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刻み込まれた快感(9)

2015 04 01
「書き続けてください、朱里先生」

耳元でささやかれた早川の声は、いつもの彼と変わらぬものだった。

いったい何が起こったのか、朱里にはまるでわからなかった。背後にいる早川がかなり自分に接近していることはわかったが、首筋に触れたのは彼の体ではないようだった。

一度与えられた感触が、まるでこだまを残すように肉体全身に拡散し、刻み込まれていく。姿勢を正して座ることを強いられているだけに、それは朱里には一層強い刺激となった。

「早川さん・・・・・」
「先生ですよ、私は」

思いがけず言葉を鋭く返してきた早川の声に、朱里は室内の空気が変わったことを感じた。そこには、いつのまにか、妙に妖しげな緊張感が漂い始めていた。

あの日、台所で中学生に押し倒されたときに感じたのと同じ雰囲気だ。

「先生・・・・・、あの・・・・・・、何か私にしましたか?」
朱里は筆の動きを止め、前を向いたまま、背後にいる彼に聞いた。

「何をしたかわかりますか?」
「わからないから聞いているんですが」

しばらくの沈黙の後、早川は答えを教えることなく、再びささやいた。

「書き続けてください、朱里先生」
「わかったわ」

朱里が再び神経を集中させ、筆を動かしたときだった。先ほど首筋に触れたものが、また朱里を襲った。離れるか離れないかの距離を保ち、それは細やかに、ゆっくり動き始めた。

何なの、これ・・・・・・・・・・

ぞくぞくと震えるような感触。あるいはくすぐったさ。朱里は懸命にそれを無視し、半紙に筆を走らせ続けた。だが、冷静な筆さばきは少しずつ狂いを見せていった。

僅かに朱里の手元が震え始める。妙な感触は朱里の首筋を何度もゆっくりと往復した後、耳に向かった。朱里は、かつて感じたことのないような「揺らめき」に包まれた。

「待って・・・・・・・・・・」
思わず、朱里は声を漏らした。声を出さずにはいられないような気分だった。

「書き続けて、朱里先生。練習中ですよ」
妖しい感触が、耳をくすぐるようにうごめく。正座した脚を、朱里は僅かに動かし、その妙な気分を解放しようとする。やがて、それは再び首筋を下降し、鎖骨の辺りに達する。

そのとき初めて、朱里はその正体を知った。

それは、朱里の商売道具、書道の筆であった。

早川は、使われた形跡のない真新しい筆を握り、その毛先で朱里の素肌をくすぐるように動かしていた。その毛先が今、朱里のなまめかしい胸の谷間に向かっている。

「早川さん、あなた、そんなもので・・・・・・・・」
「思いつきです、朱里先生」

普段の素直さを見せるように、早川は朱里の耳元で恥ずかしげにそうささやいた。だが、すぐに自分の立場を思い出したのか、朱里が思いもしない要求を口にした。

「服を脱いでください」
「ちょっと待って・・・・・・・・・・」
「これが私の教え方ですから。今は私に従ってもらいます」

朱里は、彼がスマホにあの映像を記録していることを思い出した。少しの間、戯れに付き合えば、彼はそれを消去してくれるのだろう。朱里は、当初そう思っていた。

その戯れが、今、想定外の方向に走り始めている。だが、朱里は抵抗するのではなく、もう少しだけ、彼に付き合うことを選択した。

何よりも、あの映像が夫や近隣の住民、生徒たちに拡散することがこわかった。早川はそんなことをする男ではないことを確信しているのだけれど・・・・・・。

「失礼します」
早川がささやきながら、指先を朱里の胸元に伸ばす。人妻の肉体には触れないようにしつつ、シャツのボタンを上から順に、ゆっくりと外していく。

白色のブラに包まれた朱里の乳房が少しずつ露わにされていく。

朱里は無心を貫いた。彼に何をされようと、姿勢よく座り、筆を握り続けた。目の前の半紙を見つめ、本当に教師に背後から見つめられていることを想像し、筆を走らせていった。

やがて、時間の感覚が失われていった。そうさせたのは、あの筆先の感触だった。

腹部、脇腹、腕、そして胸元。時間をかけて、それは震え、動き続けた。触るか触らないか、何とも微妙な距離感を維持したまま、毛先は朱里の素肌を犯していった。

何度も肢体を震わせ、朱里は握っていた筆を机の上に落とした。汗ばんだ肢体をもじもじと動かし、耐えきれず、いつしか膝を崩していた。

全身を走り抜ける震え。下半身から拡散してくる湿った熱の予感。

唇を噛み、朱里は懸命に声を抑えた。いや、抑えたつもりだったが、最後には叫ぶような懇願の喘ぎを彼に向かって発してしまったような記憶もある。

ハアハアハア・・・・・・・・・

駄目っ・・・・・・・

もう許してっ・・・・・・・・・・・・・・・

気づいたとき、朱里は和室に一人、残されていた。シャツのボタンをはだけ、何とも淫らな格好で机に伏していた。ブラを奪われた形跡はなく、下半身も服装に乱れはない。

「私、いったい・・・・・・・」

夢を見ているようだった。だが、朱里は、早川が去り際に残した言葉を、確かに覚えていた。

「朱里先生、ごめんなさい・・・・・・・・。もう、ここには来ませんから・・・・・・・・・・・」

彼はそう言うと、朱里の目の前でスマホを取り出し、そこに記録されていたあの日の映像を消去した。朱里が想像した通り、彼は裏切るような人間ではなかったのだ。

机に伏せたまま、朱里は熱を帯びた肢体を感じていた。

額にまで汗が浮かび上がっている。

ここまで熱くなった肢体を、朱里は知らなかった。

ふらふらと立ち上がり、朱里は浴室に向かい、熱いシャワーを浴びた。

大切な部分が、戸惑うほどの状態になっていた。

シャワー室で一人、人妻は再び息を途切らせた。


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