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LOVE47(1)

2015 09 23
*****プロローグ*****

秋の優しい日差しが、少しまぶしく感じられるほどの午後だった。

遠くから、時折ねじを巻くような鳥の声が聞こえてくる。

存在する音はそれだけだった。

紅葉が始まりつつある周囲の森はどこまでも深く、色濃かった。

木々の匂いで満たされた細い山道に、観光客の姿はない。

「随分空いてますねえ」
「今日は平日だからなあ」

老夫婦は、こうして二人で山に出かけるのが趣味だった。

ゆっくりとした足取りで山を下りてくるところだ。

土の感触を味わい、草木のうつろいを楽しみながら、二人はその日もまた、時を過ごしていた。

午後2時をまわろうとしている。

ふもとまでは、まだもう少しかかる。

「少し急ごうか」
「はい」

まるで若い恋人同士のように、二人は腕をとりあった。

二人の子供は既に独立した。

残された時間を、二人だけでただゆっくり過ごす。

老夫婦には、幸せだけがあった。

少し足を速めたとき、2人の視界に向こうから歩いてくる別の登山客らしい姿がとらえられた。

同じく、男女二人連れのようだった。

やがて、彼らは細い登山道ですれ違った。

「こんにちは」
老夫婦がそう挨拶すると、男性のほうが応えた。

「こんにちは。気持ちがいい日ですね」
「本当に。今から、ですか?」

「ええ。あと、どれぐらいでしょうか」
「そうですね。ゆっくり歩いて1時間くらいでしょうか」

「今日はそんなに混んでないですよね」
「ええ。閑散としていますから、ゆっくり楽しめますよ」

「そうですか。どうもありがとうございました」
「では、お気をつけて」

「お二人も、いつまでもどうかお元気で」

そして、それぞれは別の方角に向かって歩き出した。

二人がどこに向かっているのか、老夫婦には聞かずともわかった。

この先には深遠に透き通った水を湛えた湖、そしてその周囲に広がる、お花畑とも形容できそうな美しい草原があるのだ。

「感じのいい方だったわね」
「ああ。女性の方は恥ずかしそうに下を向いたままだったが」
「はい」

2人の後姿をしばらく見送った後、老夫婦はふもとに向かった。

それから1時間ほど後、すれちがった二人連れのことを警察に聞かれた際、老夫婦はただこう答えた。

「お二人は、とても、とても親密そうに歩いて行かれました」

*******


(↑新作、開始しました。この先どうなるのか自分でも楽しみです。どうぞよろしくお願いします。クリック、更新の励みです。凄く嬉しいです。次回更新9月25日予定です)
Comment
これはまた新しい入口ですね
楽しみにしています。
題名も意味深そうで興味深いです。

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