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抵抗の果て(11)

2014 01 09
「本当に行くのかい?」
普段とは異なり、神妙な顔で宮地がそう声をかける。

春の到来はまだなお遠い、冬の夕刻である。今日、明日と休業日の足立理髪店に、客の姿はない。寒々とした店内には店主夫婦、そして隣家の家電ショップの主人がいるだけだった。

僅かに陽の明るさが残っている商店街には、歩行者の姿はほとんど見られない。店内にいる3人の口数も少ない。もはや引き返すことはできないという、重たい空気だけがそこにある。

「ご主人、あんただけが頼りだぜ」
「ええ、それは勿論・・・・・・」

「あの男が何をたくらんでいるかしらないが、どんなことがあっても奥さんは守らないと」
「わかってます」

正則はそう言いながらも、あの男の試みを自分が果たしてどれだけ抑制できるのか、自信はまるでなかった。妻自身が、夫の抵抗姿勢を許さないのでは、という想像が心から離れない。

「しかし、よくご主人の同行を認めたものだなあ、あいつも」
「何か魂胆があるのかもしれませんが・・・・・・・・・」

「ともかく、奥さん一人で送り出すことを考えれば、間違いなく安心だ」
「ええ・・・・・・・・・・」

二人の会話に反応することなく、江利子は硬い表情でソファに座っている。珍しくスカートを身に着けた人妻の、黒いストッキングに包まれた魅力的な両脚を、宮地がちらりと見る。

「奥さん、引け目を感じることはないんだ。嫌なことがあればちゃんと言うんだよ」
宮地のそんな言葉にも、江利子が反応することはなかった。白色のコートを既に羽織り、両手を膝の上に置き、姿勢よくそこに座っている。全身に緊張が溢れ出していた。

「妙な場所を指定してきたものだな、あいつも」
宮地が手にしたメモを見つめ、改めてつぶやく。正則は、体を硬くしている妻の姿に視線を投げ、そして、改めて彼女が自ら男に提案したという言葉を思い浮かべる。

一晩だけであれば、私を好きにしていただいて結構です・・・・・・・・・・・・

喉を切りつけた男に対する謝罪として、妻はその提案を口にした。そこに夫が同行することを条件としても、小野田は問題なくそれを受け入れた。

彼は、事前に場所を連絡してきた。それは、奥多摩の山間部の住所だった。調べてみると、貸し別荘がいくつか集まっているエリアのようだった。

間もなく小野田が手配した迎えの車が、ここにやってくるはずだ。足立正則、そして江利子の夫婦は、今、それを待っている。不安げな宮地と共に。

「こんな場所に行ったこともないが、雪が積もってるんじゃないのかね」
「その可能性はありますね・・・・・・・・・」

「暖房設備は大丈夫なんだろうなあ」
「それは当然だと思いますが・・・・・・・・・・・」

江利子の言葉、正則の同行、そして指定された場所。確定していることは、ただそれだけだ。いかようにも捉えられる江利子の言葉に対し、小野田からの要求はまだ何もない。

「好きにしてもいいったって、考え方次第で何とでも言えるからな」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ご主人、うまいこと言って、何とか逃げるんだぜ」

宮地のその言葉は、正則に逆にプレッシャーを与えるものだった。小野田が何を江利子に要求してくるのか、ここにいる皆が、恐らく同じ想像を抱いている。

「車が来たみたいです・・・・・・・・・・・」
唐突に、江利子がそう言った。店のすぐ前に、黒塗りのセダンが停車している。

「では宮地さん、行ってきます。妻を必ず守ってきますから」
「頼んだぞ、ご主人。俺も住所を知ってるから、何か異変があればすぐに駆けつける」

「携帯が繋がるかどうか不安ですが、一応持っていますので」
「わかった。奥さん、くれぐれも安易な行動に走るんじゃないぞ」

江利子がしかし、宮地の言葉に反応することは最後までなかった。完全に自らの世界に閉じこもり、何かに集中しているような気配は、車中でも変わることはない。

どれぐらいの時間がかかるのか、どんなルートで行くのか。正則にははっきりした予測がなかった。奥多摩というエリアは、ここからは明らかに遠方であった。

静かに走る車中で、夫婦間の会話はなかった。きつく閉ざされた妻の両膝に、両手が重ねられている。正則はそこに自らの手を置き、安堵を与えるように握りしめる。

やがて車は高速に入った。40代後半と思われる中肉中背の男が運転手だった。スーツをきちんと着こなす彼が、しかし、後部座席の夫婦に言葉をかけることは一切なかった。

冬の夜の闇が急速に深まっていく。走る抜ける車のヘッドライト、そして高速沿いのネオンが鮮やかに闇を切り刻む。2時間近くの走行を経て、車は高速を降り、山道を走り出す。

前後に車の姿はない。すれ違う車さえなかった。暗闇が支配する林が二人を囲み、路面を走るタイヤの音が緊張を高める。江利子は座ったまま、ややうつむいて目を閉じている。

眠っているわけではないことに、正則は気づいている。何か声をかけようにも、しかし、言葉が見つからない。小野田への提案内容が発覚した後、正則は妻とちゃんと話ができていない。

妻は本気であの言葉を口にしたのだろうか。あの男が、自分の体を狙っていることを知った上で、一晩なら好きにしていい、とそんな許諾の言葉を発したというのか。

明らかに許諾だ。妻は小野田に自分の体を許そうとしているのだ。客達から評判になるほどの自分の肉体を差し出して、今回のトラブルを抑えこもうとしているのだ。

「そろそろ着きますね」
運転手が、初めて言葉を口にした。闇に包まれた前方に、ログハウス風の建物があることに、正則は気づいた。階段であがった玄関付近に、煌々と灯りが照らされている。

階段の正面に、車がぴたりと静止した。雪は見当たらない。だが、外に出た瞬間、刺すような寒気が二人を襲った。ここからどうすべきか運転手に尋ねようとしたときだった。

「いらっしゃい。こんな遠方まで呼び出して申し訳なかったですね」
玄関先に、分厚いセーターを着た小野田が立っている。

「さあどうぞ。中にお入りください」
「小野田さん、その前に確認したい」

「何でしょう、ご主人?」
「この家にいるのは、小野田さん、あなただけですね?」

宮地の事前忠告の一つに、この質問があった。小野田が複数の男を用意しているかもしれない。明確な取り決めがないだけに、そこは真っ先に確認したいところだった。

「そんなことをご心配ですか。勿論私一人だけです」
「そうですか・・・・・・・・・・・・」
「せっかく奥様と一晩楽しめるんです。他の男にそんな体験をさせたくはないですからね」

男の言葉がぐさりと正則の心奥を貫く。楽しめるという言葉に、卑猥な気配が濃厚にあった。だが、小野田の首筋の白色のガーゼに気付いた正則は、自分が従うしかないことを知る。

促されるまま、二人はログハウスの中に入った。広いLDKの隅に、巨大な石油ストーブが置かれている。更に奥には浴室と和室があるようだ。

高い吹き抜けが特徴で、上部にはロフトスペースがある。緊張した様子で立ったままの江利子に、小野田が近づく。彼がワイングラスを持っていることに、正則は気づく。

「奥さん、まあ今夜で全て水に流しましょう」
「では、土地のことも・・・・・・・・・・・」
「それはまた別ですけどね。ただ、今夜の奥さんの態度次第では考えてやってもいい」

テーブルにグラスを置いた小野田が、遠慮ない様子で江利子のコートに手をかける。男の顔を見つめることなく、江利子は素直にコートを脱がされる。

黒色のタイトスカートに、リブ素材の白色の長袖Tシャツという姿は、その上に茶色のニットカーディガンを着ているとはいえ、人妻のボディラインを濃厚に強調していた。

慣れぬ服装に戸惑う平凡な主婦の気配がそこにあることが、男の欲情を更に刺激する。

「店の姿も魅力的だが、今夜もまた一段と綺麗ですね、奥さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お願いした通りの服装でいらしてくれて、私も嬉しいですよ」

お願いした通り? いったいどういうことなんだ・・・・・・。正則は思わず妻を見つめる。


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Comment
次回を
お待ちしています。
女のとる行動
うまいなぁ

女ってこうなんだよ・・・っていうのが、
隠し方とか、したたかさとか、
小野田とは既に打合せ済みなのでしょう、きっと。
このご主人では、お話にならない位
役に立たないんだろうね。

連載回数がまだまだ浅いです。
時間をかけて、じりじりと濃厚に犯されて行く
エロい江利子を期待します。

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