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抵抗の果て(33)

2014 03 04
外の暑さを忘れたはずなのに、達樹はTシャツの中で汗ばんでいる自分に気付く。目の前に、隣家の美しい人妻がいる。危険なサービスを売り物にするエステサロンの営業員として。

「江利子さん・・・・・・」
達樹はもう一度、声をかけた。目の前の人妻の瞳には、明らかな狼狽の色があった。だが、こんな店のサービスには慣れていなくても、彼女には確かなプロ意識があった。

「学生さんですか?」
「えっ?・・・・」
「あなた・・・・・、まだ学生さんよね・・・・・・・」

紛れもなく江利子の声だ。しかし、目の前にいる美貌のマッサージ師は、やがて平静さを取り戻したように、クールな口調で達樹に声をかけてくる。

「ねえ、江利子さんでしょう・・・・・・・」
「名前は聞いてらっしゃいますよね」

「・・・・・・・・」
「私の名前は、紗枝ですから・・・・・・」

そう言った人妻が、やや視線を下に落し、表情に一瞬の陰を走らせた。達樹は感じた。江利子が今の台詞で、自分の正体を伝えてくれたのだ、と・・・・・・。

「こちらに着替えてもらえますか?」
紗枝と名乗った人妻が、白いガウンを差し出してくる。達樹は戸惑ったまま、それを持って部屋の片隅にある更衣スペースに行く。そして、鼓動を高めながら、それに着替えた。

「ではここに横になってください」
風俗店はおろか、このような店に達樹は足を踏みいれた経験がない。女性と個室で二人きりになったこともなければ、ベッドで女性の前で横になったことだってない。

増してや相手の女性が、昔からあこがれ続けてきた隣家の人妻なのだ・・・・・・。

「こういう場所に来るのは初めてですか?」
達樹は感じる。江利子として、その質問を自分に投げてきていることを。

「こんな場所になんて、一度も来たことなんか・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

「今日も無理やり悪友たちに引っ張られてきただけで・・・・・・」
「そう・・・・・・・」

「就職も決まってないのに、こんなところに来る資格なんかないんだけど」
「就職、まだ決まってないの?」

正体を明かすように、人妻は真剣な口調で達樹にそう聞いた。促されるまま、ベッド上にうつぶせになりながら、達樹は彼女の顔を見つめた。緊張をはらんだ沈黙が訪れる。

「うん・・・・・・、ずっとやってるけど、もう駄目かな・・・・・・・・」
「そんなことないわ・・・・・・、あきらめちゃ駄目よ・・・・・・・・」

そこまで言ってから、人妻は何かを後悔するように達樹から視線を逸らし、後方をを向いた。普段とは全く違う調子でしゃべりすぎる自分に戸惑ったかのように。

うつぶせに横になったまま、達樹は会話が途切れた室内の空間に鼓動を高めた。江利子にマッサージされることを想像するだけで、彼は男としての自分を思い出さずにはいられなかった。

女性との交際経験もない。勿論童貞だ。理髪店に行った際に、そのサービスの一環として江利子にマッサージされたことはある。それだけで、達樹は密かな興奮を感じていた。

「江利子さん・・・・・・・、やっぱり帰ります・・・・・・・・」
達樹は、緊迫した空間に耐えられないように、そう声を漏らした。人妻はしかし、答えを返そうとはしない。既に覚悟を決めたように冷静な表情を取戻し、再びベッドのほうを向いた。

「全身マッサージでよろしいですよね」
「江利子さん・・・・・・・」

枕に顎を乗せ、達樹は覚悟を決めたように目を閉じた。江利子のことを忘れ、懸命に他のことを考えようとする。そんな学生の肩のあたりに、人妻の指先がそっと触れる。

「始めますね・・・・・・」
江利子の愛撫が開始された。理髪店でされたのとは、全く異なるタッチだ。羽毛のように微妙な感触を伝えられるだけで、全身に震えが走る。

少しずつガウンが剥がされていく。上半身をやがて裸にされ、背中から腰のあたりを丁寧にマッサージされていく。目を閉じた達樹の耳に、江利子のかすかな息遣いが届く。

強く体重をかけ、手で押さえる度に、江利子の息が僅かに乱れる。他のことを考えることなどできやしない。達樹は枕を握りしめながら、懸命に唇を噛んだ。

江利子はどんな表情で施術を与えているのだろうか。江利子にとって、いったい自分はどんな存在だったのだろうか。年の離れた弟のような存在、それとも・・・・・・・。

「では仰向けになってもらえますか?」
既に背中、腰そして両腕への愛撫が一通り終わったようだった。ガウンは既に腰のあたりにまで下ろされている。達樹はしかし、このまま上を向くわけにはいかなかった。

「江利子さん・・・・・・、駄目だよ・・・・・・・・・」
「どうされましたか?」

自らのものがどのような状態になっているのか、達樹は勿論自覚している。女性を知らない20代前半の青年としては、当然すぎるほどの反応だろう。

「必要ないっておっしゃるのなら、無理は申しませんが・・・・・・・」
江利子の声には、寂しさと安堵が混在しているように聞こえた。このまま去ったほうがいいに決まっている。達樹はそう思う一方で、傍らに立つ江利子の気配を濃厚に感じた。

桃色の制服を着た江利子の姿が、うつぶせになったままでも、視界に入ってくる。膝上のスカートからは、眩しく輝く美脚が伸び、達樹を妖しく誘惑している。

達樹は、生まれて初めてといっていいほどの、昂ぶりを感じていた。激しい興奮を感じながら、それを隠すという行為が、次第に無意味なものに思えていく。

「じゃあ・・・・・、お願いします・・・・・・・・・」
達樹はためらいながらも、自分から体を反転させ、仰向けになった。

江利子は何の言葉も発しない。トランクスを突き破るほどに、目の前の青年のものが硬くなっていることに、その人妻は勿論気付いているはずだった。

達樹は江利子の瞳を見つめた。膨らんだ胸元、くびれた腰、丸く張ったヒップを見つめた。首筋は白く、すべやかに光っている。人妻の謙虚さを示すように、髪は丁寧に束ねられている。

達樹に見つめられ、人妻は明らかに狼狽していた。かすかに震える手で、達樹の胸元から引き締まった腹部のあたりを撫でてくる。その指先が下に行くたびに、達樹は股間を硬くする。

「江利子さん・・・・・・・・」
達樹は思わず、人妻の手首を掴んだ。その瞬間、彼女は小さく首を振った。

「駄目よ・・・・・・・」
その声は、明らかに相手を達樹と意識して発せられたものだった。

すぐに人妻を抱き寄せるほど、達樹に経験もなければ度胸もない。だが、若々しい興奮が激しくたぎっている。達樹は江利子の手首を掴んだまま、彼女の瞳を見つめ続けた。

何かと葛藤するように、人妻の潤んだ瞳は妖しげに揺れている。江利子の夫、正則の姿が達樹の脳裏を走る。その瞬間、我にかえったように、達樹は手を離す。

「いいの、達樹君・・・・・・・」
江利子が初めて、達樹の名を口にした。

「この部屋にいるときは、外の世界のことは何も考えなくていいの・・・・・・」
「江利子さん・・・・・・・」

息が詰まるような沈黙の後、言葉を発したのは江利子だった。

「達樹君・・・・・・、私を助けて・・・・・・・・・」

全ての迷いを達樹は捨て去った。江利子の背中に腕を回し、強く抱き寄せた。仰向けになる達樹の胸元に顔を埋め、江利子はしばらくの間、動こうとしなかった。

胸が濡れていることを達樹は感じる。江利子が涙を流していることを、彼は知った。

江利子の頭を慣れぬ手つきで懸命に撫でる。やがて江利子が覚醒するように顔をあげ、達樹の胸元に唇をそっと押し付けた。そして、二人は再び見つめあった。

「江利子さん・・・・・・・」
ためらいながら唇を重ね、二人は初めてのキスに溺れていった。やがて、人妻の右手がゆっくりと下に移動し、若者のトランクスの中に滑り込んでいく。

私を助けて・・・・・・・・

その夜江利子が発した言葉を、宮地達樹は生涯忘れることはなかった。


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Comment
No title
サスペンスじゃないから想像をかいてもしょうがないけど、江利子さんの今の現状ーマッサージ店で働いているーは、小野田に脅されて、なんて思ってみた。
達樹君、江利子さんに筆下ろしですか。イイですね。
ついに…
次の客とは達也君だったのね…。もうドキドキがとまらない。

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