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刻み込まれた快感(完)

2015 09 11
「おめでとうございます」

「過去の会長賞受賞者は、皆さん、一流の書道家として各界で活躍されています」

「テレビ番組など、芸能の世界に進出される方もいらっしゃいます。先生はそれだけの美貌の持ち主ですから、既に大手芸能事務所から声がかかっているとも聞きますが」

「先生は幼少の頃から書道に親しみ、いったんこの世界から離れ、ご結婚後、自宅で書道教室を開くという形で再び筆を持たれたそうですね」

都心にある大型ホテルの広大なパーティー会場。

入口にはこうあった。

「第51回 流泉書道展 各賞授賞式会場」

中央にあるテーブルに、会場にやってきたマスコミのカメラが集まっている。まぶしいフラッシュが焚かれるその中心には、この会場の主役である、最高賞の受賞者が立っていた。

46歳の人妻であるらしい。

素人であり、平凡な主婦であったはずの彼女は、今夜を境に人生を一変させようとしている。

マスコミの連中は、一人の女性の人生のターニングポイントが今、この瞬間であることを、独特の嗅覚を通じて理解している。

そして、彼らは本能で感じていた。

ここにいる人妻は、何か特別な魅力を併せ持った女であると。

一流の書道家と認められたその技量だけではない。

46歳の人妻は、男たちを妙にそそる魅力を備えていた。

美しく整った理知的な表情と、見事なスタイルを維持した長身の肢体。

そこには、選ばれたものだけが持つ、磁力があるように思えた。

「そんな一度に質問をされても困りますわ」

大胆に胸元を開いたドレスを着た人妻は、己の肉体の魅力を十分に自覚しているようだった。

恥ずかしげに顔をうつむかせながらも、その瞳には自信と、野心があった。

いい女だ。そこにいる誰もが、そう感じているようだった。

「先生、ご主人は今回の受賞については何と?」

「いやですわ、先生だなんて」

謙遜する人妻の表情を、カメラが執拗に追う。

テーブルを何重にもとりまくマスコミ、そして来場者たちの好奇の視線が女に注がれる。

豊かな胸の谷間が、彼らを誘うような影を作っている。

「突然、先生様、か・・・・・」

喧噪のテーブルから距離を置いた場所で、一人の男が立ったままたばこをふかしながら、辛辣な視線を人妻に投げかけている。

40代後半だろうか。くたびれた上着にデニムという格好は、明らかに会場内では浮いている。

No Smoking とのサインボードを気にもしない。

「おや、珍しいね、文ちゃん。こんな文芸の会場に。来る場所間違えたんじゃないのかい?」

「間違えてなんかないさ」

声をかけてきた男にまでたばこを勧めながら、文ちゃんという愛称で、とある業界では著名なカメラマンは、再び向こうにいる人妻を見た。

「あれかい、文ちゃんのお目当ては?」

「ああ」

「いい女だよな、素人にしては。美魔女、美魔女って騒いでいる芸能崩れの女など、足元にも及ばんね。ありゃ、本物だよ」

「・・・・・」

「文ちゃん、何かたくらんでるね。まさかあの奥さんをヌードにでもさせてまた写真誌に売り込む気かい?」

「今回は、裸以上に写真誌には高く買ってもらうさ」

ほくそ笑むように顔を歪ませ、彼は煙草をもみ消した。

「ネタをつかんだんだよ」

「ネタ?」

「ああ。あの女、過去にある殺しに絡んだことがあるってね」

「殺しだって?」

「それだけじゃない。人妻としては、許されるべきではないネタも、な」

「なんだい、面白そうだな。どこからのリークだい、文ちゃん?」

「身内からの告発だよ。もっとも至近距離にいる身内からの」

そのとき、テーブル付近にざわついた空気が流れた。

「おっと、何か動きがありそうだ。すまんな、またな」

「おい、文ちゃん、ちょっと待ちなよ、何だい、殺しってのは! 身内の告発ってどういう意味だい?!」

その声を無視し、彼はカメラを隠し持ちながら、さりげなく集団のそばに近づいて行った。

そこでは、主役である人妻が、やや困惑した表情で立っていた。

「先生どうしましたか。先生にとって、この筆はどんな存在でしょう。特に難しいことを聞いているわけではないですが」

筆を握らされた状態で、人妻は言葉に詰まっている。

そのとき、傍らにいた若いハンサムな男が声をあげた。スーツ姿の彼は、非難するようにカメラの放列を見た。

「すみません、この辺りで終了とさせてください。彼女も少し疲れていますので」

「おい、待ってくれよ」

「まだ質問有るんだけどね。先生、その美貌が今回の審査に影響を与えたとの声をどう思いますか?」

「あなた、失礼ですよ」

人妻の前に立った若者が、厳しい視線を声の主に注ぐ。

カメラマンたちが不満の表情を浮かべる中、若者は強引に人妻の腰に手をまわし、会場内の裏手にある控室に去っていく。

「さあ、先生行きましょう」

小さくうなずいた人妻は、彼に抱きかかえられるようにしながら、皆の前から辞去していった。

「なんだい、もう少し写真をとりたかったんだが」

「あの若造、誰だ?」

「彼女の塾を手伝ってる男らしいが、案外、芸能事務所のスタッフかもな。既に触手を伸ばしてるってこともあり得るぜ」

「しかたない、そろそろずらかるか」

集団が少しずつ分散され、別の受賞者たちのテーブルに、或いは出口にと散っていく。

だが、彼だけは、密かに人妻の後を追った。

連れて行かれる人妻が、若者と指先を絡めあっていたことを、彼は確かに見た。

控室のドアには鍵がかかっていない。その先には更にドアが有り、個室スペースが潜んでいることを彼は過去の取材経験から既に知っている。

控室に忍び込み、もう一つのドアに近づく。誰にも見られてはいない。向こう側の個室に、二人がいることを、彼は確信している。

物音ひとつしない。

彼は、辛抱強く、待った。何かが起こる。彼は、本能で感じている。

やがて、それが聞こえてきた。

人妻の泣き声・・・・・。彼は、初め、そう思った。

だが、違った。

もっと原始的で、動物に近い、それは「牝」が奏でる悦びの喘ぎだった。

「あっ・・・・・、あんっ・・・・・・・・・・」

「朱里さん・・・・・・・・、ここですか・・・・・・・・・・・・」

「そこっ・・・・・・、外山君・・・・・・・・、あんっ・・・・・・・・・・・」

「こんなに濡れてる・・・・・・・・」

「あっ・・・・・・・、ああっ、いいっ・・・・・・・・・・・」

そっとドアを押し、隙間を作る。

密かにレンズを向け、そして、もう何年も重ねてきた経験を駆使し、盗撮をする。

筆を持った若者が、その毛先を震わせ、人妻の肌をいじめている。

ドレスを脱がされ、半裸になった人妻は椅子に座っている。

「もっと・・・・・・・、もっと筆を動かしなさい・・・・・・・・・・・・・・・・」

大胆に脚を広げた人妻。

細い手首は、椅子の肘掛けに縛られている。

「ああっ・・・・・・・、あっ・・・・・・・・、イクっ・・・・・・・・・・・・・」

美しい人妻が、夫に隠れて別の男に導かれる瞬間。

「汚れ過ぎた罰を受けてもらう時がきた、奥さん」

シャッターを切り続けながら、彼は、告発者の顔を思い浮かべた。




(↑最後までご愛読、ありがとうございました。新作、9月23日に開始します。クリック、励みになります。凄く嬉しいです。)
Comment
お疲れ様
完稿お疲れ様でした。37の内容からいきなりの完は少し唐突感が否めません。読者としたら37の続きをもう少し読みたいと感じるのは私だけでしょうか?

私も小説を書きたいと勉強中ですので最後の方に来るとだんだんと早く終わらせたい心境になる事がままあるので、そんな所でしょうか?

作者さんの作品全てを読ませて頂き、細やかな心理描写や間接的な表現によって読者の想像力を膨らませるタッチに大ファンになりました。

これからも「男をも濡らせる」作品を期待しております
作品お疲れ様でしたp(^-^)q
大きな水害もあったし、リセットの意味で最終回は仕方がないのかな。
「堪忍」の言葉が46才の朱里さんなら似合うと思いました。せっかく4人いるんだから、もっと遊んでほしかったです(^^ゞ
被害に遭われた方も落ち着いたら戻ってくるだろうし新作を読めるのは嬉しいですp(^-^)q
ありがとうございました
作品お疲れさまでした。十年ぐらいに及ぶお話しになりましたね。

今年の夏は本当に暑くて、ただどこにも行けなくて、気分だけでもと思い、前作の希美子さんの海辺での出来事や夏祭りの珠代さんを読み返して、わたしなりの夏を過ごしました。この作品もまた読み返したいと思う作品になれればと思います。殺めるのはなかったほうがよかったかも。作品が窮屈になった気がしてますm(__)m

設定や構想にきめ細やかな表現や描写での言葉のチョイス。選択の連続は、悩みの連続なんでしょうね。作家さんは大変^^;ですね。お身体には気をつけて。新作も楽しみにしています。またコメントしますねm(__)m
告発者が夫であることを祈ります。
こんなクズ女は他に居ないね。
おつかれさまです
次回作期待しています。

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