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LOVE47(10)

2015 10 20
「夕食済ませて帰ります」

一人娘、理穂から届いたメッセージを見つめ、葉子は小さなため息をついた。

残業が忙しいためか、最近では娘が家で夕食をとることはほとんどなくなった。

いや、残業だけではない。

葉子は娘のある変化に気づいている。

この春に就職して間もなく、娘はある男性と交際を始めたようだった。

詳しいことは、何も聞いていない。

葉子もまた、敢えて突っ込んで聞くようなことはしなかった。

同じ会社の人間なのか。

大学時代の友人なのか。

年上なのか、同年代なのか、或いは年下なのか。

その全てがまだ謎だった。

だが、葉子は、娘の変化に敏感に気づいていた。

平日の夜、どうやら娘は仕事の後に彼との逢瀬を重ねているらしい。

そして、休日もまた、彼に会いに外出しているようだった。

23歳の女性だ。

別に不思議でもなければ、非難することでもない。

むしろ、親としては喜ばしいことなのかもしれない。

だが、学生時代を通じて、ほとんどそんな風に男性と交際したことのない娘が、就職後突然に「彼」と呼べる存在を見つけてしまったことは、葉子にはやはりショックだった。

それに心配でもあった。

娘が、年上の男に騙されているのでは、との妙な妄想。

妻子持ちの男に言葉巧みに接近され、その若い体を弄ばれているのではないのか。

そう、私の主人のような男に・・・・・・・。

「食べないのか?」

そう声をかけてきたのは、その夫本人であった。

波多野直弘は、今日は珍しく、診療時間が終わった後、早くに自宅に戻ってきた。

夕食も外で済ませることが多い夫が、今日は自宅にいる。

葉子はしかし、その理由を夫に聞こうとはしなかった。

もはや、パートナーの行動など、妻にはどうでもよかったのだ。

「少し食欲がないですから。後で簡単に済ませます」

妻の言葉に、夫は不思議そうに顔をしかめただけだった。

妻を心配に思う気持ちは、そこには微塵もなかった。

娘が夕食の席に出ることがめっきり少なくなった今、葉子にとって、この時間は苦痛だった。

47歳になって、まさか、夫との二人きりの食事の時間がこれほどに苦痛になるとは。

結婚前、この事実を聞かされたら、私はどのような決断をしていたのだろう。

新聞を眺めながら、淡々と食事を進める夫の姿を見つめながら、葉子はぼんやりとそう思った。

夫はいったい、結婚後、何人の女性と寝たのだろうか。

私は・・・・・。

私には、そんな経験は一度だってない・・・・・。

だが、勿論、時計を巻き戻すことなどできない。

自分は既に47歳であり、もはや燃えるような恋愛に浸ることなど生涯できないのだ。

一瞬、葉子の脳裏に、昨夜遭遇した彼の姿がよぎった。

その時だった。

玄関のインターフォンが鳴った。

「俺だ」

食事の途中の直弘が、少し慌てた様子で妻を制し、席をたった。

玄関で夫が誰かと談笑し、家の応接に迎えいれる気配がする。

そして、葉子に夫から声がかかった。

「おい、佐伯だ。ウイスキーを頼む」

夫の因縁の相手とも形容できそうな、あの男がまた来たらしい。

だから、今夜は珍しく家に早々に帰宅したのか。

葉子は、どうも好きになれない彼のことを思いながら、酒の支度を始めた。


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