦の間に入り込むことはできない。


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Comment
麻由美さんm(_ _)m
生贄になった奥様への罰はまだ終わってませんよね。
帰路に就くご家族の車を尾行し住所を突き止めちゃう。菊原の邪悪さを期待してます。
No title
ストーリーがファンタジーすぎる
No title
ここで「完」ではないということは、
まだまだあるのですね。

いつになく、負の評価が多かったような
前半、それを一気に黙らせるような
展開を期待します。

麻由美に更に濃厚な罰を与えるのは
誰なのでしょう・・・

まさか次で「完」だったら・・・

次回を待ちます!
このままエンドロールでも不思議じゃないです。それとも日常生活に戻る第二幕が始まるのかな。
No title
「完」だと思います。

お疲れさまでした。
菊原の妻と藤原の関係、菊原が根っからの悪党でないのも分かりました。 が、
麻由美への罰は?
好きになったのなら、体も心も征服したいのでは? 何か中途半端なので、もっと徹底的に麻由美をいじめて欲しいな~

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