FC2ブログ

夫の秘密、或いは妻の秘め事(42)

2015 02 03
一人の夢遊病者が歩いているようだった。

既に深夜も近い。地方都市の駅からかなり離れたこの場所には、静寂と闇だけが存在していた。春先とは思えないほどに、空気は肌を刺すように冷たい。

ふらふらとした足取りで、夫は妻の後を追った。あの映画館から自分がどこに向かってこの場所にまで来たのか、彼には思い出すことができなかった。

ただ全力で細い路地を走り続けたような記憶がある。何人かの歩行者を突き飛ばしたような感触も残っている。やがて息が切れ、俺はただここを歩いている・・・・・・・・。

「男性に囲まれて公園に行きましたよ」

映画館の清掃員の言葉が、胸を貫いている。そこには拉致という形容はあてはまらないことを、夫は知っている。男たちが強引に連れだしたのではない。

妻の意志が存在しているのだ・・・・・・・。

初めてくる街だ。公園と言われてもそれがどこにあるのかわかるわけもない。夫にはしかし、確信があった。自分が歩いているこの先に、妻がいるはずだ、と。

そして、それは当然のように事実となった。闇の中、人通りも途絶えた細い道を歩いていく男の視線の先に、やがて、ぼんやりとした灯りが見えてきた。

夜の公園特有のどこか妖しげな照明が、一定の空間をぼんやりと照らし出している。意外に広いスペースを維持したその公園には、いくつかの遊具が並んでいた。

滑り台、ブランコ、鉄棒、そしてシーソー。どれも古ぼけた遊具で、金属は錆びついている。だが、昼間は子供たちで賑わうのであろう、そんな雰囲気も漂わせていた。

だからこそ、深夜の今は、妖しげなムードがそこを支配している。昼間とはうってかわって、今は大人がここで楽しむのだよ、と子供たちに告げるように。

「希美子・・・・・・・・」

夫は妻の姿をそこに探した。だが、誰もいない。周辺を取り囲むように、木々が生い茂っている。夫は息を潜めてそこを歩いた。だが、やはり妻はいないようだ。

「この公園ではないのか・・・・・・・」

そう思った時だった。あきらめたように視線を逸らした彼は、その建物の存在に気付いた。滑り台の向こう側に、ひっそりとそれは建っていた。

公衆トイレ

くたびれた遊具群とは一線を画すように、それはかなり新しい建物であった。闇の中でも、そのクリーム色の建物が、まだそれほどの時間を経験していないことが男にはわかった。

まさか・・・・・、とは思った。だが、大人たちが秘め事に興じるのであれば、これほどに恰好な空間はないであろう。誰にも見られることなく、存分に大人の時間が過ごせるはずだ。

だが、公の空間であることは明らかだ。そこは、犯罪との境界線を既にまたいだ向こう側にある空間のようにも思えた。妻がそのリスクを覚悟でそこにいるというのか。

強烈な喉の渇き、そしてたった今全力疾走を終えたばかりのような息苦しさを覚えながら、夫はゆっくりとそこに近づいた。そして、入り口の前に立ち、耳を澄ました。

何も聞こえない・・・・・・・・。だが、彼はそこで納得しようとはしなかった。何かがそこにあることを、彼は本能で感じていた。彼をこの公園に連れてきた、その本能だ。

迷わず彼は、男性トイレに足を踏みいれた。ぼんやりとした弱い光だが、しかし、新しさを裏切ることのないような、信頼の置ける光線が、中に明るさをもたらしていた。

誰もいない。だが、個室はどうだ・・・・・・。夫はそこに並ぶ3個の空間を見つめた。

ドアはどれも僅かに開いている。まるで、彼を誘うかのように。個室内にまでは明るさは達することなく、そこには闇だけが待ち構えているようだった。

物音一つしない。一つ目のドアに近づき、そこをそっと開いた。鍵はかかっていない。洋式トイレのそこには、誰もいなかった。ためらうことなく、彼は隣のドアに近づいた。

二つ目、そして最後。同じだった。そこには彼以外、誰もいなかった。

ほら、どうするんだ・・・・・・・・。心の中で、挑発するような言葉が響く。このまま立ち去って、ホテルに帰るか。それとも、残された空間を念のため、確かめてみるのか。

外に出た夫は、しばらくの間、そこにたたずんだ。駄目だ・・・・・・・、犯罪者になりたいのか、お前は。そこに一歩でも踏み入ったならば、お前は完全にアウトだぜ・・・・・・・・。

「あっ・・・・・・・・・・・・・・」

そのとき、かすかな声が、確かに夫の耳に届いた。それは、彼が足を踏み入れることをためらっているその空間の中から聞こえてきた。迷いが消え去り、狂気だけが夫を支配した。

そして・・・・・・・。

中にはやはり、3個の個室が並んでいた。様子は先刻とは明らかに違っていた。一番奥の個室のドアが、ぴたりと閉ざされている。手前の2個は、大きくドアが開放されていた。

確かに漏れ聞こえてきたはずのあの声は、妻の悶える息だった・・・・・・。夫は茫然とした様子でそこに立ちつくし、ぼんやりとした明るさの空間の最奥部を見つめた。

何者かが唸るような、密かに息を乱すような、そんな気配が聞こえてくる。いや、聞こえてくるような気がする。再び夢遊病者の足取りを思い出した夫は、すぐ手前の個室に入った。

固くドアを締め、洋式便座に蓋をして、そこに座る。このドアを開けられたなら、俺の人生は終わりだ。夫にはしかし、そんな理性にこだわるつもりは毛頭なかった。

耳を澄ませ、すぐ隣の個室内の様子を探る。依然として、熱い息吹を思わせるような妖しい空気が、そこに漂っている。壁をじっと見つめ、やがて夫は見つけた。

覗き穴・・・・・・・・・。

そうとしか形容できないような、僅かな穴がその壁にあった。便座に座った人間を考えているように、視線の高さもまさに符号する。

張り裂けそうな胸の鼓動を感じながら、夫はその壁に目をこすりつけた。

・・・・・・・!

妻がそこにいた。あの黒いコートだけを裸体にはおっている。狭い空間に、妻は立っていた。背後に立つ男に片手で口を塞がれ、もう片手でコートの前を大きくはだけられながら。

そこにはもう一人の男がいた。妻の背後に立つ男と同様、彼は既に全裸であった。全身をかがめながら、妻の豊かな美乳にしゃぶりついている。

塞がれた口の向こう側から、妻の、ううんっ、ううんっ、という苦しげな、しかしどこか快楽の気配を漂わせた官能の息が聞こえてくる。男の両手が妻の下半身を撫でまわしている。

「奥さん、脚をあげろ」
前に立つ男の要求に従い、妻は左脚をあげる。ハイヒールを履いたままの足先を、妻は便座のふたに載せた。コートの下で妻は、自ら大切な箇所を見せつけるような格好となった。

たっぷり乳首をいじめた後、男がひざまずいた。そして、妻の内腿にそっと舌を這わせていく。背後の男が、妻の口を塞いでいた手を離す。妻は、しかし叫び声をあげることはない。

男の口が妻の剥き出しの股間に接近していく。コートを荒々しく広げ、妻の美脚の根元に舌先を運ぶ。隣室から夫が覗き見しているともしらず、妻はそれを男にそれを許す。

「舐めますよ、奥さん」
「早く・・・・・・・・・・・・・、早くしなさいっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

瞳を閉じたまま、妻が男に命じるように声を発する。背後の男が妻をさらにきつく後方から拘束する。前の男が妻のヒップを愛撫しながら、突然に目の前の蜜唇に吸い付く。

「ああんっ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
背後の男にもたれかかるように、妻の全身が快楽で震える。

隣室の夫は、右手を伸ばし、再び己の興奮を追求し始めている。


(↑クリック、励みになります。凄く嬉しいです。次回更新、2月10日予定です)
Comment

管理者のみに表示