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LOVE47(2)

2015 09 25
まだ冷めやらぬ興奮が残っている。

会場を後にする多くの人たちともみ合いながら、波多野葉子は1人、歩いていた。

九段下への坂道を下りていく途中、玉ねぎの形状のような大ホールの屋根の中心を見つめる。

あの下で、本当に実現したのね。

自分がそこにいたことが、葉子にはまだ信じられなかった。

44年ぶりの再結成なのだ。

まさか、そんなことが現実に起こるなんて。

だが、実現したのだ。

オリジナルメンバーが44年ぶりに集結したそのコンサートに、私は本当に参加したのだ。

冬の冷えた空気を感じながら、葉子は思わず笑みをこぼした。

他人が見たら、変に思われるかもしれない。

だが、周囲も皆、興奮を隠しきれない様子で騒いでいる。

しかも多くの客が、私より年上だ。

きっと、彼らの現役時代を知っている世代、つまり、アラカン世代の人たちなのだろう。

うらやましいわ・・・・。

47歳の葉子は、そのグループが現役で活動していた記憶が勿論なかった。

だが、何とか間に合ったのだ、私だって。

至福な気分が、葉子の整った顔立ちを何度も笑わせる。

もう長い間、こんな気分になったことはなかった。

家庭には、そんな話題はもう久しくなかった。

「私だって、少しは楽しんでもいいわよね」

地下鉄の駅に向かう緩やかな石畳を歩きながら、葉子はそうつぶやいた。

だが、すぐに現実と向かいあうことになった。

突然、頭上から冷たいものが落ちてきたのだ。

「やだ。雨降るなんて言ってなかったじゃない・・・・」

それは、季節外れのスコールのように、瞬く間に勢いを増した。

周囲の群衆もまた、大半が傘を持っていないようだった。

「きゃあ!!」

まるでコンサート会場にまだいるかのように、陽気に叫ぶ女性。

皆が、雨を避けようと、地下鉄の駅を目指して一斉に走り始める。

「もう、最悪・・・・・。走りますか・・・・・・・」

葉子もまた、バッグを頭上にかかげながら、周囲につられるように、駆け始めた。

だが、5メートルほど走ったところで異変は起こった。

「きゃっ・・・・」

雨で濡れた石畳の上で、葉子は見事に滑ったのだ。

細い肢体をしたたかに石に打ちつけ、すぐに立ち上がることさえできない。

「痛っ・・・・・・・・」

頭上からは、どんどんと雨が落ちてくる。

周囲の客に、一人そこにうずくまる女性を気にする者はいない。

皆が、どんどん先を急ぐだけだ。

コートのヒップの辺りが濡れたことを感じる。

どうやら怪我はないが、転んだという事実が、葉子にショックを与えている。

「小学校のリレー以来ね・・・・」

俊足で、中高は陸上部で鳴らした葉子。

自分の年齢を忘れ、すっかり昔のカモシカ気分で走ろうとしたのがいけなかった。

年を取るとイメージ通りに体が動かないというが、どうやら本当らしい。

「47、か・・・・・・」

葉子は脱げたハイヒールを履き直し、何とかそこに立ち上がろうとした。

既に髪もぐっしょりと濡れてしまっている。

「あの・・・・、大丈夫ですか?」

それが、出会いだった。


(↑クリック、励みになります。凄く嬉しいです。次回更新9月28日予定です)
Comment
いよいよ、新シリーズが動き出しましたね。この出会いが、第一話のラストへどうつながっていくのか。次回、楽しみにしてます。

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