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刻み込まれた快感(33)

2015 08 21
外山のアパートを訪れた夜の記憶が、朱里を支配している。

何年振りかに、立派な青年の姿に変貌して姿を現した彼。

玄関先で彼を見た瞬間、朱里は過去に密封したはずの出来事を想起した。

書道教室の生徒であった彼は、あのとき、まだ中学生だった。

台所で突然彼に押し倒され、唇を奪われた朱里。

服が乱れるほどにもみ合っているうちに、それまで気づかなかった何かに目覚めてしまったように、自分から舌を絡めてしまった記憶。

だが、そんな記憶のかけらの存在にもかかわらず、再会の驚きと懐かしさ、それにたくましい青年となった彼の爽やかな外見が、朱里には安堵を与えていた。

その紙片を渡されるまでは・・・・・。

どうしてこの子がそれを知っているのか・・・・・・・。

夫と私の人生を狂わせた、あの「感触」。

長い年月をかけて軌道を戻し、平穏な日々をこうして取り戻したというのに。

会わないわけにはいかない。

だが、人妻がそう簡単に、夜の街に一人で外出できるわけもない。

「あなた、教室にお子さんが通ってらっしゃる親御さんに急に呼ばれてしまったから、少しだけ出かけてくるわ」

見え透いた嘘に思えたが、帰宅した夫は全く疑うことなく、それを信じた。

「また何か相談でもしたいっていうのかい。大変だな、朱里も」

確かに以前、似たようなことはあった。生徒の親が、子供の素行について少し相談させてくれ、と突然連絡があり、急遽その自宅を訪問したのだ。

両親や学校の教師には反抗的な一方、書道教室の朱里だけには従順だ、という理由で、親が相談を持ちかけてきたのだった。

「前とは違う子の家なんだけど。すぐ帰れると思うわ」

約束の午後10時より2時間ほどもまえに、朱里は自宅を出た。

メモで指示されたアパートは、朱里の自宅から歩いて20分程度の場所だった。

住宅街の真ん中で、人通りは少ない。午後8時を過ぎたばかりであったが、周辺は静寂に包まれていた。

古いアパートであった。自転車置き場が外にあり、数台が乱雑に並んでいる。寒々と錆びついた階段をあがれば、靴が鳴らすコツコツという深い音が闇の中に響く。

実家があるはずの外山がなぜこのようなアパートに住んでいるのか、朱里は不審を抱いた。

2階最奥の部屋が、指定された部屋だった。廊下は屋外に剥き出しになっている。朱里は、背後の闇の中からここにきている自分を見つめられている気がした。

表札はない。朱里は腕時計を見た。午後8時30分だった。

コンコン。朱里は、何回かドアをノックした。

だが、反応はなかった。

「外山君、柏木です。柏木朱里です」

ためらうことなく、朱里は中に向かってそう言った。

今夜、ここに長居するわけにはいかないのだ。朱里は、何があろうととにかく今日は早く帰るつもりであった。

知りたいことは朱里の側にもあるのだが・・・・・。

中から返事はなかった。約束の時間から1時間以上も前に来たせいだろうか。

いつまでもここに立ち尽くしているわけにはいかない。本当に誰かが見ているかもしれないのだ。

きびすを返し、朱里が立ち去ろうとしたとき。

手首を強く握られ、朱里は素早くドアの中に引きずり込まれた。

ドアが閉められ、施錠される。

外山がいた。

闇の中、朱里は立ったまま、彼に抱きしめられた。

荒々しく唇を吸われた瞬間、朱里の体奥で何かが壊れた。

何年もの間、育んできた緊張の糸が、音を立ててちぎれたような気がした。

求められるまま、朱里はその場で唇を吸われた。

永遠に終わらないと思わせるような、長いキスが続いた。

押し返そうにも抵抗できない、若い男性の腕力。

胸元に伸びてくる彼の手は、もう、中学生のそれではなかった。

胸の膨らみを服の上からまさぐられ、情熱的にヒップを撫でられる。

息を荒げた彼の舌が、朱里の唇を欲情的に責めてくる。

立っているのが苦しいほどの感覚が、朱里の全身を包んでいく。

「必ず先生は来てくれると信じてました」
外山が室内に朱里をひきずりこもうと動く。

「外山君、駄目・・・・・、先生帰らないといけないわ」
息を乱しながら、朱里は何とかそうささやいた。

「今夜、ご主人に抱かれるんですか、朱里先生」
子供だと思っていたはずの彼にそんな言葉を口にされ、朱里は激しく困惑する。

「外山君、そんなんじゃないわ。そんなんじゃないけど・・・・・」
「あの日からずっと待っていたんです、先生」

外山の腕に力が入る。

激しく乳房を揉みしだかれ、首筋に舌を這わされていく。シャツが乱れ、闇の中に白い肌が浮き上がっていく。

「いけない・・・・、外山君、今夜は駄目・・・・・・・・・・・・」
朱里は、思わずそんな言葉を口にしてしまう。

「では、今度はいつに来てくれますか」
「それは・・・・・・、約束なんかできないわ・・・・・・・・・」
「先生の秘密・・・・・」
「・・・・・・・」

朱里は、何も言うことができなかった。何か言えば、秘密の存在を肯定してしまうことになりそうな気がした。

「先生に任せます」
「えっ?」
「決心がついたら、ここに電話してください」
「決心・・・・・・」
「僕の筆おろしをしてくれるっていう決心です」

電話番号を渡された朱里は、その後、どうやって自宅まで帰ったのか、はっきりと覚えていない。外山の言葉だけを、夜道でただ反芻していただけなのかもしれない。

「なんだ、随分早かったな」
自宅で朱里を迎えたのは、罪のない夫の優しい言葉であった。

その夜、外山に指摘されたとおり、朱里は夫に抱かれた。

いつも以上に妻が乱れたことに、夫は果たして気づいたのだろうか。

午後2時。書道教室が間もなく始まる。

リビングでぼんやりと座ったまま、朱里は携帯電話を見つめている。

明日から1泊で急な出張が入ったとの連絡が、夫から数分前に入った。

明日の夜・・・・・・・。

激しい葛藤が、朱里の体奥で渦巻いている。

決心がついたら・・・・・・

決心などつくわけがない。

しかし・・・・・・

朱里はその番号を指先で追った。


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Comment
p(^-^)qお疲れさまです
ベッドでいつも以上に乱れたこと、ご主人は気づいていると思います。それに、随分早く帰ってきたけど、衣服が多少乱れていたことも(^^ゞ

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