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抵抗の果て(37)

2014 03 12
終電車はひどく混みあっていた。

大半が酔客のように見える。会社員、OL、学生、その誰もが素面ではないようだ。周囲に気を配ることもなく、まるで酒場の延長のように、大きな声で会話を交わしている。

そこに混雑が加わっている。朝の通勤電車のように、皆が押し合って、どうにか車両内に収まっている。信号機の事故の影響で、直前の何本かが運休になった影響もあるらしい。

宮地達樹もまた、何とかそこに 乗り込んだ1人だった。自宅の最寄駅までは数駅の距離だ。最終電車は各駅停車であり、時間もそれだけ余分にかかる。

彼は酒に酔ってはいなかった。だが、それ以上に深く酩酊しているといってもよかった。ついさっきまで過ごしてきた時間が与えてくれた刺激が、若い肉体に濃厚に刻み込まれている。

別方向に家がある友人たちとは、駅で別れた。だが、達樹は一人ではなかった。

激しい混雑の車両中央にまで移動を余儀なくされた彼のすぐそばに、一人の人妻が乗車している。二人の体はほぼ密着しているといってもよかった。

人妻のすぐ背後に、若者の肉体がある。前を向く人妻は、それに気付かぬ風に平静を装っている。満員電車である以上、二人の肢体が密着していることに不審を抱く客はいない。

動き出した電車の中で、若者は人妻の肉体の感触から逃げることができなかった。意図的に密着しているわけではない。この状況では、どうしてもそうならざるを得ない。

「ごめんなさい・・・・・・・・」
「いいわ。こんなに混雑してるんだから・・・・・・・・・・」

背後から詫びる若者に対し、人妻は前を向いたままささやいた。彼女の許しに甘えるように、若者は緊張を解き、車内の揺れに身体を委ねていく。

人妻のヒップに、股間が密着する。柔かで誘惑するような人妻の肉体の刺激が、いやでも伝わってきてしまう。2度も満たされたはずのそこが、またも力を回復してくる。

その変化が人妻に伝わっていることを、若者は確信する。だが、体を逃がすこともできない。それどころか、安定を求めるには、目の前の人妻の肢体にしがみつく必要さえある。

人妻の肩に手を置き、力を込める。それを許すのか、人妻が僅かに後方の若者にもたれかかるような態度を示す。若者の手が移動し、指先が人妻の胸の膨らみに僅かに触れる。

誰も見ている人間はいない。車両中央の混雑で、完全に死角になっている。若者は大胆に手のひらで人妻の乳房を包み、優しげにその膨らみを揉みしだく。

ブラに包まれた胸の感触が、先刻とは異なる興奮を若者に伝える。何度も丘陵を愛撫し、その先端の突起を察知する。手のひらで押すように、豊満な胸全体をいじめてやる。

立ったまま、人妻が瞳を閉じる。そのままの体勢で、若者は手のひらの運動を続け、股間を人妻のヒップに更に摺り寄せる。人妻が唇を軽く噛むような仕草を見せる。

あっ・・・・・・・・・

人妻がそんな声を漏らしたような錯覚を、若者は感じ取る。

危険な戯れが、最終電車の中で繰り広げられていく・・・・・・。

************

この商店街に来るのは随分久しぶりのことだった。

もう半年にもなるのだろうか。男は当時の記憶を、鮮明に思い出す。僅か半年の間に、様々な変化が起こった。当時とは違う会社の名刺を持っている自分が、どこか滑稽に感じられる。

解雇された以上、他に移るしかなかった。行先に困ったわけではない。だが、選択肢が豊富だったわけでもない。結局は似たような会社で、似たような仕事しかできやしない。

ヤクザな商売に変わりはないのだ。初めてこの商店街に来たあの日のように、彼は立ち止り、ラクダのイラストが描かれた煙草を胸ポケットから取り出す。

深夜の商店街。人通りもほとんどない。ぼんやりとした街灯に照らされた自分の姿が、名も知れぬ店のウインドウに映し出されている。

老けたもんだぜ・・・・・・・

真夏だというのに、くたびれたスーツ姿で一日動き回った自分の姿。そこに映っている人間には、もはや人生の楽しみなど、何も残されていないようにも見える。

いや、そうじゃない・・・・・・、まだ楽しむことだってできるだろう・・・・・・・

首筋に残る古い傷跡を撫でながら、男はガラスに映る自分自身につぶやく。そう、しけた人生に僅かでも刺激を与えようと、その可能性を感じて、この商店街に俺は戻って来たのだ。

1人の人妻の記憶が、この半年の間、彼の脳裏から離れない。数多くの女を抱き、自らの手で満足させられなかった女はいないと自負している彼にとっても、あの人妻は格別だった。

もう一度接近してやろう・・・・。ずっとそう考え続けてきたが、それを決行することはなかった。自分の本質に意外な真面目さが横たわっていることを、男は苦々しく感じている。

脅迫しようと思えば、いくらでもできる。写真だってあるのだ。だが、卑劣な行為をする自分を、彼はどうも許すことができなかった。やはり、バーター取引でないと面白くない。

おいおい、何をこだわっていやがるんだ、俺は・・・・・・・・

自分自身の頑固さに苦笑しながら、彼は再び歩き出した。別にそこを目指しているわけではない。だが、自然と足はそちらに向かっていく。

「暑いな・・・・・・・・」
酷く蒸す、真夏の夜だ。人通りの絶えようとしている商店街を、彼はゆっくりと歩く。

別に今夜の目的はない。ただここに来て、状況を知りたいと思っただけだ。あの店が、依然と変わらずに営業を続けているのかどうか。

「確かあそこだな・・・・・」
闇の中、視線を遠くに投げながら、煙草を靴でもみ消したときだった。背後から接近する男女の声が、彼の耳に捉えられた。

「じゃあ全く目処はないのかしら・・・・・」
「うん・・・・・・・、もう見つからないよ、今からじゃ・・・・・・・・・」

「そう・・・・・・・・・・・」
「就職できるのなら、もうどこだっていいんだけど・・・・・・・」

「ねえ、私に何かできることがあれば、いつでも言ってね、達樹君・・・・・・・・」
「大丈夫・・・・・・、江利子さんには関係ないことだから、自分で何とかするよ・・・・・・」

シャッターの閉まったある店の物陰に巧みに隠れ、男は2人を先に行かせた。そして、声がぎりぎり捉えられる距離を維持し、そっと尾行した。

「遠慮しないでいいから。何か相談事があれば、ちゃんといいなさい。いいわね」
「本当に姉さんみたいなんだから、江利子さんは・・・・・・・・」

男がふざけた様子で、横にいる女性の腰に腕を絡める。どちらからともなく、二人は手をそっと繋ぎ、そのままで歩き続ける。

そして、二人は目的地に到達した。

「おやすみなさい・・・・・・」
「ええ。おやすみなさい・・・・・・・・・」

別れの言葉を交わしあい、互いの家に入ろうとする二人。だが、男は再び身を反転させ、背後から女性に抱きついた。別れを惜しむような男の態度に、女は困惑をしている。

「駄目よ・・・・・・・・・・」
戸惑う女性の唇を男が強引に吸う。闇に包まれたまま、二人は濃厚な口づけを交わす。

やがて、女性が男の体を強引に引き離す。そして、逃げるような風に、自宅の中に駆け込んだ。立ち尽くした男も、しばらくの後、自宅の中に姿を消した。

二人の家は、隣同士であった。

「バーター取引、成立か・・・・・・・・・」
再び取り出した煙草をただ口に咥えたまま、小野田が笑みを浮かべている。


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Comment
No title
江利子さんのキャラクターがとても
好みです。

是非、長編でお願いします。
今回は・・・
今回の展開がこの年では理解できないよ。
たんぽ良すぎて ついてけないです。とは言っても 読み続けますけどね。
なるほど
そう来ましたか!

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