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抵抗の果て(44)

2014 03 31
「彼」の気配を感じる。4人の男たちに好きなようにいじめられ、裸体を震わせていた人妻の姿を、「彼」はどこかから確かに見つめていた。

だが、男たちが立ち去ったのと同時に、その視線の気配は消えていた。江利子はそれを感じながら、しばらくの間、洗い場の片隅でぐったりと横になっていた。

食事の時間・・・・・・・

男たちは、そんな言葉を口にして、ここから立ち去った。部屋に戻った自分に、いったいどのようなセッティングがされているというのだろうか。

そこには恐らく「彼」が待っているのだろう。江利子はそんなことを想像するだけで、肢体に与えられた熱を思い出さないわけにはいかなかった。

立ち上がり、改めてシャワーで裸体を濡らす。男たちに塗られた白いソープの名残を完全に洗い流し、再び温泉に向かった人妻は、湯煙に隠れるように裸体を沈めていく。

もはや、誰かがここに来ることはない。江利子にはその確信があった。男たちの行為で妖しく刺激された肉体を、江利子はもう一度清めたいような気分だった。

だが、そのお湯に浸かったことには、もう一つ理由があった。江利子はただ、部屋に行くのが怖かったのだ。自分がいったいそこで何をされ、どんな反応を示してしまうのか・・・・。

それを想像するだけで、少しでも長くこの秘湯の中に浸かっていたいと思った。今一度、ゆっくりと時間をかけて肉体を温め、邪念を全て綺麗に取り除くのだ。

裸体に手を置き、そっと指先を動かす。それだけで、肉体がいつも以上に敏感に反応することを知る。何かを欲しがっている。江利子は懸命に、理性を取り戻そうと試みる。

夫の姿を想起する。そして、懸命に守り続けてきた、理髪店のことを考える。あの店だけは、決して手放すわけにはいかない。自らの抵抗の起点がそこにあったことを、江利子は思い出す。

店を守り続けようとしたことが、「彼」との出会いに導いかれるきっかけだった。そして、「彼」こそが江利子にとっての抵抗の象徴に成り代わった。

抵抗の果てに、いったい何が待ち受けているのか。その答えが、江利子にはおぼろげながら、わかり始めている。エステ店での勤務を開始した時、既に確信めいた予感はあった。

今は亡き、両親の姿が江利子の脳裏に浮かぶ。肩まで湯に沈んだまま、江利子は母親の姿を思い出し、瞳を熱くさせる。そして、自らにその「覚悟」を問いただしてみる。

これが最後の夜・・・・・・・。

瞳を開き、江利子は遂にそこから立ち上がった。

岩場に投げ捨てられていたタオルを拾い上げ、裸体に巻く。想像通り、広い露天風呂のエリアには他に誰もいない。今夜、この宿には、やはり他の客は滞在しないのだろう。

4人の男たちに与えられた記憶が、いつしか消え去ったような気がする。ドアを開き、江利子は脱衣所内に入った。照明が眩しいその空間には、やはり誰もいなかった。

脱ぎ去った浴衣を再び手にしようと、折りたたんで入れたかごに歩み寄る。だが、江利子はそこで気付く。確かにそこに置いたはずの浴衣と下着が消え去っていることを。

「いったい・・・・・・・・」
戸惑った人妻の視線に、すぐ隣に置かれたかごの姿が捉えられる。

きちんと折りたたまれた服が、そこにあった。江利子はそれを手にし、広げてみた。上質の生地でできた黒色のノースリーブのワンピースが、照明のもとで妖しく輝いている。

その色と呼応するように、同じ黒色のブラとショーツが、中に隠されている。だが、ワンピースの中にあるにはそれだけではなかった。江利子はそこに、「彼」のメッセージがあることに気づく。

それを見るまでもなかった。江利子は既に察していた。この服を身に着けることを求められていることを。一瞬、何かを感じ、江利子は周囲に視線を走らせる。だが、そこには誰もいない。

タオルで湯と汗を拭った裸体を、人妻は下着で隠していく。大胆なカットが施されたその下着は、江利子が持ち合わせている他のものとは、明らかに異なる雰囲気を漂わせていた。

脱衣所の鏡に、黒色の下着に包まれた裸体が映し出される。娼婦のように挑発的な自分の姿に、江利子は困惑を覚え、視線を逸らす。そして、黒色のワンピースを手にする。

肩から二の腕が露わになった、ノースリーブスタイル。江利子の身長を想定したかのように、そのスカートは膝上の短い丈しか備えていない。

背中のジッパーを上げ、江利子は鼓動を僅かに高める。そして、かごの中に、何か光るものが置いてあることに気付く。銀色に光る、チェーン状のネックレスだった。

少し迷った後、江利子はそれを手に取った。アクセサリーを身に着けるような習慣が、江利子にはほとんどなかった。慣れぬ手つきで、人妻はそれを首に巻く。

黒色のワンピースに、銀色に光るネックレスが浮かび上がる。露天風呂の脱衣所にはあまり似つかわしくないその格好が、江利子にその夜の異質さを伝える。

髪を整え、もう一度鏡を見つめる。化粧も施されていない、生身の人妻の姿がそこにある。もはや、前に進むしかない。江利子は表情を硬くしたまま、脱衣所を出た。

すぐそこに掲げられた時計が、午後7時になろうとしていることに気付く。廊下を歩く女中の姿もない。静寂に包まれた長い廊下を、江利子はゆっくりと進んでいく。

「彼」と再会する瞬間が近づいている。その気配を濃厚に感じながら・・・・・。

やがて、部屋にまでたどり着いた。ドアの前の廊下には、夕食の膳を運んできたと思われる台車が置かれている。ドアは大きく開かれ、何名かの女中が忙しそうに出入りしている。

「奥様、お帰りなさいませ。いいお湯でしたでしょう?」
「え、ええ・・・・・・・」

声をかけたのは、玄関で、そして温泉前の廊下で出会った、中年の女中だった。江利子は軽く会釈をしてそう答えながらも、思い出したように彼女に質問を投げた。

「私の連れのものはもう来ていますか?」
「まだのようでございます」

「まだ、ですか?・・・・・」
「ええ。でも、他の皆様は既にお部屋でお待ちでいらっしゃいますよ」

「今、お風呂で私が一緒だった方たち、でしょうか・・・・・・・・」
江利子の言葉に、女中は意味深な笑みを浮かべ、小さくうなずいた。そして、何本かのビールと酒を部屋に運び入れるために、再び姿を消した。

部屋の中を覗く。スリッパが4名分、そこに揃えて置かれている。裸体に伸ばされた男たちの手の感触が、なまめかしく人妻の肉体に蘇り、妖しく揺さぶってくる。

「奥さん、そんなところでお待ちになってないで。さあ、どうぞ」
江利子の姿を確認したのか、部屋の中から一人の男の声が届く。

スリッパを脱ぎ、江利子は恥ずかしげに室内に入った。テーブルが置かれ、膳が並んでいる。江利子はそれが、5名分であることに気付く。

室内には、浴衣姿の4人の男がいた。皆、先刻までたっぷりと江利子の体を苛め抜いた連中だ。並んだ二人が向かい合うように座り、テーブルの一端に誰もいない座布団が置かれている。

「奥さん、こちらにどうぞ」
いざなわれるまま、江利子はそこに進み、腰を下ろした。そして、刺さるような男たちの視線を感じ、耐えきれないように顔を下に向かせる。

「シックな格好もよく似合いますね、奥さん」
惚れ惚れするような声色で、一人の男がつぶやく。肉感的に盛り上がった人妻の胸元に、男たちの視線が集中する。剥き出しの腕が、恥ずかしげにほの赤く染まる。

「早速始めましょうか」
女中が立ち去った部屋には、四人の男と一人の人妻だけが残った。ビールの乾杯と共に、夕食が始まった。山菜から海産物までそろった、豪華な食事だった。

「奥さん、お酌をお願いできますか?」
しばらくの後、遠慮ないトーンで、男たちが江利子に要求を投げた。

食事を僅かに済ませただけで、江利子はそこから立ちあがった。そして、男たちに求められるまま、その体を移動させ、ビール或いは日本酒をかいがいしく提供し始めた。

無言のまま、男の手が江利子のヒップに伸びる。膝で立ちながら、ビール瓶を傾ける江利子は、抵抗することもできない。ただ好きなように、その美尻を一人の男に撫でられる。

次々に男たちの手が、江利子の肉体に容赦なく襲い掛かる。隣に来て座ることを人妻に要求し、眩しく輝く剥き出しの二の腕を撫で、胸の膨らみをワンピース越しに手で確認する。

膝の辺りでスカートを引き上げるように動かし、太腿を露わにさせる。酔いが進み、夜の闇が濃くなっていく。男たちの行為が、次第に大胆さを増していく。

「奥さんも飲んでくださいよ」
お猪口になみなみと注がれた日本酒を手に、男が江利子の肢体を拘束する。

「い、いえ、私は結構ですから・・・・・・・」
「そう言わずに。気持ちよくなりますよ」

人妻の肩に手をまわし、強く引き寄せる。他の3名の男たちが興味深くその姿を見つめる。キスを求めるように人妻の頬を掴み、そしてそこにお猪口を密着させ、酒で唇を濡らす。

「本当に・・・・・、ううんっ、いやっ・・・・・」
強引に人妻の唇を開かせ、アルコールを注ぎ込む。肉体が芯から火照るのを感じながら、江利子は男たちの毒牙に陥るように肢体を投げ出す。何度かの酒が、江利子の熱を高めていく。

「おい、そろそろお楽しみといこうか」
食事を一通り終わらせ、リーダー格の男がつぶやく。壁の時計は8時半を指している。男たちがいったん、江利子の肉体を解放する。座ったまま、江利子は乱れた息と服装を必死に整える。

「奥さん、服を脱いでください」
「えっ?・・・・・・・・」
「私たちの前で服を脱ぐんです。自分でね」

心地よく酔った男たちの視線が、好色な気配と共に人妻の肢体に注がれる。だらしなく浴衣を乱し、欲情を露わにした獣たちを前に、江利子はすぐに立ち上がることができない。


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