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闇の奥からの誘惑(31)

2013 11 05
すぐに動くことができない。犯罪行為を目撃されたかのように、私はドアの前で立ち尽くしたまま、振り返ることもできなかった。

「たった今、そこから出てきた私が言うんだから、間違いないわよ」
「・・・・・・・・」
「ご自宅なんでしょう? 遠慮なく入ればいいわ」

女性の声だった。だが、妻のものではない。この狭い庭の闇のどこかに、彼女は密かに隠れているようだった。私がここに来ることを予想していたかのように・・・・・。

庭の隅に小さなヤマボウシの木が植えられている。暗い闇に溶け込むように、女はその木の下にしゃがんでいた。彼女が黒いバイクスーツを着ていることに、私が驚くことはなかった。

「いったい・・・・・、君は誰なんだ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「彼の・・・・・・、藤原の知り合いか?・・・・・・・・・・・・」

あの男がこの家にいることは間違いなかった。家の前で目撃したバイクを思い出し、私は彼女にそんな質問を投げた。闇の中だったが、彼女がかすかに笑ったことを私は感じた。

「そうね、藤原さんの知り合いっていうのは間違ってないわ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「今日は彼と一緒にここにお邪魔して、さっきまで食事をしてたのよ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「奥様がおひとりで寂しい思いをしてるっていうから・・・・・・・」
「どうやって知ったんだ、そんなこと・・・・・・・・・」

私が藤原に連絡することは、結局なかった。妻が彼に連絡をしたのだ。私はそう考えていたが、今、それも事実ではないような気分になっていた。

「どうだったかしらね・・・・・・・、私から連絡したのかしら・・・・・・・・・・」
「君から?」

「あのキャンプのときと同じように」
「・・・・・・・・・」

女の言っている意味が、私にはよくわからなかった。キャンプのときと同じ・・・・・・。あのキャンプを計画したのは、紛れもなく私たち家族のはずだ。

「覚えてる? あのキャンプに誰が行きたいって最初に言い出したのか」
「それは・・・・・・・・・・」

私は懸命に記憶を辿った。夏休みとして8月初旬に1週間の休みを確保したのは私だ。それから、妻と話し合ったのだ。どこかに旅行でも行こうか、と。

そうだ・・・・・・・・・。

「そういえば翔太がパパとキャンプに行きたいって言ってたわよ」

妻のセリフを私は鮮明に思い出した。さりげなく、妻はそんな風に切り出したのだ。妻のその提案がきっかけで私たち家族は初のキャンプに出掛けることを決めたのだった。

あのキャンプ場を探し出したのも妻だった。計画の全てを私は妻に任せていたのだ。その事実がこの女の示唆することとどう符合するのか、しかし、私にはまだわからなかった。

「あのキャンプに行きたいって言ったのは妻だ。キャンプ場を指定したのも・・・・・・・」
「そのはずよね。私が誘って、あのキャンプ場にしてってお願いしたんだから・・・・・・・・」

腰まで届くほどの長い髪の持ち主だった。スリムな肢体を包むバイクスーツの胸元が豊満な曲線を描いている。男を挑発するような刺激的な香水の匂いが私の鼻孔を刺す。

「彼が誰か奥様を探していたってのは知ってるでしょう」
「・・・・・・・・・・・」

「藤原さんのことよ。全部聞いたんでしょう、彼から?」
「確か、菊原という男の指示で・・・・・・・・」

「そう。菊原さんの奥様を寝取った罰よね。凄く綺麗な人だったから無理はないけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」

「いつもはキャンプ場で適当な奥様がいないか探すんだけど、なかなか現実には難しいから」
「・・・・・・・・・・・」

「だから私から奥様を誘ってみたのよ。キャンプに行かない、って」
「いったい、どうして妻のことを・・・・・・・・・」

私の疑問を遮るように、女は少しずつ私に接近してきた。鋭い瞳が闇の中でもはっきりとわかる。高速道路で目撃したあの女の視線と、それは同じに見えた。

「でも、まさかこんなことになるとは思わなかったわ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

「彼がどうしても奥様ともう一度会いたいってうるさいのよね・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

「菊原さんの亡くなった奥様と似ているからかもしれないけど・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

「だから、今夜も私が設定したの。彼に頼まれたから仕方なく・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

女の手が私の腕に伸びてくる。何度も振り払おうとするが、女は笑みを浮かべたまま、やめようともしない。私を抱き寄せるように、彼女は私の背中にそっと手の平を置く。

「どうするつもり、これから?」
「藤原は・・・・・・、ここにいるんだろう・・・・・・・・・・」

「そうね。もう2階にいると思うわよ。寝室は2階でしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・」

「中に入りたいって言うんなら、それでもいいけど・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

「でも、二人の邪魔をしたら許さないから」
女の言葉のトーンが豹変したことに、私は寒気を感じた。それを緩和させるように、女は私の耳元に口を近づけ、艶めいた声でささやきを続けてくる。

「あなたをここに近づけないっていうのが私の役割なの」
「・・・・・・・・・・・・・・」

「でも、見たいんでしょう、奥様が彼にされるところを?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

「どうなっても知らないわよ。彼、凄く上手なんだから」
そこまでささやきを終えると、彼女は私の戸惑いを探すようにしばらく視線を交錯させた。そして、唇をそっと重ね、熱く濡れた舌先を伸ばしてきた。

「おいっ・・・・・・・・・・・・」
私は逃げることができなかった。いや、どこかにそれを望んでいる私がいたのかもしれない。女に求められるまま、私は舌を絡め、そして彼女のヒップをスーツ越しに揉みしだいた。

「いいのよ、好きにして・・・・・・・・」
胸の弾力を伝えるように、彼女はきつく私を抱きしめてくる。息を乱すほどにキスを交わしながら、彼女の手が私の股間に伸び、そこの硬さをはっきりと確認する。

「私にされて興奮してるの?・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「それとも、彼にされる奥様を想像してこうなってるのかしら・・・・・・・・」
「いい加減にしてくれ!・・・・・・・・・」

正気を取り戻すように私は彼女を突き放した。なまめかしい肢体の曲線が、すぐ目の前にある。今すぐにでもそのバイクスーツを剝ぎとりたいという欲求が、下腹部を更に硬化させる。

「もしも二人に気付かれるようなことをしたら、このこと全部奥様に言うから・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「庭先ですれ違ったあなたに襲われそうになったって・・・・・・・・」
「ふざけるな・・・・・・・」

彼女は振り返り、足早にそこを立ち去ろうとする。その後ろ姿には、私が彼女との約束を守ることが最初から分かっているとでもいうような気配が存在していた。

「待ってくれ・・・・・・・・・」
私は思わずそう声をかけた。家の中に入ることをどこかで先延ばしにしたかったのか、或いは彼女との時間をもう少し過ごしたかっただけなのか、私にはよくわからなかった。

立ち止まった女は、再び振り返り、私のことを見つめた。細くしなやかに伸びる脚が、藤原の腰に巻き付き、激しく貫かれる姿を私は想像した。

「今夜、麻由美にはあなたを裏切るつもりなんかなかったのよ」
「・・・・・・・・・・」

「そういうことはあのキャンプ場で全部終わりにしたいって考えてたから、彼女」
「・・・・・・・・・・」

「でも藤原さんに迫られたら、どこまで我慢できるかわからないわよね」
最後の言葉を残し、門の向こう側に女が姿を消した。どこかに彼女自身のバイクが隠されているのかもしれない。だが、私にはそれはどうでもよかった。

彼女は最後に私に答えを教えてくれた。妻のことを、彼女は昔から知っているのだ・・・・・・・。妻のことを名前で呼んだ彼女の態度が、はっきりそう示していた。

シナリオの全てがわかったような気がした。だが、最終章はまだそこに記されてはいない。それは今、この家の中で始まろうとしているのだ。

彼女の言葉通り、ドアに鍵はかかってはいなかった。ためらうことなくそれを開け、音を立てることなく閉める。闇に包まれた自宅の空間に、そっと侵入を試みる。

照明の消されたリビングには誰もいない。暗闇の中、ダイニングテーブルの上に缶ビールが何本か並べられていることに私は気づく。


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Comment
藤原がいよいよ・・・
女性ライダーと麻由美さんは、ツーリング仲間?藤原との関係は?藤原がいよいよ本性を現してくる?
藤原と麻由美のいやらしいシーン、いっぱいお願いします。次回、楽しみにしてます。
わからん・・・
キャンプ場での藤原といい、この謎の女といい、
何故麻由美が犯されようとしているのを
無理やり容認させようとするのでしょう?

ていうか、この旦那、何素直に言う事
聞いてるんでしょうね?
何か意味があるのか、それともそれとも、話しの
設定の都合なのか・・・

いずれにしても回りくどさに、エロさが削がれて
しまうような気がします。

麻由美よりも、この謎の女のセックス描写に
期待してしまいます。
朝からビンビンになりそう。早く次の展開が読みたいです。
No title
ますます着地点が見えなくなりましたね…
No title
藤原に天罰を与えて、スッキリさせてください。 旦那は何を黙って見ているんだ。情けない。

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