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抵抗の果て(29)

2014 02 18
薄い桃色の簡素なワンピースが、この店の制服だった。看護師をイメージさせるそのユニフォームは、この店がマッサージ店であることを証明しているようにも見える。

だが、通常のマッサージ店ではない。客であるその中年の男も勿論、それをわかった上でこの店に来ている。彼が足立江利子を指名するのは、今夜で3回目だった。

江利子は紗枝という偽名をこの店で使っている。だが、客もそれが本名でないことを十分承知しており、決して名前で呼ぼうとはしない。

ただ、人妻であることを彼女に意識させるように、「奥さん」、と呼ぶだけである。この店は、マッサージを施す女性店員全てが人妻、というのが売りであった。

「奥さん、今日は最初から服を脱いでもらおうかな」
その指示に対し、江利子が動揺を見せることはなかった。ベッド上にうつぶせに横たわる男の後方で、淡々とマッサージの準備を進めている。

「最初から、でしょうか・・・・・・・」
「ああ。たまにはいいだろう、そういうのも」

人妻の姿を見ようとはせず、男は枕に顎を乗せたまま、目を閉じている。既にスーツから、安っぽい白色のガウンに彼は着替えている。

「かしこまりました・・・・」
背後で人妻が制服を脱ぎ始める気配がする。男はそれを想像するだけで、股間を硬くさせる。

酔った勢いでこの店に飛び込んだのが、先々週のことだった。その夜に初めて勤務するという人妻店員を、彼は指名した。選択用の写真の姿が、あまりに魅力的だったのだ。

美人であり、スタイルが抜群であることは明らかだった。だが、彼女を選択した理由はそれだけではない。その人妻の表情は、明らかに緊張し、警戒心をみなぎらせていた。

男に決して媚びることなく、あくまでも頑なに自分の世界を守ろうとしている。こんな店に勤務することになったのは、よほどの事情があるのだろう。

人妻の写真は、そんな実情を男に教えてくれるようだった。圧倒的な素人の匂いを漂わせるその人妻を、彼は即座に指名し、受付にいた男性店員に驚かれたものだ。

「いいんですか。この人、実は今夜が初めてなんですけどね」
「構わんよ。一目で気に入ったから」

「かなり個性が強いみたいですよ、彼女」
「ほう、どういうことかな?」

「極端に口数が少ないんですよ。それに愛想がないというか、芯が強すぎるというか」
「大丈夫なのかい、こんなところで働かせて」

「マッサージの経験はあるらしいんすよ。お試しで雇ってみただけなんですけどね」
「それはますます興味深い。是非お願いしたいよ」

「まあ途中で何か問題あったら、遠慮なく声かけてくださいよ」
男性店員のそんな忠告を胸に置きながら、男はその日働き始めたばかりという人妻とのひと時を過ごした。そして、彼は彼女の魅力に完全に支配された。

既に今夜が3回目だ。会えば会うほど、その人妻の全てを暴きたくなってくる。。老年にさしかかった男の興奮は、かつてないほどに激しく悶えている。

背後で衣擦れがする音が、男の興奮をそそる。不安げな人妻の息遣いが、耳に届く。平静を装いながら、男はそれを待つ。そして、彼の首筋に、そっと人妻の手が伸びてくる。

「では始めます」
冷たく、ためらいがある硬い声だ。人妻の手が、ゆっくりと男のガウンを剥いでいく。巨体を動かしながら、彼は人妻の要請に協力する。そして、ガウンを完全に脱ぎ去る。

トランクスだけになった男の肩に、人妻の冷たい手が置かれる。細くしなやかな指先が、ゆっくりと動き始める。男の疲れた肉体が、人妻の手で優しく癒されていく。

「おお、気持ちいいよ、奥さん・・・・・・」
男は思わず本音を漏らす。それほどに、人妻のマッサージは上質なものだった。人妻が普段、どのような仕事に就いているのか、男は今夜もまた、探ろうとする。

「奥さん、プロのマッサージ師か何かかい?」
「・・・・・・・・・」

「昼間も何かやってるんだろう? どんな仕事に就いてるんだい?」
「別に・・・・・・・、仕事はしていません・・・・・・・」

「じゃあ普通の主婦で、家にいるのかい?」
「ええ・・・・・・」

「この近辺に住んでるんだろう、奥さん?」
「申し訳ございません。プライベートなことはいっさい話すなと言われてますので」

「硬いこと言わずに教えてくれよ、奥さん」
「・・・・・・・・・・・」

人妻の手が、男の背中から腰にかけての肉体を愛撫していく。親指で押すようにしながら、時折体重をかけてぐいと押し込んでくる。10本の指を駆使し、強弱を与えながら揉んでくる。

「なあ、こんど店の外で会おうじゃないか、奥さん」
「お客様・・・・・・・」

男の左腕を、人妻の手が癒していく。ゆっくりと移動していく人妻の指先が、男の手首に達する。そして彼の手のひらを広げ、丁寧に愛撫を繰り返す。

「店には内緒にしておけばいい。奥さんだってたまには旦那以外の別の男に」
「失礼ですが、どちらにお勤めでしょうか」

男の指の股をくすぐるように揉みながら、人妻がクールに質問を投げた。枕の上に乗せていた顎を動かし、男は初めて人妻の姿を見た。

指示されたとおり、人妻は桃色のユニフォームを脱ぎ去っている。薄い水色の、僅かに挑発的な刺繍を施されたブラと、揃いのショーツだけで、その裸体を隠している。

見事に盛り上がった人妻の胸の谷間がすぐそこにある。腰は引き締まり、くっきりとした曲線を描いている。丸みを帯びて張り出したヒップが、男のすぐ横で動いている。

細く長い脚が、まぶしく光っている。今すぐにでもこの人妻をベッドの上に押し倒し、その脚をM字に押し広げてやりたいという、濃厚な欲求が男の下半身に宿る。

だが、人妻の投げてきた意外な質問が、男の冷静さを奪っている。

「どちらにお勤めって、どういうことだ、奥さん」
「随分と立派な企業の、しかも、かなりの役職の方かとお見受けしましたが」

人妻の言葉に、間違いはなかった。世間では十分に一流として通る大企業で、彼は部長職を務めている。それだけに、男は人妻の指摘に言葉を返すことができなかった。

「脅す気かい、奥さん?」
「同じことをお聞きしただけです・・・・」

「・・・・・・・・」
「この店では、お互いに日常のことは語らないほうがいいかと思います」

人妻がそこまで饒舌に話すことを、男は予想していなかった。人妻の新たな一面が、男の興味を更に刺激する。冷静さを装うように息を大きく吸いながら、彼は左手を人妻の腰に伸ばす。

「そうだな。ここでは互いに楽しむことだけを考えよう」
男に力強くヒップを引き寄せられ、人妻は僅かに狼狽の色を顔に浮かべる。人妻の丸みを帯びた美尻を揉みしだきながら、男はその表情の歪みを観察する。

「いけません・・・・・・・」
人妻が腕を伸ばし、男の欲求を制する。男はここはあっさりと手を引っ込めた。この店では、店員に触れることは原則禁じられているのだ。

「腰はまだ痛みますか?」
ここまでのやり取りがなかったかのように、人妻は穏やかな口調で声をかける。

「さすがだねえ。俺の腰が痛かったこと、覚えてるなんて。今日も入念に頼むよ」
両手を使い、人妻が男の腰を力を込めて揉み始める。気持ちよさげに、男が声を漏らす。時間をかけた人妻の行為が、男の我慢をやがて刺激していく。

「奥さん、そろそろ前も頼むよ」
「かしこまりました・・・・・・・」

人妻は、決して男と視線をあわせようとはしなかった。いったんベッドから離れ、お湯に濡れたタオルを用意する。ティッシュと共に、人妻が男の傍らに戻ってくる。

「では、上を向いてもらえますか」
トランクスだけを身に着けた男の肉体を、人妻の両手が反転させる。完全に仰向けになった男の股間が、はっきりと隆起していることに、人妻はしかし、動揺を見せることはない。

無言のまま、人妻の手が男のトランクスにかかる。男がにたりと笑みを浮かべ、腰を浮かせる。冷たく、硬い表情を維持した人妻が、その男の下着を膝までずり下ろす。

男のそそり立つものが、狭い部屋全体の空気を圧する。タオルを持った人妻が、男の胸から腹部を拭き始める。少しずつ下方に移動し、やがて勃起したものを熱い生地で包む。

ううっ、と気持ちよさげに唸りながら、男が声を漏らす。

「奥さん、今日こそ脱いでくれよ」
「申し訳ございません。当店ではそのようなサービスは」
「金に困ってるんだろう? 何か守りたいものがあるんじゃないのかい、奥さん?」

人妻の手の動きが止まる。初めて、男の表情に冷たい視線を注ぐ。ベッド下に密かに隠していた1万円札を、男が手にし、人妻の眼前に差し出す。

「ブラをとったらこれをやるよ、奥さん。店には黙っておいてやるから」
何かに迷うように、人妻の表情が妖しく揺れる。戸惑ったままの人妻の豊かな胸の谷間に、男が折りたたんだ札を強引に挿入する。

足立江利子は、それを拒絶しようとはしない。


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Comment
この女は・・・
シリーズ史上に残るキャラクターですね。
何が江利子をここまでさせるのか、ただ家を守りたいだけでは無いと思うのだが・・・
いずれにしても、このままボロボロに堕ちて欲しいものだ、そう思わせる身勝手な女だよ。
No title
江利子さんがどこまで堕ちていくか楽しみです。できれば最後には乱れまくって欲しいです。
金と地位がある人だからこそ本当の意味で完堕ちさせれる気がします
No title
このマッサージ店の曖昧な業態は、ここまでの展開に
相応しくてドキドキしてます。
客への対応のうちに、江利子の経歴が暗示されるので
しょうか。
幾つもの山場を見せてくれつつ、徐々に江利子の姿が
彫琢されていく展開に、完全に嵌ってしまいました。
長編小説として、ずっと読み続けたいです。

夫が初めてであった江利子の、長い独身時代には、
どんな経験が有ったのでしょうか。
「興奮の視線群に見つめられる」体験は、まだ、
これからなのでしょうか。
毎回ありがとう!
いいです!最高です!私の趣向にぴったりで何も言うことないです。
ただ、定期的に投稿して?
忙しいとは十分思いますが、読者に期待させてる以上、半端はやめてください。
私もすっごい期待してる一人です。

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